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3話 女子会しましょう

 そんなカーラからの説明を聞き、役所の部屋から出る。


 エントランスの方に行くと、村長がいた。村長は50代ぐらいの男性であるが、頭は禿げ上がり、少々偉そうに大股で歩き部下らしき職員に指示を与えていた。エラがはった顔で、ゴツい印象を与える人物だった。


 カーラは別の仕事だと違う部屋にいってしまったが、村長の態度はかなり偉そうな雰囲気だった。私は元の世界の職場にいた学年主任を思い出し、あまり良い気分にはなれなかった。


 とはいえ、今日はこのカーラの説明を受けるためにメイドの仕事は休んでいいと言われている。久々の休みではあるし、嫌な気分のままでいるのももったいないだろう。


 私は気を取り直し、図書館にでもいこうと思い、役所を後にした。


 役所のそばにある図書館は、二階建てのこじんまりとした建物で図書館というよりは図書室と呼びたくなる場所だ。あまり利用者は多くないようで、今日も司書のジャスミン以外人がいなかった。


「ハイ! マスミ。カーラから仕事内容は聞いた?」

「ええ」


 ジャスミンは、本の修理をしていたようでカウンターの上には古い本やテープやハサミ、やすりのようなものが置いてあった。古い本が日焼けしてあちこち黒ずみ、独特な匂いが私の鼻をくすぐった。


「カーラはどうだった?」

「ジャスミン、仕事中じゃないの?」

「いいのよ、どうせ休憩入るところだったし、ちょっと話しましょうよ」


 私はカウンターの前にあるイスに座り、ジャスミンと向き合った。


「カーラってあの美人で若い村役場の職員?」


 私は、砂糖菓子のようなルックスのカーラを思い浮かべた。特に問題がある人物には見えなかったが、なぜかジャスミンは渋い顔を隠していなかった。


「あの子は去年から突然村にやってきて仕事しているんだけど…」

「そうなの。ずっと村の人かと思ってた」


 そういえばこの村の人間にしては垢抜けた雰囲気もあるが。


「謎な子なのよね。村長の親戚の娘って言われてるけど、本当かしらね? あんな岩みたいな顔の村長とカーラって似てなくない?」


 言われてみれば、村長とカーラは似ていない。ただ日本人からしたら西洋風の堀の深い顔は、かなり似ている。ドイツ人とアメリカ人の区別がつくか?と問われれば難しい。逆にむこうの人も日本人と中国人の区別はつきにくいだろう。


 私もアメリカに旅行に行った時などは、中国人に間違われ、時には差別的な言葉を浴びせられた事もある。日本人だと知れば、性的な対象に見られセクハラを受けた事もある。日本のAVがかなり見られているようで、悪いイメージがあるようだった。


 それに比べればこの異世界はなんと優しい事か。海外で受けた様々な言葉やセクハラを思い出すと、ありがたいとしか言いようがない。


「カーラは、あんまりこの村で好かれてないのよね。もちろん、嫌われてはいないけど、なんとなく距離があるというか」


 ジャスミンはため息をついた。ジャスミンからカーラへの悪意は感じられない。むしろ何処か心配いるような眼差しだった。


「でも村のコミュニティに入っていくのって結構難しいわよ…」


 私はたまたま杏奈先生の知り合いという事もあり、受け入れられた面が大きいだろう。それに殺人事件を調査していく過程で勝手に仲良くなった面もある。それに関しても私は運が良かったのだろう。確かにカーラのようにずっと役場で仕事をしている人にとっては、なかなか打ち解けにくいのかも知れない。


「カーラって美人じゃない? だから、ちょっとやっかまれている面もあるのよね」

「そうなの?」


 この事については、私は驚いた。どちらかといえばおっとりとした村の面々を思い出すと、そんな感情を持っているような人がいるのか信じがたかった。


「うん。特にジェイクファンのリリーやアナなんかは、面白くないんじゃない?」

「そうなんだ…」


 ジェイクは、この村の医者でかなりイケメンである。ロマンス小説の中の王子様のように顔で背も高い。


 杏奈先生も惚れていたし、そういう私も火事のときジェイクに助けられて一目惚れした。しか、彼は全く女性に興味がないようで医者としてのプライドがあり、健康マニア。


「ちょっと噂でカーラとジェイクが付き合っているっていうのもあったからね」

「嘘!」


 それにも驚いたが、よく考えてみれば美男美女でお似合いである。そんな噂になる理由もよくわかる。


「そのおかげでカーラは余計にこの町に居づらくなってしまったのよね。きっと悪い子じゃないと思うから心配なのよ」

「そうね。何かクラリッサの庭でお茶会でもできるといいわね。日本では女子会っていうのがあってね」

「女子会? なにそれ?」


 ジャスミンは、女子会という言葉に食いつき、前のめりで聞いてくる。


 日本では女子会が流行っていた。流行っているというか定着している。オシャレなカフェや居酒屋、ホテルで女性同士が集まり話したり、食べたり、飲んだりする事だ。「婚活市場では女子会をする女はモテない!」とファッション雑誌に書いてあったが、女性同士のおしゃべり以上の面白いものはないと思う。私も土日はロマンス小説愛好家達と集まってよく女子会を開いていた事を思い出し懐かしい気分だ。この世界にいる事には不満はないが、よく一緒に女子会を開いていたメンバーを思い出すと、少し寂しい気分にもなる。


 ちなみに英語で女子会は、Girls’ gathering、Girls only party、Girls’ talkなどと訳せるが、なんとなく日本語で「ジョシカイ」と言った方がいいと思い、そう使った。下手に英語に訳すより、そのまま日本語でいってしまった方がいい言葉もある。カロウシ、スシ、ツナミ、カラオケ、マンガ、テンプラ、エダマメ、コンニャクなどいう言葉はこのまま日本語で定着してしまい、ネイティブにも通じてしまう。まあ、この土地で日本語が定着する可能性は相当低いカロウシなんて単語は使いたくないが。


「いいわね、ジョシカイ!」


 ジャスミンは女子会の話を聞いて乗り気になった。


「この国は基本的に男女同権なので、意外と女子だけで集まるとかそう言って文化はあんまりないのよね。一度ジョシカイやってもいいわね」

「誰呼ぶ? カーラは来るかしら?」

「大丈夫!クラリッサと相談して、庭でお茶飲みながらジョシカイしましょう!」


 こうしてこの村で初めて女子会が開かれる事に決定した。


 日時は来週の土曜日。この村の住人はほとんどクリスチャンで日曜日は礼拝にいってしまうので土曜日が一番人が集まるだろうという事になった。

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