4話 この世界でノースキルな私
土曜日のお茶会の日まではまだ時間があった。その間、私は毎日役所に通い、カーラの講習を受けた。
仕事内容は、転移者を保護して、身元の安全を確保するだけではあるが、毎日村を周り転移者がいないかチェックをし、役所に書類を提出する。杏奈先生と私と立て続けに転移者が来たので、基準も厳しくなっているようだ。こんな事をやってる村はコージー村だけなのだともカーラから聞く。
ある時、カーラは熱心に転移者について語ることがあった。
「私は、転移者がこの世界でももう少し住みやすくなって欲しいのよね」
その瞳は真剣そのもので、砂糖菓子のような印象がまるっきり変わってしまった。
「どうしてそう思うの?」
転移者としてはありがたい話ではあるが、意識が高すぎる印象だ。見た目は可愛らしいが、職業意識は強いのかも知れない。あのジェイクとも噂がたつのも頷ける。
「別に転移者だけではないけど、弱者が虐げられる世界は酷いわね。弱者は、結局『本人の努力不足』と言い訳つけられて見捨てられるからね。そんなのどうやって判断しているのかわからないじゃない。病気の人や貧乏人は努力したくても出来ないのに」
カーラは今にも泣きそうだった。
カーラ自身は弱者には見えないが、身内などにそういった人がいるのかも知れないと察する。日本だって一応平等で平和ではあるが、派遣者員などの非正規雇用の待遇はいつも問題になっていたし、「自己責任」という言葉が流行っている時期もあった。私はたまたまスキルがあって食い扶持が稼げるが、いい大学を出たわけでもないし、けっこうギリギリに生きていた。私は英語以外は得意な事はほとんど無い。この世界では私はノースキルであるし、この問題は他人事ではない。
「わかるわ、カーラ。この世の中って厳しいし、人間って生きているだけでもすごいんじゃないかって思う」
「うっ…」
そんな事を言ったらカーラは泣き始めてしまった。美女の涙は美しかったが、この子はやはり何か事情があるようだ。それに見た目と違って感受性が強そうだ。ただの砂糖菓子では無いようだった。
「カーラ、今度の土曜日のお茶会本当に出ないの?」
「それは…」
カーラは涙を抑えながら押し黙る。ジャスミンがカーラをお茶会(という女子会)に誘っていたようだが、気後していたようで返事はまだ無いそうだった。私はこれまでのカーラの様子を見て、とても悪い人間に思えず是非お茶会に来てほしいと思った。
「実は私のいた国、日本で人気があったパンケーキとフレンチトーストを再現してお茶会に出そうと思っているの」
パンケーキはプラムが完璧なレシピを再現してくれて、どうにか私でも作れるようになった。パンケーキは最近クラリッサのお気に入りで、よく作っていた。フレンチトーストは、アイスクリームを使うという手抜き極まりないレシピであるが、こちらも上手く再現できた。この国ではろくなスイーツはないが、もともと王族と繋がりがあるクラリッサの家ではこの世界でも高級品であるアイスクリームが手に入った。
「パンケーキとフレンチトーストね…」
さっき待っで泣いていたカーラだったが、この言葉を聞いて何故か涙が止まった。この村の女達は男性達と比べると比較的、日本でのスイーツに肯定的だった。杏奈先生のマリトッツォも大好評だった事を思い出す。
「なんか食べてみたいわね」
「という事は、カーラもお茶会に参加OK?」
「うん。土曜日のお昼からよね。楽しみよ!」
こうしてカーラのお茶会参加が決まった。同時に転移者保護のテストもクリアし、来週から仕事もスタートする事に決まった。
やはりこの世界でノースキルの自私は心ともない。運良く生きているだけだと思う。お小遣い程度の給料ではあるが、新しい仕事が決まった事にホッとし、気分良く役所を後にした。