21話 動機は見えてきました
私はその後、村役場に向かった。結局、今日も転移者も不審な扉も、事件の犯人らしき人物は見当たらなかった。
当然カーラはいない。
転移者保護の仕事の窓口の職員は、マリーという職員になった。
カーラを嫌っているという噂がある女性だ。マリーに役所の一階にある、応接室に通された。
マリーは40歳ぐらいの女性で、確かに右足が不自由そうで歩くのが大変そうだった。しかし、それ以外は全く普通の女性だ。むしろ地味すぎて存在感が全くない。たぶん礼拝の時に教会で顔を合わせていたが、私はすっかりその存在を忘れていた。
「はじめまして」
マリーも完全に私を初対面の人間として扱っていた。
「はじめまして。これが今日の分の報告です」
私はカバンから報告書をだしてマリーに見せる。報告書といってもチェックポイントに印を入れるだけなので、大層なものではないが。思えば日本にいた頃はもっと複雑で面倒臭い仕事をしていたが、今の状況は甘すぎる感ではある。仕事があるだけありがたいが、
なんとなくプライドが痛む。それも直接殴られるより、真綿でじわじわと首を絞められているような痛みである。
「そう、わかりました。今日は13時に来ましたけど、これからはもう少し早く報告して下さい」
「お昼ごろに報告ってカーラに言われたんですけど」
「はぁ。あの子は全く仕事できないんだから」
マリーは心底はらがたっているようで、目が釣り上がっていた。カーラの名前が出るだけでも嫌そうだ。
私は居心地がわるくなり、ミッキーのパン屋の袋からシチューパンをマリーに渡した。
「あら、ミッキーのパンの新作? 変わってるけど、美味しそうね」
「美味しいですよ!」
そういうと、マリーはちょっと笑顔を見せた。少しは機嫌を直したようである。やっぱりこの村でミッキーのパンは偉大な存在なのだろう。
「しかしカーラが死んじゃうなんてねぇ…」
そのマリーの声はちっとも悲しそうではなく、むしろ「ザマァ!」とでも言いそうだった。
「カーラの事嫌いみたいね」
「ええ、大嫌いよ」
想像以上にカーラは嫌われていたようだ。生真面目なジャスミンが同情し、お茶会に誘った意味もだんだんわかってくる。
「あの子はコネで村長の仕事についたんだから」
「村長の親戚だって聞いたんですけど」
「どうだか。私は村長の愛人か何かだと思う」
「その証拠は?」
「まあ、噂よ。本当はね、私が村長の秘書の仕事に昇進する予定だったのよ」
愛人の証拠については言葉を濁したが、マリーは確実にカーラを恨んでいるようだったら。
「でも若くて美人で健康な女がいいんでしょうね。私はどれも持ってないものね」
「そんな…」
僻みっぽいが、その話が事実ならカーラを逆恨みしてもおかしくはない。今、ここでメモ帳は広げないが頭の中に記憶する。
「それは殺してやりたくなるでしょうね」
私はあえてマリーに同調した。
「ええ。犯人には感謝するわ」
マリーは正直な女である。ここまで憎しみを表に出している事を考えると、逆に犯人かどうか怪しくなってくる。
「でもあの日の午後はずっと牧師さんやジャスミンと聖書について話してたわ。私にアリバイはあるって事ね」
そんなすぐに犯人はわからないようだ。
「カーラについて他に恨んでる人とか、仕事のトラブルとかありましたか?」
マリーは目をぐるりと動かして、しばらく考え込んでいた。
「さぁ。まあ、コネで急に入ってきたカーラに役場の人はあんまりい印象は持っていないと思う。まあ、証拠はないけど役場では村長の愛人という噂も有名だしね」
証拠はない噂であるが、村長の奥さんがカーラを逆恨みする可能性は十分あり得る。どうせ明日はメイジーに代わりに村長の家の仕事をするからちょうどいい。村長婦人についても調べる事に決めた。
「あなた、事件の調査しているのね」
「どこで聞いたんですか?」
「噂よ。この村の噂を舐めない方がいいわ。何でも筒抜け」
マリーは肩をすくめた。
「まあ、頑張ってカーラを殺した犯人を探してね」
「探すますけど、なんかあなたに応援されるとは驚き…」
「ええ。是非犯人にお礼が言いたいわ。カーラを殺してくれてありがとうって。だから早く犯人を見るけてね」
マリーは、まるで鬼のような顔でニヤリと笑う。コージー村の人は基本的に良い人だが、やっぱり癖は強いなと改めておもう。
応接室をでて、マリーは自分の仕事に戻ると私はメモを取り出して書く。
・マリーはカーラに強い恨み。殺す動機は大いにある。
・しかしマリーにはアリバイがある。事件の日の午後、牧師さんとジャスミン達と教会にいた。
・カーラが村長の愛人という噂が事実だとしたら、村長婦人は動機アリ。彼女について調べる必要がある。




