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34話 楽して稼げる仕事などない

 デレクと共にハードボイルド村を後にした時は、もう夕方だった。


 あの後、デレクとローラはすっかり打ち解けてしまい連絡先まで交換していた。何かカーラについて思う出したらローラ連絡してくれるという。私にはとて出来ない芸当である。


 やっぱりデレクを連れてきて良かったと思う。彼がいなかったらローラは口を開いたかどうかもわからない。やっぱりデレクの人に好かれる才能は素晴らしいと思った。自分にないもので羨ましいぐらいである。


 だからこそアンジェリカと不倫していた事実が残念でならない。私はついこんな事を口に出してしまった。


「あの村長の奥さんのアンジェリカとはどういう関係なの?」


 デレクは、わざとらしい笑顔を浮かべていた。歯磨き粉の広告のげいのうのようの白い歯を浮かべた。そしてその歯が浮くような事を言い始めている。


「マスミは可愛いよ!とっても可愛い!」

「今の話題と関係なくない?」


 唐突に甘いセリフを吐かれてもとっとも嬉しくない。ロマンス小説のヒーローのようなイケメンだが、誤魔化すように素敵な事を言われても冷めるばかちだ。


「アンジェリカも可愛いと思ってるでしょ?」

「うぅ…」


 デレクは口籠もり、また不自然な笑顔を見せてくる。媚を売っているのがありありと伝わってきて、真夏なのに私の気持ちは氷点下にまで下がっている。


 どうやらこの男は、イケメンなルックスや人たたしの性格で世の中を渡ってきたようだ。底の浅さが透けて見えて冷めるばかりだ。


「アンジェリカと不倫なんてやめなよ。デレクだっていいところたくさんあるのに残念だよ」

「いいところってどこ?」

「そうねぇ、人懐っこいし初対面の人に警戒心抱かせないのはいいわね。さっきみたいに人と話し聞ききに行くときは大きな武器だね」

「それは仕事に生かせるかね…」


 褒めてやったのに、デレクは明らかにしょんぼりとしていた。


「接客業ではいいと思う」

「でも僕のタピオカが飽きられるのは、時間の問題だな。僕はローラやカーラを馬鹿にしたり、差別する権利はないよ…」

「そうね…」


 またローラやカーラの事を思い出すと、私の気持ちも沈む。私こそ似たような立場である。たまたま運良く生きているだけだ。


 私の中でだんだんとカーラに印象が変わっていく。


 調べていくうちに嫌な印象も強くなったが、こんな過去があったなら色仕掛けでもして男性に頼りたくなる気持ちだけはわかってしまった。運がいいのか悪いのか、自分には全く色気が無いしモテた事もないのでそんな発想にはならないが。


「生きるのって大変だなー。どっかからお金が降ってわいてくればいいのに」

「ちょっと、デクレ? そんな甘い話はないわよ」


 私は呆れてため息をつく。


 デレクにもいいところはたくさんあるが、こんな風に見通しが甘いところは欠点と言えるだろう。そのおかげでどうも軽薄さが否めない。ルックスは良かったおかげで周囲から甘やかされて育った気もする。


 そんな事を考えながコージー村につく。もう夕方で、あたりは薄暗い。


 クラリッサに屋敷に行く途中も道までデレクと一緒に歩くが、デレクのタピオカのキッチンワゴンは遠くの方に見えたとき、何となく嫌な予感がした。


「ちょっと、デレク。タピオカワゴン変じゃない?」


 遠くでよく見えないが、いつもと様子が違うような気がした。


「え? どこが? とりあえず行ってみるか」


 デレクは呑気だったが、タピオカのキッチンワゴンに近づくと青ざめていた。


「何か? どうしたの?え?」


 私も驚きで声を失った。ピンク色のカラフルなキッチンワゴンは、無残な有様だった。タイヤはパンクし、窓は全部割れて車体はボコボコにされていた。タピオカも周囲に散らばり、思わずカーラの死体を思い出した。


「何なんだよ!」


 デレクは頭を抱えて叫んでいた。夢のように可愛らしいタピオカワゴンはぷない。


 私はデレクの嘆きの声を聞きながら、絶望しか感じなかった。


 これはカーラの事件と関係ある? 犯人は同一人物?


 わからないがタピオカワゴンを壊した人間は強い悪意を持っている事が伝わってくる。この犯人がカーラを殺したとしてもおかしくはないだろう。なぜデレクが狙われたの?事件調査いる私の方が目障りではないの?


 色々な考えが頭を巡るが、答えなど出なかった。

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