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24話 野菜ジュースを推します

 今日のクラリッサは、デレクのタピオカ屋に行かなかったらしい。


 夕飯はチキンのハーブ焼き、青菜のサラダ、コーンスープだった。そしてミッキーの田舎パン。料理のおかずの数が多い。


 プラムからはメイドの仕事はしなくて良いと言われていたが、何もしないのも気が引け、食堂に次々と食事を運び、クラリッサとプラムと夕食を食べた。


「どう? マスミ。事件の調査は進んでる?」


 クラリッサは、メモとペンを片手に聞いてくる。行儀は良くは無いが、三人で家族のような食事なので雰囲気は限りなく砕けていた。


「まあ、カーラの日記なんかは見つかりました。お金にも困っていた様で、謎の臨時収入もあったみたいです」


 私も事件のメモ帳をめくりながら言う。


「それは気になるわね。この田舎で仕事なんて無いのに、臨時収入なんて」


 プラムはこの話題に食いついた。


「そうね。泥棒?」


 クラリッサは無邪気に微笑んでいたが、物騒な単語である。しかしこの村の人達の防意識を考えると、それもあり得る気がする。


「まさか。この村でお金を盗まれた人なんて聞いたことないですよ」


 プラムは、クラリッサの言葉をすぐに否定しコーンスープを啜った。


「だったら、脅しじゃない?」

「脅し?」


 クラリッサは作家でミステリを書いているだけあり、ぽんぽんと物騒な言葉が出る。


 私は顔を顰めて田舎パンを頬張った。何も付けずに食べても意外と美味しいものだ。私もすっかりこの村の食事に慣れてしまったらしい。頭に「住めば都」という言葉が浮かぶ。パンだけでなく、この村にすっかり身体が馴染んでいる様である。


「脅しって誰を? カーラが脅していたって事?」


 私はカーラの顔を思い浮かべてみたが、やっぱり脅すような人物には見えなかった。


「カーラが脅しますかね?」


 プラムも首を傾げている。あの砂糖菓子にような女性が、脅したとそても返り討ちに遭うのでは?というか、その為に殺された?


 可能性としては充分にあり得る。


 ・カーラは誰かを脅して殺された?

 ・この村で脅される様な事をしていたのは一体誰?


 田舎パンを咀嚼しながら考えてみたがわからない。こんなヒントをくれたクラリッサもそれはわからないと言う。


「でもお金は人を狂わすからね、マスミ。誰が犯人でもおかしくは無いわ」

「そんなー、返って容疑者が増えちゃいましたよ」


 ミッキー、リリー、アナ、ジャスミンみ犯人だとしてもおかしくない気がしてきた。それに牧師さん。彼もお金に困っていた様だし、何かカーラについて知っていたらしい。胸をときめかせる片想いの相手だが、殺人事件の容疑者かもしれないと思うと、甘ったるい気持ちも冷めていく。


「ところで、クラリッサは今日はタピオカ飲まなかったんですね」


 事件の話題ばかりでも食事が進まないと思い、私は話題を変えた。


「もう、飽きてきちゃってのよね。最初は食感が楽しかったけど」

「毎日飲めば飽きますって。でもこれで、クラリッサの健康も守られてよかtらですよ」


 プラムは喜びが隠せないようで、ちょっと笑いながらチキンのハーブ焼を食べていた。


「まあ、タピオカは飽きますよね。日本でもブームだったんですけど、私もずっと飲んでたら飽きました」

「そうでしょ。美味しいんだけど、飽きるのよね」

 クラリッサは眉を下げて、苦笑した。

「そうなると、デレクは大変ね。やっぱりモノを売るのって大変」


 私はしみじみと呟く。今日見たところデレクのタピオカ屋は人気がなかった。人の事は言えないが、今後彼も努力を強いいられるだろう。


「そうね…。お金稼ぐのってどうしてこんなに大変ねなのかしらね」


 クラリッサは金持ちであるが、現在が作家業で生計を立てている。余計にそう思うようだ。私も現在、村の人の温情で生かされている様なものだ。メイドの仕事もこのままで良いわけじゃない。やっぱり何か新しい仕事を見つけた方がいいだろう。でもどうこの異世界でやって仕事を見つければ良いんだろうか?日本での就活とは桁違いに難しく感じる。


「ところで、マスミ。最近肌綺麗じゃない?」


 プラムがじっと私の顔を見つめる。牧師さんにも今日そう言われたが、やっぱ同性のプラムに見つめられてもそんなにドキドキはしない。


「そう?」

「確かにマスミ、綺麗になった?何かいい化粧品使ってる?」


 クラリッサも私の肌を認めている。


「使ってないよ。リリーのところで買ったローズ石鹸とローズ水しか使ってない」


 化粧品は本当にそれだけである。しかもリリーの店で一番安い化粧品である。おそらくこの村で一番普及している化粧品であるが、日本のものと比べると効力が高いかどうかはわからない。


「私のローズ石鹸使ってますけど、変化ないです」


 プラムはちょっと残念そうに自身のシミやソバカスが浮いた頬を撫でていた。


「やっぱりアナのジュースが良かったのかも。やっぱりそれしか考えられない」


 私はクラリッサやプラムにもアナのジュースの事を説明した。


「何それ、ちょっと詳しく教えて!」

「そうよ、マスミ。教えなさい!」


 この話題にプラムとクラリッサはかなり食いついていた。やっぱり二人とも女性なのだろう。美容の話題は、興味深々のようだ。明日は、二人とも王都の用事がありアナのジュース屋には行けないそうだが、明後日には絶対行くと笑っていた。


 アナのジュース屋は大丈夫そうである。でもデレクのタピオカ屋は大丈夫だろうか?


 人に心配などしている場合では無いが、あのキラキラしたデレクの笑顔を思い返してながら不安がよぎった。

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