32話 ヘブンというより地獄
ハードボイルド村の中心部に駅があり、ここから列車で王都にも行ける。やはり、我がコージー村と違って人の行き来が激しく呑気で長閑な雰囲気はあまり無い。
「どこいく? マスミ」
「そうね、このヘブンっていう店に行きたいんだけど」
あのローラの名刺を出し、駅のそばの地図が書かれた看板を見に行く。
しかし地図をよく見てもそれらしき店が見つからない。
「ちょっと、すみません。お姉さん!」
デレクはどう見てもおばさんといった年代の女性に声をかけた。この国の女性らしく派手目な花柄のワンピースがよく似合っている。
「お姉さん、ワンピースお似合いですね」
デレクがニコニコと甘ったるい笑顔を見せる。さっき飲んだタピオカと同じかそれ以上の甘さである。おばさんがちょっと頬を赤くし「嫌だ、何言ってんのよ」とデレクの肩をどついた。でもおばさんはいい気分にはなっているようで、「なにか困ってる?協力しましょうか?」と手を差し伸べてくれた。
デレクの人たらしっぷりに私はちょっと呆れてしまうが、この世界ではこのぐらいの図太さは必要なのかもしれない。
「このヘブンっていうお店を探して居るんですが、どこのあるか知りませんか?」
私は名刺を見せながら丁寧な口調で尋ねた。
なぜかさっき待っで機嫌がよかったおばさんは、顔を顰めていた。
「このお店は行かない方がいいわよ」
「なんで?」
デレクは相変わらずニコニコと甘ったるい笑顔で質問する。
「あのあたりは治安が悪いのよ…。この店は、キャバクラ。見かけは普通のカフェっぽく見えるけどね、嫌なものね、町にこんな店があるなんて」
おばさんはちょっと言いにくそうだったが、デレクの甘ったるい笑顔に絆されヘブンの詳しい場所を教えてくれた。
「どうする? マスミいく?」
「そうね、ここまで来て帰るのもなんだし、とにかくローラを探しましょう」
治安が悪いだのキャバクラだのきいて、少し不安になるがまだ昼間である。それに今日は、デレクも一緒だ。デレクと一緒に調査をする事は気が進まなかったが、こうなった今はデレクと一緒に来てよかったと思う。
おばさんに説明された通りの道を行き、中心部からごちゃごちゃと細い道を通る。確かに酒場が多く、昼間とはいえ酔っ払いも歩いていて雰囲気は悪い。ゴミも散乱していてカラスがたかっている場所もあり不潔感が漂う。コージー村とは正反対の雰囲気である。
「マスミ、あったよ!」
「どこ?」
デレクが先にヘブンを見つけた。確かに一見すると普通のカフェのような見た目であるが、入り口の側にある張り紙には「のぞき小屋」「ロリコン歓迎」などとも書いてあり、一気に気分が悪くなった。
ここで怖がればか弱いモテる女性なのかもしれない。しかし、私は逆に好奇心が刺激された。
異世界にもこんあキャバクラじみた店があるなんて!
そういえば売春は太古からある職業だと聞いた事がある。いつの時代もどこの世界でも人間は色恋にはかてなのだろう。別にキャバクラのような場所に行かなきてもさっきのおばさんのように、異性に笑顔にときめく事はある。
「誰かいませんか?」
デレクは、大きな声でそう言いヘブンの戸を叩いた。
しばらくして中から派手な化粧の女性が出てきた。美人だったが、肌や髪が痛み、声も酒のおかげか掠れて焼けていた。うらぶれた雰囲気の女性である。
「あんた、誰だ?」
「実は、僕たちカーラの友人なんです。カーラの事知ってます?」
「カーラは私の友達だけど…」
この女は、デレクのニコニコとした感じの良さに、だんだんと警戒心を解いてきたようだ。
「あなたローラ?」
「そうだよ。どこで知った?」
ローラは、私には睨みつけた。露骨過ぎてかえって清々しく思う。
「カーラが亡くなった事知ってる?」
デレクは笑いをおさめ、慎重にいった。
「え?」
ローラはしばらく、受け入れれないとう顔をした後、ボロボロと涙を溢し始めた。
「そんな、カーラがどうして!」
悲痛な叫びに私の胸が痛くなる。
「誰かに撃たれて殺されたようだ。ローラ、何か知らない?」
さっきとは打って変わって真剣な眼差しのデレクだ。
「私達、カーラの犯人を探してるの。私からもお願いです!何か知ってたら教えてください!」
私は頭を下げた。
「でも、そんな…。信じられないけど…」
「これで涙拭いて」
パニック状態のローラにデレクは綺麗なハンカチを差し出した。ロマンス小説のヒーローだったら、指で涙を拭うのだろうが、さすがに人たらしのデレクでもそこまではしなかった。
それでもローラはハンカチを握り、涙をふいた。少し落ち着いてきたようで、私は少しホッとする。
私達は、この治安の悪そうな細い道を抜けて中駅の近くにある子綺麗なカフェでローラに話を聞く事にした。
カフェといっても食文化が乏しいこの世界ではろくなメニューはなく、ブラックティーと田舎パンのサンドイッチを注文した。無愛想なマスターが一人でやって居るよカフェのようで、他に客もいなくて静かだった。ソファもテーブルも落ち着いた茶色で、あまりも眩しくはなく話しやすい雰囲気である。
ローラは目の周りの化粧は涙でグズグズになっていた。この世界の化粧技術も昭和レベルのようで、日本のように崩れにくいものはまだ無いようだった。
「私は藤崎真澄。転移者なの」
「僕はデレク。コージー村でタピオカ屋をしてるんだ」
とりあえず自己紹介をする。ちょうどマスターがブラックティーと田舎パンのサンドイッチを持って来る。日本で売っているようなサンドイッチより具が少なく、生ハムとオリーブオイルの身がはさまっているだけだった。でも素材が良ければこのサンドイッチも美味しいだろう。
「私はローラ。あの、あの店でキャバ嬢やってる」




