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31話 軽薄な男

 今日も転移者保護の仕事をしたが、全く異常はなく手短に役所にいるマリーに報告し、デレクのタピオカ屋に向かった。


 タピオカを飲むためでは無い。


 昨日約束した通り、一緒に隣の村のハードボイルド村にカーラの友達を探しに行くためだった。


「マスミ、タピオカ一杯飲む?」

「いいけど…。ありがとう」


 タピオカをデレクから貰う。彼はフードワゴンの片付けをし、一緒にハードボイルド村に行く事になった。


 久々の飲むタピオカはやっぱりあまり美味しくはない。

 とはいえ、ハードボイルド村にいくのにちょっと歩くし、喉の渇きを潤すのには悪くない。


 隣を歩くデレクをチラリと見上げる。どうやら探偵の真似事ができると子供のようにワクワクしていたが、昨日の濃厚なラブシーンを見てしまったため、何の先入観も持たずに彼を見ることはできなかった。 純粋にアンジェリカが好きで不倫していても金目当てでアンジェリカと不倫をしていても気持ちが悪い。邪気のないイケメンだと思っていたが、意外と闇を抱えて居るのかも知れない。


「ところでマスミの家のクラリッサってどんな人?」

「クラリッサがどうして気になるの?」


 何か嫌な予感がする。タピオカに太いストローでカップの中をかき混ぜながら聞く。


「いや、王族の関係者っていう噂を聞いて。お金持ちなんだ?」

「知らない」


 私はちょっと冷たく言ってしまった。どうもこのデレクは、クラリッサについて知りたがって居るが金目当て?


 クラリッサに被害が出る前にデレクには何も言わないと決めた。


「タピオカ屋は順調?」


 遠くの方にハードボイルド村の中心部にある市場や商業施設が見える。私達のコージー村と違ってハードボイルド村は栄えているようだったって。


「まぁ」


 デレクは言葉を濁し、頭をかく。


「どうしてタピオカ屋始めたの?確かにタピオカは珍しいけど、日本ではけっこうすぐブームは去っていったよ。それにお茶に砂糖をガンガン入れるのも苦手な人多いのよね」


 日本人では甘いお茶は抵抗がないが、アジア人以外の外国人は抵抗があると聞いた事はある。実際日本にいた時の職場のアメリカ人の同僚は、甘いお茶を使ったタピオカは苦手と言っていた。この土地の人たちに味覚はどうかわからない

が、日本でタピオカが流行ったのも大手コーヒーチェーンカフェなどでスイーツ感覚でクリームたっぷりのコーヒーを飲むという下地があったからだろう。


 この国にお茶の種類も少ないし、コーヒーも無いのでタピオカブームは、日本よりも早く終えると簡単に予想が出来る。私だったらいくらこの土地でタピオカが珍しくても、商売をするには慎重になる。いくら日本で人気でも、何のアレンジもせずこの土地で商売しても上手くいくとは限らない。


「まぁ、タピオカは珍しいし…」


 そう濁すように言うデレクは、タピオカがそんな好きでは無いのかもしれない。どうもこの男はイケメンであるが、中見の軽薄さを隠し切れてなく、冷める。例えば、ミッキー、牧師さん、ジェイクに何でその仕事に着いたのか?と質問したら、何時間も語りそうだが、この男にはそう言った人間の中見が薄い気がしなかった。


「マスミこそ、今の仕事どうしてやってるの?」

「まぁ…」


 しかし今度は私が口籠もる。今の自分の仕事は村の人の好意で成り立っている。はっきり言ってい私がいなくても問題ない。事件調査についても無償であるし、仕事とはいえない。杏奈先生のように異世界でカフェを運営して成功する確率は、とても低いと思わされる。杏奈先生は日本の食材を仕入れていたわけだし、完全に自力で稼いでいたといえばちょっと怪しい。


「まあ、人間が自立して生きていくのは大変なんだよ」

「そうね」


 軽薄そうなデレクだが、こに台詞は核心をついている。


「マスミも何か仕事があればいいね」

「そうね。でも村で仕事はあるかしら。っていうか、デレクは自分の心配した方が良くない?」

「そうだね!」


 特に深刻な顔でもなく、むしろ呑気そうな顔でデレクは笑った。


 そうこう話しているうちに甘ったるいタピオカを飲み終え、ハードボイルド村の中心部についた。

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