14話 really?
目覚めると湖が見えた。澄んだ水の色を見ていると、ここが現実である事を段々と思い出した。
湖の畔のそばにあるベンチの上で寝かされていたようだ。まだ日は影っていないので、あれから時間はそんなたっていないようだった。
私は起き上がり、あたりを見渡す。
なぜか目の前にアナがいた。太い健康的な三つ編みをゆらし、走ってやってきた。
「聞いたわよ、マスミ! 死体を見つけたんですって!?」
アナは大慌てで私の横に座り、濃いオレンジ色のジュースを差し出した。よく冷えていて触るだけでも、私の気分は冷静になってきて落ち着いてきた。
「これは? なんか、美味しそうね」
「実はこれ、試作品のアオジルなの」
アオジルという割には、オレンジ色だが細かい所を突っ込む気分になれない。それにジュースの上に小さなにんじんの葉が飾り付けられていて、気が利いている。
「ジェイクが、疲労回復やストレスにいいジュースをマスミに持って行けって頼まれたのよ。これはにんじんと柑橘のジュースで、まだ試作品なんだけどたぶん身体に良いと思うから飲んでみて!」
「ありがとう、アナ」
私はにんじんジュースを一口飲んだ正直なところ味は美味しくない。ちょっとモッタリとした後味が残るし、匂いも青くさい。しかし、あんな死体を見た後では飲んでいると頭が冷えてきた。
そう、ここは呑気で長閑な田舎だが殺人事件だらけのコージーミステリーみたいな村だったではないか。しかもあの森では死体は頻出していた。カーラが死んだ事は悲しいが、この村の治安を考えると珍しい事ではないかもしれない。アナもちょっと興奮しながら目をキラキラとさせている。死体があったショックよりも何が起きたのか知りたいようである。
「で、誰が死んでたの?」
「ジェイクは言ってなかったの?カーラよ」
「ああ、そうなの」
アナはあまり驚いてはいなかった。まるで死んで当然?アナも何か知っているのかもしれない。
「正直、カーラはこの村で好かれてはいなかったからね。もちろん、いじめられてた子じゃないけど、カーラの素性を知っている人はいないんじゃない?」
「友達とか、親について知らない?」
アナは首をふる。
「さぁ。あの子が自分のプライベート話した事ないしね。村長の親戚らしいけど、本当かどうか」
ちょっとアナはニヤっと笑った。
「噂だけど、村長の愛人っていう話も」
「マジで? いえ、ほんとう?」
日本語で「マジで?」なんて言っても通じない。
「really?」と言い直す。ちなみにカタカナ英語のような日本語みたいに言うと発音がカッコ悪い。「リアリー」と言うより「リーリー?」と言った感じ。ジャパニーズイングリッシュだったので、この発音はプラムにだいぶ矯正された。
まあ、この村の人間は割とおおらかなのでジャパニーズイングリッシュでも割と通じてしまうが。日本人の英語で伝わらない原因は、発音や文法云々というより無表情、小声、棒読みという外面的な問題も多いと思う。オーバーリアクションで大きな声で言うと途端に伝わったりする。英語の発音勉強していると、口の周りの筋肉を使うので小顔にもなる。逆にいえば日本語はいかに低燃費ですむ言語であるという事なのだろう。
アナは声を小さくしてさらに言葉を続ける。
「村役場ではカーラはあまり好かれてなかったからね。あとで、調べに行くと良いわ。もしかしたら役場に犯人がいるかも…」
「調べるって、私が?」
「アンナの事件だってあなたが解決したじゃない。村のみんなは忙しいし、マスミが調べると良いんじゃないの?」
こんな事をけしかけてくる。にんじんジュースのおかげで、何となく身体は回復して来た気もするがそんな事を言われるとさすがに気が重い。
まあ、転移者保護の仕事で役所にはいかなくてはならないのでカーラの評判を聞いても良いだろう。
「それにしてもまた殺人事件が起きるなんて」
「まあ、仕方ないわよ。この村は何故か殺人事件が多く起こるのよね」
アナはウンザリしたように言った。
ちょうどそこへ保安官のアランとジェイクが戻ってきた。
「じゃ、私は帰るわ」
入れ替わりのようにアナは帰って行く。ちらりとジェイクをピンク色の視線で見ていた。やっぱりこの娘もあんな事が起こったのに何も動じていないようであった。この村の連中の肝の据り様に私は深いため息をついた。




