表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/53

36話 プラムは王子様

 デレクの存在にクラリッサは明らかに機嫌を悪くしていた。


 夕食が終わり一緒に皿や鍋、コップなどを洗ったが無言っで目を釣り上げ、ゴシゴシと鍋の汚れを落としていた。


 一緒に皿にを拭いたり、残飯や生ゴミを片付けている私にもプラムの機嫌の悪さが伝わってくる。


 どちらと言えば真面目で有能ばプラムにとって軽薄で甘い言葉を吐きまくるデレクは水と脂だろう。


 確かにロマンス小説ではこんな甘い台詞を吐きまくるヒーローは多かったが、いざ現実にこんなタイプと直面するとイライラするのも事実だった。人の事は言えないがタピオカ屋も順調ではないし、甘い言葉を言う前に仕事しろと言いたくなる。ロマンス小説のヒーローは仕事出来る設定の男も多いが24時間女(ヒロイン)の事を考えている。


 ロマンス小説の中だったらいいが、現実でそういった男に出くわすとカッコいいとは思えない。女の事には興味がないが仕事の事しか考えていないジェイクやミッキーがとてもマトモに見える。牧師さんについても女に興味が無さそうで仕事が好きそうば男ではあるが?あの人は一体何を考えているのかさっぱりわからない。デレクよりはマシだが、牧師さんは牧師さんで謎な男である。


 あらかた食事の後片付けを終え、キッチンの灯りを落とす。機嫌が悪そうなプラムには極力話しかけるのはやめ、一緒にキッチンからでてリビングに向かう。これからリビングで軽く掃除をする予定だった。さっきここでデレクとクラリッサがお茶を飲みながら話し込んでいたので、たぶん少し散らかっているはずだった。


「ねぇ、クラリッサ。僕の事を信じて」


 リビングに近づくと、デレクの声がした。


「えぇ。でも私だってそんな大金を用意していいものかどうか」


 クラリッサの声がする。明らかに戸惑った声だったが、モジモジとした少女のような恥じらいも含んだ声だった。


「何の話?」


 私はこの二人の声や内容にただならぬ雰囲気を感じた。というかあの時のアンジェリカやデレクの声に似ている気が。


 一方プラムは冷静で、エプロンのポケットから何か取り出した。小さなスプレーのようだが、色は真っ赤で見るからに怪しい。


 そしてプラムは勢いよくリビングの扉を開ける。そこには信じられない光景があった。


 クラリッサとデレクが見つめ合い、キスをしている。クラリッサはすっかり腰砕けになり、デレクに支えられている。クラリッサは本当に茹で蛸のように真っ赤な顔だったが、デレクは冷ややかだった。まるで獲物を狙う狼のような顔で、私の本能は「この男、怪しい! 危険!」と警告を発していた。


「な、なにしてるの?」


 私は唖然となり、そんな言葉しかでない。しかし、プラムはあの怪しいスプレーを思い切りデレクにぶちまけた。そしてクラリッサを守るように前に出る。


「このクソ男!」


 スプレーは唐辛子か何かが入っていたらしい。ツンとスパイシーな香りが広がる。デレクは目が痛い、痛いと大騒ぎそて顔をかきむしりその場に崩れ落ちた。


「このクソ男、死ね! 奥さまに手出しをしたら私は許そませんよ!」


 プラムはそういってデレクを思いっきり踏みつけた。プラムはヒールがありゴツいブーツを履いていたので、踏まれただけでもかなり痛そうだった。


「きゃー、プラムかっこいい!」


 私はあっけなくこのクソ男を捕らえたやっつけたプラムに黄色い声を出してしまった。


 一方クラリッサは夢から目が覚めたようで、「何が起こったの?」とあたりをキョロキョロしている。


 その後、プラムはロープでデレクを縛り上げ、地下室に連れて行った。あっという間の出来事だった。


 私も入った事がない。好奇心に駆られてプラムの後についていく。クラリッサも恐る恐るといった雰囲気でついて来る。


 何と地下室には牢屋があった。


 プラムは手早くカギをあけ、ゴミでも捨てるかのようにデレクを牢屋の中に突っ込んだ。


 そして再びカギをかける。


「助けてよ、プラム」


 デレクは実に情け無い声をあげていた。顔はあのスプレーのおかげで真っ赤の腫れている。イケメンなのにちっともカッコよくなかった。むしろ虫のように見えてしまって気持ち悪い。


「ちょっと可哀想じゃない?」


 こんな姿でもクラリッサはまだ情があるのか、同情していた。


「いいえ。この男はアンジェリカにもキスしていたんですよ。ジゴロですよ、ホストかもしれない!」


 プラムはまだ少しボケているクラリッサに冷ややかの言い放つ。


「アンジェリカにも?」


 ここでようやく完全に目が覚めたらしい。クラリッサは、デレクをキッと睨みつけた。


「どういう事?」


 しかしクラリッサの問に素直に答えるほど、デレクの本性は清く無いらしい。


「マスミ、助けて。可愛い、マスミ」


 この後に及んでも私に媚を売ってきて、ため息が出る。こんな風に息を吐くように人の褒め言葉が出てくるのは悪い事ではないが、完全に使い方を間違っている。この男の軽薄さは持って生まれたものを台無しにしていた。


「うるさい。今日は一日ここで反省して貰いますから」


 プラムは容赦ない。さすが元スパイだけあって、甘いところはないようである。そんなプラムは同性とはいえかっこよく、女子高生になった気分でカッコいいとキャーキャー騒ぎたくなる。日本では女子校で仕事をしていたが、たぶんプラムがあの学校で働いていたらすごく生徒達からモテそうである。


「そんな、助けて。死んじゃうよ」

「今日はここで頭を冷やしていなさい。奥様を傷つけた罰ですよ!」


 プラムが最後にそう言い、私達は地下室を後にした。デレクは、泣き言を言っていたので後ろ髪が引かれたが、プラムは容赦せず無視して地下室の扉を閉め、鍵をかけた。


「ちょっと可哀想ね」


 クラリッサはそう呟いていたが、プラムは少しも同情心を表情にも言葉にも見せない。この女は絶対に敵に回したくないと思わせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ