41話 村では噂が広まるのが早すぎる件
その後湖や森を見回った後、牧師さんと別れ、牧場を見回り、役所に報告しに行った。マリーは相変わらず機嫌が悪く、異常なしと言ってもぶつくさと文句を言ってた。こうして応接室に二人きりで居るにも気が重い。
「あなた、知ってる?アンジェリカがタピオカ屋と不倫していたのよ、いやらしいわねぇ」
そういうマリーの顔は噂話に好奇心が隠せない様子で、それはそれで嫌らしい顔に見えた。
「その噂はどこで聞いの?」
「まあ、噂っていうか私が見たのよ。タピオカ屋とアンジェリカが抱き合っているのがね。アンジェリカは骨抜きになってわ、あんなオバさんなのにおかしいわね」
アンジェリカの悪口を言うマリーは生き生きとしていて、とても性格の良い女性には見えない。デレクが金目当てにこんな事をしていた事は決して口外しない方が良いだろう。
「それにしてもタピオカ屋のワゴンが壊されるなんてね。誰がやったのかしら」
私は彼女の噂話に同調するふりをして?何か知らないか探る。本心ではこんな噂話はくだらないと思うが、事件を調査する為には仕方ない。
「村長よ。決まってるじゃない。妻が不倫していて嫉妬したのよ」
「証拠は?」
「ないけど、動機は村長しかないじゃない。アナもタピオカ屋にせいで打撃を受けたけど、今は持ち堪えているし。村長意外あり得ないでしょうよ」
マリーは性格が悪い女だが、一応推理には筋が通っている。マリーの話を聞いていたら村長以外は犯人ではないと思い始めた。でも、これはカーラの事件と関係ある?そもそもあのスケベ親父の村長が妻が不倫したぐらいで、嫉妬するだろうか?
私は少し迷ったが、村長が隣のハードボイルド村のキャバクラに通っていた事を話した。もちろん、カーラがそこのキャバ嬢だった事は伏せる。そんな事を言ったら、このマリーは悪意たっぷりにねじ曲げた噂を村中で広めるだろう。
「本当に? まあ、村長は本当にスゲべ親父ね」
マリーはその話を聞いてキャッキャと笑っている。たぶんマリーは村長の事を嫌っているようだがら、弱味を知れて嬉しいのだろう。全く本当に性格の悪い女である。でもこの村人らしい開けっ広げさや下品さを感じ、特に珍しいことでも無いように感じ始めた。私はこの村に馴染み始めているのかもしれない。
「そんな村長がアンジェリカに不倫されたぐらいで嫉妬に狂うかしらね?」
「それもそうね。でもこの噂で村長の評判はかなり悪くなってるのよ」
「どういう事?」
マリーによると村長はもともと好かれてはいなかったが、給料をあげてくれたり待遇は悪くないので仕事ぶりの評判は悪くなかった事を説明した。
「でも、妻が不倫なんてね。恥ずかしい。今度の選挙でも影響あるんじゃない?一応この村の人達は敬虔なキリスト教の信者も多いし。不倫は性的不品行で罪なのよ」
という事は、嫉妬ではなく名誉を守る為に村長がデレクのタピオカワゴンを破壊した可能性も高いだろう。嫉妬よりもあり得る話である。
・村長の評判が落ちている
・その為にデレクに嫌がらせ行為をする可能性はある(実際彼は住む場所を失い、クラリッサに色仕掛けまで始めた)
事件のメモを書く私にマリーは好奇心を抑えきれない表情を見せてくる。
「犯人はわかった?」
「まだ何とも言えないわ」
「まあ、カーラは嫌われてたからね。誰が犯人でもおかしくはないでしょ」
まだ事件の犯人はわからない。でもデレクのキッチンワゴンを壊したのは村長の可能性が相当高い。
この事は事件と関係ある?
まだ謎が解ける閃きは浮かんでこないが、事件の真相には一歩ずつ近づいている手応えは感じた。
あと一歩だ。犯人を捕まえなくては。




