46話 再び女子会
事件が解決して1週間が経った。
村長は牢屋の中で、素直に警察に事件の全貌を供述しているという。あの様子では、素直に吐きとは思えなかったが、牧師さんが何度も面談に行き聖書の言葉を伝え続け、改心したそうだ。
動機はやっぱり名誉を守る為だった。最初は妻の不倫を何としてでも隠す為だったが、アンジェリカがカーラを殺した事を知り殺意を抑える事ができなかったそうだ。秋には村長選挙もあり、カーラへの気持ちと名誉欲に苛まれ、ついに殺してしまったと語っているという。
カーラの死体はその後、土葬された。
実は転移者で複雑な事情を抱えていたカーラに村人も同情を隠せず、あのマリーやリリーもお墓の前で泣いてるほどだった。
デレクも間接的とはいえ、殺人のきっかけを作った事を深く反省し、クラリッサの家で日々料理の勉強を頑張っていた。さすがにすぐにはカフェは出来ないが、もう二度とこの村の女性に指一本触らないという事ほどだった。
私は、相変わらずだ。
転移者保護の仕事とメイドの仕事を両立し、何か新しい事を探している段階だった。村人の相談をのる仕事も考えては居るが、まだ具体的には何も進んではいない。
そんな中、クラリッサの家の庭で第二回の女子会という名のお茶会が開かれる。今回の参加者はクラリッサやプラムはもちろん、メイジーやジャスミン 、そしてあのキャバ嬢のローラも参加。ローラはキャバクラでの対応に耐えられなくなり、この村に逃げてきた。今は教会で保護されて生活している。
「うわ、こんな料理見たことない!」
ローラはお茶会のテーブルを見て喜びの声を上げる。そこにはピザ、グラタン、ポテトサラダにマトトッツォもある。全てデレクの手つきりで、この村のはない料理だ。
「本当、美味しそう!」
メイジーも嬉しそうな声を上げる。
こうしてお茶会が始まる。クラリッサはプラムに食べすぎるなと釘を刺されていたが、事件が解決した解放感の聖歌いつもよりプラムも甘く、クラリッサも美味しい料理を楽しんでいた。
「ところでメイジー、仕事がどうなったの?雇い主が逮捕されてしまったのよね」
ジャスミンは心配そうにメイジーを窺う。
「それは大丈夫ですよ。再就職先きまりました」
ジャスミンの心配そうな顔と打って変わってメイジーの表情は晴れやかだ。あの日、村長に殴られ怪我を負ったが、すぐジェイクに処置をされ大した事なく済んだ。
「ダニエルのところで働く予定です」
「ダニエルって誰?」
村に来たばかりのローラはダニエルについて知らなくて当然だろう。新しく王都から越してきた王族関係者である。さっそく牧場近くの空き地に家がたつ予定だ。ダニエルはもともと国政に関わっていた事もあり、秋の村長選挙にも立候補予定である。あの村長の後釜が誰になるか気を揉んでいたが、ダニエルだったら大丈夫だろう。この問題も良いところに着地したようである。
「給料もよくて、ダニエルは良い人です。村長の仕事から逃げられて本当によかった」
この事件で一番得したのはメイジーかもしれない。以前と比べて肌艶が良くなり、生命力も回復したようである。
「本当によかったわね、メイジー」
ジャスミンがそう言い、一同は安堵の笑顔だ。いくら殺人事件になれているとはいえ、それは日常と言える事だろう。やっぱり何もない日常が一番である。
「このグラタン本当に美味しいわ」
クラリッサはすっかりデレクの料理を気に入り、目じりを下げていた。
「やっぱりマスミの世界には美味しいものがいっぱいあるのね。いつか言って見たいわね」
「そんな馬鹿な事は言わないでくださいよ。病気はよくなったとはいえ、また悪化しますよ」
夢もたいな事を言うクラリッサにプラムがツッコみ、一同は再び笑いに包まれる。
「でも、こんな美味しいと太っちゃうわよ」
ローラはちょっ困ったようにピザの耳を齧る。今日のローラもスッピンで髪の毛も一つに纏めただけだが、やっぱりあの派手な格好よりいいと私は思う。ローラの今後についてはまだ何とも言えないが、とりあえずあの水商売から足を洗えて良かったと思えてならない。彼女はカーラと同じくこの職業には疑問を感じているようだったし。
「だったアナのジュースがおすすめよ」
私はここぞとばかりにアナのジュースを勧めた。
「アナのジュース?」
ローラが言う。この中でローラが一番アナの事は知らないだろう。私は健康や美容にいいフレッシュな果物や野菜にジュースを作っているアナの事を説明する。説明というよりプレゼンだ。熱っぽくアナのジュースを推す。実際、肌も綺麗になったし、体重も痩せたので説得力があるだろう。
「なにそれ、すごくいいじゃない!」
ローラははじめ、歓喜の声を上げる。どうやらこのプレゼンは受け入れられたようである。タピオカのせいで打撃を受けたアナにジュースもとりあえず安泰だろう。
「だったら、このピザやマリトッツォをいっぱい食べても大丈夫ね」
クラリッサがイタズラっ子のような笑みを浮かべている。こうしてみるとアビーとジーンにそっくりである。
「それはダメですよ、クラリッサ。毒を食べていくらそに後薬を飲んだとしても毒は毒です!」
いつものようにビシッとプラムが言う。こうして見るとクラリッサとプラムは、漫才のようでわたしはつい笑ってしまう。事件が解決した安堵もあるのだろう。笑いが止まらない。
「ちょと、マスミ笑いすぎよ」
いつまでも笑っている私にさすがにクラリッサも呆れていた。
「でも、まあ事件が解決してよかったわよ」
この事件で一番得したメイジーがしみじみと言う。
「またこのジョシカイ開きましょうよ。今度は今日仕事で来れないリリーやアナも誘って」
「賛成!」
ジャスミンの提案に一同は、拍手して受け入れた。次のジョシカイもとても楽しみだ。
私はいつもより少し日差しが柔らかい空を見上げ、殺人事件も何も起こらな日常を噛み締めた。




