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15話 事件ノートを書きます

 アラン保安官は、私の予想通り全くヤル気を見せていなかった。杏奈先生の事件の時もそうだったが、それ以上であった。


「で、ジェイク先生と転移者のマスミが死体を見つけたわけね」


 一応手帳にメモを取っていたが、欠伸をしていた。明らかに力が入っていない。


「しかし、ジェイク先生眠いな。こう眠気っていうのはどうして起きるんかい?」

「もしかしてお昼ご飯はいっぱい食べました? 食べ過ぎは血糖値も乱れますし、良くないです」

「そうなんだけどなぁ。妻が卵子いっぱいもらってきてさぁ」


 アラン保安官とジェイクはしばらく世間話に花を咲かせていた。


「ちょっと、今は卵の話は重要ですか? カーラは亡くなったんですよ!」


 私は力強く言って見たが、アラン保安官は再び欠伸をした。


「かったりぃな〜。あー、眠い…」

「いや、眠いって…」


 呑気すぎるものだが、ジェイクもニコニコ笑っていてあまり深刻そうにしていない。


「まあ、マスミがまた調査すれば良いじゃない?」


 いくらイケメン医者にキラキラとした笑顔で言われても気が進まない。


「そうだよ、お前がやれよ。アンナのせいで、俺らは捜査しない。勝手にやってくれよ…」

「勝手にやってくれって…」


 私はこの村の連中とはやっぱり分かり合えないと、再びため息が出た。


「カーラの、そのご遺体はどうするんですか?」

「うん。これから教会に運んで安置するよ。明日葬儀で、1週間後埋葬だね」


 ジェイクが答えたが、私はちっとも良い気分にはなれなかった。


「じゃあ、その仕事もあるから、行きましょうか」

「面倒くさいな」


 アラン保安官とジェイクは二人揃って教会の方に戻ってしまった。


 またしても殺人事件だらけのこの村で、調査をしなければならな様だ。保安官がもう少ししっかりしていれば、もう少し安心できるものだがあの様子では非常に頼りない。


 しかし、このまま放っておく訳にもいかない。この村には殺人鬼がいる。しかも拳銃持ち。全く安心はできない。


 とりあえず、私はアナから貰ったにんじんジュースを飲み干し、考える。


 ちょうど転移者保護の仕事のためにメモ緒も用意していた。まあ、その仕事では必要無さそうなのでこの事件についてメモを書く。


 ●殺人事件がまたしても発生

 被害者はカーラ。村役場の職員、村長秘書。拳銃で撃たれてころされていた。

 第一発見者は私とジェイク。死亡した時間は、おそらくお昼から14時ぐらいにかけて。そばにタピオカがあったので、デレクにいつ彼女が買いにきたか聞けばさらに死亡推定時刻は絞れるだろう。


 ●容疑者


 ・ジェイク

 この村の医者。死体を見て全く動揺していないのは怪しいが、動機はないだろう。カーラについて何か気になっている様子はある。


 ・アラン保安官

 あまりにもカーラについて捜査しないのは怪しいが、そういえば杏奈先生の時も似たようなものだった…。


 ・デレク

 タピオカ屋。新しく村にやってきたイケメン。今のところカーラと接触していないはず、動機もない?


 ・アナ

 ジュース屋。カーラとジェイクの噂がある事に嫉妬?でも新しくジュースを作る事に燃えていたし、実際に殺すかは謎。


 ・リリー

 雑貨屋。カーラを嫌っていたが、殺す性格には見えない。


 ・マリー

 役所職員。あったことはないが、カーラを嫌っていたらしい?要調査。


 ・村長

 カーラの上司。仕事上の何かの口封じでカーラを殺す可能性もアリ?そんなミステリドラマもあった気がするが、証拠は無い。



 ・牧師さん

 カーラは教会員だったし、牧師さんは何か知っているかも?しかし、彼には動機はもちろん無い。


 他のパン屋のミッキー、クラリッサ、やプラム、ジャスミン、メイジーの顔を思い浮かべて見たが彼らには動機もないだろい。特に女子会を一緒に開いた面々はカーラに好意的だったし、とても殺すほどの事情を抱えている様には見えない。ちなみにミッキーはパンヲタであるし、犯罪を犯してパンを作る機会を自らなくす事は考えられないだろう。自身のパンをバカにした杏奈先生についても、嫌な気持ちはあっただろうが、別に殺してはいなかったし。


 そういえばミッキーのパン目当てでこの街に来た男を見かけたが、関係あるだろうか?


 しかし、杏奈先生の事件の犯人も外見は優しく常識人だった。意外な人物は犯人でもあり得るだろう。

 こうして村人を疑う行為は、意外とメンタルをすり減らす。私は再びため息wをつき、アナに「ストレスに効くジュースを作って欲しく」と後で言おうと思った。


 その後、色々と一人で考えて見たが答えは出ない。出るはずもない。頭で妄想して良い気分になれば願いが叶うという引き寄せの法則が日本で流行っていたが、そんな都合のいい魔法などはあるわけがない。やはり、杏奈先生の事件の時ものようの自分で色々調べないと!


 しかし、今動いても事件は解決しないだろう。もう夕方であるし、私は家のあるクラリッサのお屋敷に足早に帰る。


 転移者保護の仕事を始める事になり、メイドの仕事はだいぶ融通してもらっていたが、今日の夕食の準備はプラムと一緒に行う。


「聞いたわよ、マスミ。カーラが亡くなったんですって?」


 どこで噂を仕入れたのか知らないが、プラムはもうカーラの事を知っていた。


 今日の夕飯のメニューは、野菜たっぷりのスープだ。豆、じゃがいも、にんじん、ピーマンを入れて煮込む。今日はパンはない。クラリッサが昼間に甘いものをとると自動的に我々も夕飯が糖質制限メニューになる。今日も昼間、タピオカを飲んだようでそうなった。まあ、仕方ない。厳しいルールではあるが、あのタピオカ屋がある限り仕方がないだろう。


「そう。ジェイクと私が死体を発見したのよ…」


 私はピーマンやじゃがいもなどの野菜を切り刻み、鍋に入れる。料理は苦手だったが、プラムに仕込まれ野菜を切るのはだいぶ上手くなった。


「また? まあ、アンナもよく死体を見つけたけどね…」

「でも仕方ないわよ。今回も私が捜査する事になるそう…」


 私は表情を曇らせて、野菜スープの鍋をかき混ぜる。


「プラムはカーラについて何か知らない?」

「さぁ…。私もあの子についてはよく知らないのよね」


 野菜スープが煮立ってきていい匂いがキッチンに漂い始めた。この村でよく作られているチキンだしの野菜スープで、この村にきたときアナのまママにも作ってもらった事を思い出す。このスープはこの土地の料理の中でも日本人にも受け入れやすいと思う。私も好きなスープだ。やはり死体を見た後に食欲はわかず、あっさりとした夕飯で逆にありがたい。


「まあ、クラリッサが何か知っているかもしれないので、後で聞きましょう。大丈夫よ。いざとなったら私が犯人を仕留めます」

「元スパイで超有能なプラムに言われると笑えないわね…」


 プラムなりの励ましの言葉だろうが、ちょっと怖く私は苦笑する他なかった。

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