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1話 ミシェルのお別れパーティーです

 杏奈先生の事件から1ヶ月が経った。季節はもうすっかり夏である。


 私もこのコージー村にすっかり慣れ、パソコンやスマートフォンのない昭和レベルの生活水準に慣れつつあった。元々が便利過ぎたと思えば、それなりに生活できない事もない。


 今は金持ち未亡人・クラリッサの家に住み込みメイドとして給料も貰って生活していた。大きな屋敷の上、掃除機や食器洗い機もない屋敷でのメイドとしての仕事は毎日ヘトヘトになるが、仕事があるだけありがたい。私は元いた世界では英語スキルがあり、それで生計をたてていたがこの異世界ではそれはコミュニケーション意外全く役に立たない。この異世界では私は何の役に立てない無能と同じ事だった。それでもクラリッサの好意で仕事があるのだから、幸運と言って良いだろう。


 そんな中、この村の教会でミシェルのお別れパーティーが開かれる事になった。


 ミシェルはこの村に来ていた神学生だが、牧師になるための長い実習を終え、王都に帰って大量の試験に追われる事になる。寂しいが仕方がない。


 日曜日、礼拝のあと村のみんなが牧師館集まりパーティーが開かれた。パーティーといっても牧師館の食堂で行われ酒は出ない。立食式のこじんまりとしたパーティーではある。敬虔なクリスチャンである牧師さんやミシェルは酒は飲まないと言うので酒はない。


「コージー村のみんな、今までありがとう!」


 普段毒舌であったミシェルもこの時ばかりは晴れやかな笑顔で礼を言っていた。


 食堂のテーブルには、ローストチキン、田舎パン、マッシュポテト、青菜、チーズ、コーンスープというこの村らしいご馳走に溢れていた。最初はなんて不味い料理なんだろうと思ったものだがもう慣れた。むしろ栄養たっぷりの田舎パンは健康に良いようで、持病だった頭痛などはすっかり解消したし、体重も落ちてきた。日本での料理は美味しいが、健康や美容という面のリスクは全く無いわけではないのかもしれない。


「アビー、ジーン、パンは美味しい?」

「うん! ジュースペーストが合うよ」

「美味しい!」


 アビーとジーンはこの教会で世話になっている孤児だ。やんちゃ坊主達であるが、私がジュースペーストをジャムのようにして食べると美味しんじゃない?と提案したところ、この子供達が一番気に入ってよく食べるようになった。


「ローストチキン美味しい。牧師さんが作ったの?」

「ええ」


 私はローストチキンを食べ、ジュースを飲んでいる牧師さんに声をかける。この牧師さんについては気になっている事は確かだが、今のところ何の進展もない。まあ、神様を第一とする彼にとっては、女の事を考えるスキはないのだろう。


「いいな。牧師さんは料理上手で」

「マスミもお料理の勉強するといいよ」


 牧師さんはそう笑顔で言っていたが、料理はなかなか難しいと思う。この村に来たばかりの頃、クラリッサの家でパンケーキを作った時は酷い味のものを作ってしまった。


「そうよ。マスミは料理を勉強して、ニホンにある珍しい料理を作ってよ」


 そう言ったのはクラリッサである。金持ちの未亡人らしく、今日もパリッと紫のスーツを着こみ、胸には琥珀色のブローチをつけていた。それが一際上品な雰囲気を出している。


「私は杏奈先生じゃないから、そんな美味しい日本食は作れませんよ」

「そうねなのね。残念だわぁ」


 甘いものにと新しいものに目がないクラリッサはため息をつく。


「そう残念がるなよ、クラリッサおばさま。実は俺は今ちょっと甘いパンを考案中なんだ」


 そう言ったのは、パン屋のミッキーである。店のパンは黒くて硬いパンばかりだが、人一倍パンを愛する職人。最初は杏奈先生が作るようなふわふわな日本式のパンに疑問があるようだったが、私がそんなパンについて話すようになると興味を持ってくれたようだ。今は、日本の惣菜パンや菓子パンのようなものも考案中なのだと言う。


「マスミ、後でアンパンについて詳しく教えてくれよ」

「いいわ」


 アンパンも日本で生まれたパンだ。5年の歳月をかけられて開発されたパンである。いくらミッキーでもそう簡単に再現できそうにないが、出来上がりは楽しみである。


「ハイ! マスミ。メイドの仕事は慣れた?」


 今度私に話しかけてきたにはクラリッサの親戚でもあるジャスミンである。図書館司書もしていて、杏奈先生の事件の時には大きなヒントもくた。クラリッサの家にも住んでいたが、職場の近くに手頃な家が見つかったというので最近引っ越してしまったので、ジャスミンは私の仕事ぶりについてはよく知らない状況だった。


「ええ。メイドのプラムのおかげでなんとか」

「でもそうそう給料は良くないでしょ」

「まあ、そうですけどね」


 私は苦笑する。仕事内容に唯一の不満点といえば、給料の低さだろうか。とはいえ、賄い付きで住まいも提供されているので総合的に見ればそんなに悪くないのかもしれませんが。


「実は、マスミにちょっとやって貰いたい仕事があるのよね」

「何ですか?」

「マスミにしか出来ない仕事だと思う!」


 そう言われると自分が必要とされたみたいで、私の胸が高鳴った。


「どんな仕事ですか?」

「ロブの後釜よ。転移者保護されたという仕事」

「なんですか? その仕事は」


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