10話 口説かれた…?
翌日、日曜日。
村の多くの住人は、日曜礼拝に参加する。私は別に洗礼を受けているわけでは無いが、クラリッサのお供で毎週教会に通っていた。それに礼拝が終わると牧師さんお手製の田舎パンのサンドイッチやマッシュポテト、ブラックティーなどの軽食も出るのも楽しみだった。
その後、転移者保護の初仕事で村中を回って転移者がいないか確認する。この仕事は毎日の仕事で、祝日も関係ないようであった。その点は意外ときついが、この村は意外と治安が悪いし、もし転移者がいると思うと休む気になれなかった。
礼拝は讃美歌から始まった。ピアノを弾くのは、ジャスミンの担当である。時々リリーも礼拝でピアノを弾いて居るようだが、基本的にこの役割はジャスミンだった。
礼拝堂の中は、村の人たちでいっぱいである。デレクの姿も見えて、大きな声で讃美歌を歌っていた。見かけによらず敬虔なのかもしれない。
讃美歌は美しいメロディで神様を讃ええるものだ。牧歌的でハミングしているだけでもなぜか心が落ち着くものである。日本でも教会で讃美歌を歌われていただろうが、参加しても良かった気にさせられた。
とは言っても牧師さんの説教は、旧約聖書のヨブ記という箇所で難しかった。聖書を読んでいない一般的な日本人に私からすると、よくわからない。隣にいるクラリッサやプラムは、深く頷いて聞いていたが私の脳内は追いつかない。最後に報告があり、デレクがこの村の住人になったと言う。牧師さんに促され、デレクは挨拶をしていた。
「はじめまして。タピオカ屋をやっています。今日は教会のみんなには特別サービスしますから、ぜひ午後から遊びに来てね」
白い歯を見せてキラキラと笑っていた。タピオカの魅了されて居るクラリッサはすっかり機嫌がよくなっていた。
アナの姿を探したが、特になんとも思っていない表情を見せていた。というかジェイクの隣をきっちりとキープし、逆にちょっと機嫌が良さそうである。
こうして礼拝が終わり、お楽しみの軽食の時間が始まった。今日は卵のキッシュとブラックティーのようである。ホール状のものを牧師さんが人数分切り分け、みんなで分け合って皿にもった。
「あれ、カーラって今日は礼拝に来てないの?」
キッシュを牧師さんから受け取り、私はふと疑問に思ったことを聞いた。いつもカーラは、礼拝に来ていたはずだ。まあ、あまり軽食の時間にはいたくようで礼拝が終わるとさっさと帰ってしまうが。
「ええ、今日は具合が悪いって今朝連絡もらいました。心配ですね」
「そうなの…」
昨日のカーラに様子がひっかかり、私は顔を顰めた。とはいえ、美味しいキッシュを食べているとそんな事はすっかり忘れてしまい、クラリッサ達と談笑して仕事に向かった。この後、牧師さんや一部の信徒達は聖書の勉強会、デレクはタピオカ屋に戻るという話だった。
教会の礼拝堂を出る時、デレクに話しかけられた。
「こんにちは。もしかして昨日お店に来てくれた? 覚えてるよ」
そう言って白い歯を見せて無邪気に笑う。一瞬覚えてくれていた事は嬉しかったが、自分はこの村でひとりだけアジア風のルックスである。覚えられていて当然であった。
「ええ。昨日、リリー達とお店に」
「うん。ありがとう! 僕は可愛い子はちゃんと覚えて居るんだよ。君みたいな子は好きだな」
「は?」
私は喉の奥から変な声が出てしまった。まるでロマンス小説のヒーローが言いそうなセリフである。デレクはまさにロマンス小説のようなヒーローであるし、正直なところ夢かと思った。しかし、ロマンス小説の様な男が現実にそうそう居る訳もないので冷静さを保つ。
「何か、冗談言ってない?」
「違うよ! 黒い目や髪が珍しくてさぁ」
「なんだ、そういうことね」
一瞬口説かれたかと思ってドキドキそたが、勘違いの様だった。そもそも礼拝の時最前列に座り、大声で讃美歌を歌うような男が教会で口説くはずがない。
「じゃ、これから仕事があるから、またね」
「うん、僕もタピオカ屋の仕事だよ。是非来てね」
「まあ、気が向いたらいくわ」
そう言って私はデレクと別れ、仕事に取り掛かった。
デレクのタピオカはあまり好きではないし、可愛いなどと言われた事は理由は色っぽいものでは無い。それでもイケメンにそう言われて嬉しくない事はない。ちょっと機嫌も私は足取りは軽くなった。




