番外編短編・真澄の初仕事
さっそく私は何でも屋をする事になった。屋号は「猫の手」。日本語でそのまま「ネコノテ」だ。日本語の猫の手も借りたいという意味であるが、この村でわかる人はいないだろう。
ちなみにプラムはその優秀さで日本語も軽く話せるようになってしまったが。
リリーの絵を書いてもらい(その代わりに店番や品出しなどを手伝った)、チラシも作った。村人からの評判はまずまずで、さっそく仕事が入る。
牧場近くに住む老人のジミーからだった。ジミーは早くに奥さんを亡くし、子供も王都にいて滅多に来ない。身体に悪く、日曜礼拝にもあまり来れない。
なので、村人からは孤独死を心配されていた老人だった。依頼内容も毎日12時にジミーの家に行って様子を確認、一緒に昼ごはんを作って食べると言うもの。依頼はジミー本人ではなく、王都にいる彼の息子からもらったが、ジミー本人とは初対面であった。
初仕事の日、ジミーの家に行く。
家は、二階建てのレンガ作りそこそこ広くて立派だ。庭も何も育ている様子はないが、オリーブの木が生えていて綺麗だった。立派な家ではあるが一人で暮らすのは寂しいかもしれない。
「ジミー、こんにちわ。依頼されてまいりました、猫の手の真澄です」
「おぉ、あなたがそうかい」
ジミーは、病気と聞いていたが背筋がピンとしそんな老け込んだ印象はない。ただ声は小さく、どことなく内面の後ろ向きさは滲んでいるように感じた。
「じゃあ、お昼ご飯を作ります!」
「そんな、できるのかい?」
ジミーが怪しんでいるのは、もっともである。私は料理は苦手だ。でもこのためにデレクに教わり、スープや田舎パンのサンドイッチ、サラダ、マッシュポテトはマスターした。あと今はピザソースも教わっていてピザ作りもできるよう目指している。
ちょっと緊張しながらも田舎パンのサンドイッチや野菜スープを作る。ジミーの家のキッチンはあまり使われた様子はなかったが、調理器具はそこそこ綺麗に揃っていてスパイスもいくつかあって困らない。
緊張しながらもどうにか料理を作り、ジミーと一緒に食べる。
今日は天気もいいので、庭にピクニックシートを敷きまるで遠足のような形で一緒に食べる。
「美味しい」
「そうですか?よかった!」
どうやらジミーに料理が喜んでもらえたようで、私はホッとする。
ゆっくりと食べながら、ジミーの生活や若い頃の話などを聞く。若い頃は王都の軍隊に入っていたそうで、過酷な経験もおおかったそうだ。
こうしてのんびりとピクニック気分で食事をしながら、過酷な話を聞くのもちょっとシュールで面白い。
「あ、確か軍隊でもこんな田舎パンのサンドイッチを食べたな。懐かしい」
「そうですか?」
思い出の味と似ているようで、私もちょっと目頭が熱くなる。仕事の初日から成功したようで、幸先いい。
「ああ、マスミは思い出ぼ料理はあるかい?」
「うーん、特に無いですけど日本食はたまに食べたくなりますね」
頭の中に寿司、味噌汁、煮魚、天ぷらなどが浮かぶ。もう食べられ無い可能性が高いが、デレクはカフェの勉強の為に日本食も作りたいと言っていた。彼だったらいくつか再現できるかもしれない。
「おにぎりは食べたいですね」
この世界には一応米があるので、作ろうと思えばできる。こんな話をしていたら食べたくなってしまった。
「だったら明日作ってくれよ、そのオニギリを」
「良いんですか?」
「ああ、年寄りも何か刺激がないとボケちまうしな」
「そんな」
意外にも笑って冗談を言うジミーに私は吹き出す。
確かにもう完璧な日本食は食べられなだろう。
でも今はここが私の居場所。美味しいものが食べられなくてもこうして生きていられるだけで十分かもしれない。
明日の仕事もワクワクと待ち望んだ。
「オニギリ楽しみだな」
「ええ、張り切って作ります!」
私はキリッとした顔を作り、胸を張る。こうしてジミーとの時間も静かに穏やかに過ぎていった。
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