42話 胃袋を掴まれたら負けです
今日の夕飯は、デレクが全て用意した。カフェを作りたい希望のある男だし、料理人の勉強もしていたという。
私もプラムも料理の準備はせず、優雅にクラリッサとブラックティーを飲みながら夕食を待つ。
「事件の調査はどう?マスミ」
クラリッサに問われ、メモをめくりながら事件調査の進捗を報告する。
「たぶん、デレクのキッチンワゴンを壊したのは村長です。カーラの事件について関連があるかどうかはまだわかって居ないのですが」
「そうね。動機もあるし、デレクへの嫌がらせは村長ね」
クラリッサも私の憶測に同意した。
「村長選挙がもう秋にあるのよね。こんな話を聞くと彼には入れたくないわねぇ」
プラムは渋い顔でブラックティーを啜る。日本で不倫はメディアの印象でカジュアルな印象みされているが、こちらでは重い罪という印象だそうだ。不倫した者は一気に地位や財産を失い、住む場所を言われるケースも少なくないそうだ。やっぱり日本と倫理観は少し異なるようである。
村の女性のファッションも色使いは派手だったりするが、肌に露出は多くなく、お尻の形がわかるスキニージーンズなども無い。そういう意味では倫理観はしっかりしているようだ。婚前交渉もタブーだとプラムに説明される。
かくいう私もそういった事はなく、日本ではモテない悲惨な女扱いだが、ここでは私のような女の方がマトモだそうだ。そういう意味では私はこちらの世界の方が肌に馴染む。
「やっぱり犯人は村長かアンジェリカね。どちらもカーラに脅されたら困る理由がある!」
クラリッサにもそう言われて、私もそのどちらかしかありえないと感じる。
そんな話をしているうちにデレクが夕食を運んできた。
チーズが焦げるいい匂いもする。なんと夕食はピザだった。この村では見たことがないメニューで私は思わず歓喜の声を上げる。ピザはキノコやピーマン、ソーセージなどのトッピングも色鮮やかでとても美味しそうだった。
「この料理何?」
おそらくピザを初めてみるクラリッサとプラムは目を瞬かせている。
「ピザです。日本でもアメリカでもとても人気メニューだ。ね、マスミ」
「ええ。これは絶対美味しいものよ!久しぶりだわ、すごく食べたい!」
私があまりにも喜んでいたし、チーズの匂いも良いので、クラリッサもプラムも早く食べたそうだった。
「では、みんな食べて!ピザソースは一から手作り作ったから自信作だよ!」
笑顔のデレクが、包丁でピザを切り分ける。さすがにピザカッターはないようだ。
「これは、フォークやナイフで食べるの?」
三角形に切り分けられたピザをみて、クラリッサもプラムも戸惑っていた。
「ピザはパンみたいにこのまま手で食べるのが美味しいよ!」
デレクが食べ方を説明し、さっそくみんな食べ始めた。この土地の濃厚なチーズの味と様々なトッピングと、デレクに自信作のピザソースが舌を襲う。久しぶりに食べられた事もあり、日本で食べた以上に美味しい。
デレクの料理の腕も確かである。これだったらカフェもやっていけるかもしれない。というかタピオカ屋は向いていない。ワゴンが壊されてかえって良かったのかもしれない。
「マスミ、めっちゃ嬉しそうな顔。かわいいよ」
「いや、もう私に媚び売らなくてもいいから」
「だって本当にかわいいと思ったんだもん!」
デレクがちょっとぶりっ子っぽくそう言って一同笑いに包まれる。クラリッサやプラムも最初はピザの味に戸惑っていたが、美味しいと笑っていた。
「こんな美味しい食べものがあった何んて。デレク、マリトッツオは別に再現すなくてもいいわ。むこうの世界の料理のカフェを一刻も早く作ってくれない?」
「本当ですか?いいんですか?」
クラリッサの言葉にデレクは驚きで目を瞬かせる。
「ええ。もう決定よ!というか命令あなた、カフェを作りなさい!」
「よかった!」
デレクはちょっと涙を浮かべて喜んでいた。プラムはちょっと複雑な顔をしていたが、ピザは気に入ったようでおかわりもしていた。
デレクの問題はこれで解決そそうで私がホッとする。
しかし、まだ気を抜くわけにはいかない。カーラを殺した犯人は、まだ分かっていないのだ。
おそらく犯人はアンジェリカか村長だ。
一体どちらがカーラを殺したの?
夕食の後、私は今までの事件のメモを見たり、カーラ日記も読み直したが答えは出ない。
そういえば明日は教会のバザーの日だ。前回は手伝ったが、今回は客としていこうと思う。
バザーの日、あのスケベな村長から二人きりで会おうと言われていた。
ちょっと怖いが、この誘いに乗ろう。何か尻尾を出すかもしれない。
自分はうまく話を聞き出せるかはわからないし、推理も合ってるかわからない。でもプラムに貰った怪しいスプレーもある。
無謀だとは思ったが、これに賭けても良いだろう。




