第36話「元最強陰陽師、魔王を復活させる」
魔王調査隊が学院近傍の森で魔王信者を捕縛している頃から、俺はカナデ達と元の世界に戻るための魔術を進めていた。
俺が元の世界に戻って陰陽道の当主になるために、儀式を行うのに適切な時期が過ぎるのが迫っているので時間が惜しいし、転移魔術の効果を高めるために使用するヒヒイロカネは、エルフの国の国宝である。いくら貸与の許可を得ているとはいえなるべく早期に返すよう努力するのが筋だからだ。
そして予想通りに問題なく、魔王調査隊が怪しい奴らを捕縛したという知らせが入ってきて、安心していた。魔王調査隊がこの世界における最高峰の戦闘集団だ。彼らが敗れるようなことは想像出来なかったので、特に手助けをしなかったが、それで正解だったといえよう。
「さて、これで準備は完了。あとはゲートの魔術を発動するだけだ」
準備はすぐに整った。要領はずっと検討してきたし、元の世界で陰陽師の俊英達に最適な方法を研究させていたのだ。あとはそれを実現するだけだったので、やってみれば簡単な事だ。
「……じゃあ、これで帰るとしよう。これまで世話になったな」
時間がたつと色んな感情が押し寄せてくるので、手短に別れの挨拶を述べる。
この場には、共にこの世界における陰陽道を研究したカナデ、ダイキチ、アマデオ、そして最初に決闘したクロニコフが見送りに来ている。
他にもこの学院で生活していた時に世話になった人たちはいるが、名残惜しくなるので特に呼び寄せる事はしないつもりだ。
「この世界で強力な陰陽道を行使するための方法は、これまでの研究を元に色々方向性は書き残したから、俺がいなくなっても是非完成させて欲しい」
「分かったニャー」
俺から書付の束を受け取りながら、ダイキチとアマデオが頷いた。
カナデは黙ったままだ。
やはり、もう陰陽道は辞めなくてはならないという推測は正しいのだろう。カナデの嘘の付けない性格が表れている。
「言っておくけど、これが今生の別れだとは思わないことだ。なんてったってこの世界には俺自身の魔術で来訪したんだ。これからもっと研究を重ねれば、もっと確実にこの世界に来ることが出来るだろうし、その時には魔力切れにならないように、色々魔術具とか霊薬を準備してくるからな。その時こそ陰陽道の奥義を伝授してやろう」
なるべく明るく言って見せたが、半分本当で半分嘘である。
元の世界で研究を重ねて、様々な準備をすればもっと簡単にゲートを開くことが出来るのは本当だ。それだけの魔術の力が本来の俺にはある。帰還して当主継承の儀が終わったら、すぐにゲートを開くことだって可能だ。
しかし、だからと言ってこの世界に来れるかどうかは、全くもって分からない。
カナデが俺の部屋に通じるゲートを開いたのは全くの偶然だし、俺がこの世界に通じるゲートを開くことが出来たのは、カナデの魔術の余韻が残っていたからである。そして、俺が毎度毎度元の世界の俺の部屋にゲートを開くことが出来るのは、これまでの人生をその部屋で寝泊まりしていたから、それだけ縁が強いからだ。
ならば、元の世界に帰還した後、この世界に正確にゲートを開くことが出来るか?
それは否である。
多少この学院で過ごしてきたが、それだけでは縁が薄すぎる。例えゲートを開いたとしても、この世界に繋がるかどうかは分からず、全く別の世界に通じてしまうかもしれない。
下手をすると魔界等の危険な世界とつながってしまい、どの様な危険な存在が溢れ出してくるか分かったものではない。
故に、安全確実にゲートの魔術が行使できるための研究を終えるまで、この魔術は封印するつもりである。研究に何日、何か月、何年、何十年かかるかは誰にも分からない。
「では行くぞ。木行、火行、土行、金行、水行! 陰気、陽気を鍵として。開け異世界への扉!」
何時ものように口訣を唱えて精神を集中させる。これまでの間、カナデの作った魔力回復料理を食べ続けていたため、魔力はこれまでになく高まっている。そして、部屋に配置されたヒヒイロカネが魔術と共鳴して効果を高めてくれるはずだ。
いや、何かがおかしい。
「魔力の流れが変だ! 中止するぞ!」
「ヒヒイロカネを使っているから何時もと違う魔力の流れなのでは?」
アマデオがもっともな意見を述べるが、何かが違う事を俺の勘は感じ取っている。
「主よ。魔力がヒヒイロカネで増幅した後、部屋の外に奔流となって流れています。この方向は私と主が出会った森の方です」
魔力を直感的に感じ取る能力が高い蠱王が、不安な様子でそう言った。
学院の近くの森、そこはついさっき魔王信者が何かを企み捕縛されたところである。
嫌な予感が脳裏に満ち溢れ、突き動かされるように部屋の外に飛び出た。
そして、外の広場に出た時、魔王調査隊の一団と彼らに捕らえらえて縛についている魔王信者達を見つけた。
魔王信者たちは捕縛された惨めな姿であるが、そんな様子は微塵も見せずに高らかに叫んでいた。
「魔王復活万歳!」




