23話 牧師さんが怪しすぎる…
カーラの家は、商店街から南へ下り川沿いにあった。古い木造の一軒家で、庭も狭く、家というより小屋といった雰囲気だった。
「本当に勝手に入って良いのかな〜?」
私はまだ不法侵入する事に戸惑いがあった。
「まあ、仕方ない。それにアンナもよく不法侵入して調査していましたよ」
確かに杏奈先生は不法侵入調査をよくやっていた。思わぬ証拠を見つけたりしたと彼女の事件の記録が綴られたノートに書いてあった事を思い出すが。
「でも、鍵かかってますよ。どうやって入るの?」
玄関の扉はドアノブを捻ってみたが、動かない。
「大丈夫。この村の鍵はあってないようなものですから。マスミ、ヘアピン持ってません?」
「まさかヘアピンで開けるの…」
ドン引きしつつも牧師さんのヘアピンを渡す。この村の防犯意識は一体どうなっているのだろうか。こんな治安が悪いのに鍵は適当だなんて。
しかもヘアピンで鍵が空いてしまった。
「やった!」
牧師さんは無邪気に喜んでいたが、果たしてこれで良いんだろうか。疑問に思いつつも、一緒にカーラの家に上がる。
玄関は履き潰した靴やサンダルが散乱していた。部屋も汚い。服や本などが床に散らばり、かなり荒れた生活をそていたようである。テーブルの上にはワインの瓶とチーズの食べカスも放置され、変な匂いもする。どうもカーラは見た目と違い荒んだ生活をしているようだった。牧師さんは、こんな部屋を見ても何も驚いていない。
いくら肝が座っているとはいえ、美女の部屋が汚部屋でドン引きしないのだろうか。何か違和感が私の心を襲う。
「牧師さんってカーラの事何か知っていたんじゃない?」
カマをかけた。
すると、牧師さんは目が泳ぎ私から視線をずらす。明らかに何か隠している。
・牧師さん、カーラについて何か知っている模様
そんなメモを書くと、牧師さんは大慌て。やっぱり何か知っていそうだが、今こここで問い詰めても答えないだろう。
「まあ、この部屋見てもわかりませんね。隣の部屋に行きますか?」
「そうね」
私達は、散乱している床をかきわけ隣の部屋に向かう。
そこは比較的散らかっていなかった。机と本棚があった。まあ、本で散らかっていたがさっきの部屋よりはマシだ。
机に上には、聖書、家計簿と日記が置いてあった。聖書はよく読み込まれていて、ぼろぼろだ。
牧師さんはやっぱり少し泣きそうな顔を見せていた。
「カーラはああ見えて信仰心は強かったんですよ。特に詩篇の51篇が好きでね」
牧師さんは机の上の聖書を眺めながら、その箇所を開いて朗読した。聖書をろくに読んだ事は無いのでわからないが、そこを書いた人はかなり自分の過ちを後悔しているようだ。
「わ、家計簿きちんと付けてるわ。こんなだらしない部屋なのに」
私は牧師さんの聖書朗読を聞きながら、カーラの家計簿をまじまじと見る。
かなりお金に困っているようだった。借金をそているようで毎月返済に追われている。わずかな生活費でギリギリの状態だったようだ。カーラがお金に困っているのは事実のようだった。ただ、どこからの借金からは書いていない。
「ちょっと貸して、マスミ」
「ええ」
家計簿を牧師さんに渡す。牧師さんは顔を顰めながら、家計簿を読んでいた。
「マスミ、ここ見てよ。先月から臨時収入でかなりの収入がある」
「本当。でも役所の給料でもボーナスでも無いみたい。宝くじか何かかな?」
「うーん、この国は夏は宝くじないよ。クリスマスの時期だけ王都で売ってるけどね」
牧師さんと私は揃って首を傾げる。この臨時収入は気になる。事件と関係があるかもしれない。
・カーラは貧乏状態だった
・先月から臨時収入?どこからのお金か不明
「日記も見てみよう」
「ええ」
牧師さんは日記をペラペラと目を通していた。なぜかちょっと泣きそうな顔である。
「マスミ、この日記は大きな手がかりになるよ。あとでゆっくり読むといい」
牧師さんから日記を渡される。
ざっと目を通しただけだが、とある男性への恋心が綴られていた。男性の名前は不明であるが、恋愛小説みたいにぐっとくる描写がある。日記によると、カーラは天涯孤独である事や親友が一人いる事も判明した。全部きちんと読んだわけでは無いが、とりあえず牧師さんの目的は達成できたわけである。
「カーラは我々で天国に送ってあげましょう」
「そうね、この日記と家計簿は借りても良いかな?」
「事件調査のためなら、いいでしょう。聖書が私が持っていきましょう。棺に一緒に入れるのが良いでしょう」
これ以上、故人の家に無断で滞在するのも躊躇われ、そそくさと私と牧師さんはカーラの家を後にした。
「ところで牧師さん、本当にカーラについて知らない?何か知ってるのなら教えてくれない?」
しかし牧師さんは、首を縦に振らなかった。意外と頑固そうに口をつぐんでいた。
「言えません」
「何か知ってる事は認めるのね?」
「ええ。カーラから相談を受けていました。牧師ならではの相談かもしれませんね」
牧師さんは深いため息をついた。
「本当に教えてくれない?」
「無理です」
やっぱり無理のようだった。私は諦めて牧師さんと一緒に帰る。役所では肌は綺麗だち言われたものだが、帰り道はそんなピンク色の話題は何一つ生まれなかった。それどころか、教会のか献金が集まらず大変だという現実的な話題になってしまった。アビー達が言っていたように、牧師さんも貧乏状態らしかった。
「でも、神様が養ってくれますから大丈夫です。神様はギリギリのところでいつも助けて下さいます」
しかし牧師さんは呑気だった。ニコニコと笑い、空を見上げていた。




