第29話「元最強陰陽師、エルフの族長と会談す」
目的地のペペルイの森は、学院から1週間ほど離れた地域にあった。
学院の近くからも伸びている街道が森の中まで続いている。どれだけ広がっているのか分からない程大きく、鬱蒼と生い茂る森の中に立派な石畳の道が舗装されているのは奇妙な感じがするが、この森で最も有力な種族であるエルフは、大陸でも有力な種族である。そのため、他種族との交流のために多少の自然を弄る行為は許容しているのだという。
ただ、広いとはいっても今のそれは魔王出現前のものとは比較にならないくらい領域を狭めているそうだ。以前学院長に聞いた話によると、魔王との最終決戦はこのペペルイの森で行われたということである。その時の破壊は凄まじいものだったのだろう。
しばらく森の中を進むと少し開けた場所に出て、そこには大きな館が建っていた。
「これがエルフの宮殿か? 立派ではあるけど、大きさで言えばこの前泊まったジェイスさんの屋敷とあまり変わらないな」
「ここは他種族との外交が主な用途だから、この程度なのよ。もっと奥に進めばもっと立派なのがあるけど、人間向けじゃないわね」
「へえ? どんなの?」
「世界樹に登って枝の上や幹の洞を利用していて、こんな建物よりもずっと荘厳で美しいけど……登りたい?」
「個人的には登りたいけど、慣れないと大変そうだな」
カナデが言うには、エルフは基本的に植物を自然に近い状態で活用した家に住んでいるそうだ。さっきカナデが言ったように世界樹の様に巨大な木を利用したり、倒木を組み合わせたり、変わったところではテントの代わりになるくらい巨大な葉っぱもあるそうだ。
ダイキチの様な猫妖精も同じような暮らしらしく、不安定な樹上生活にも適正があるということで、世界樹にあるエルフの宮殿でも数多く雇われているらしい。
アマデオの様な鬼は流石に樹上生活等をするのは難しいため、石造りの家を建てたり洞窟に住んでいるそうだ。
「お待ちしておりました。姫様とご学友をお通しするように族長から申し遣っております。どうぞお入りください」
館の前に使いのエルフが一人待機していて、丁寧にあいさつした後先導するように館の中へ向かった。服装からして戦闘員ではなさそうだが、それなりに強いであろうことは身のこなしから見て取れる。
館は外交用ということもあり、中に入って少し進むとすぐに応接室に辿り着いた。応接室に入ると若いエルフの男がソファーに腰かけていた。他には誰もいない。
「お父様。只今戻りました」
「うむ。元気そうでなによりだ。まあ座りなさい。他の者も座るがいい」
目の前にいる若い男がカナデの父親であることに一瞬驚きを感じた。大きな子供がいるような年齢には全然見えない。エルフが長寿であるということは聞いてはいたが、ここまでとは思いもよらなかった。
元の世界でも、魔術師の中には不老不死を求めて研究するものも数多くいた。代表的なのは仙人や錬金術師である。ただ、彼らの目論見が成功したという例は未だ知られておらず、何千年もの間の不老不死への夢は達成できてはいない。その過程で数多くの霊薬や実験器具などを開発しているので、魔術業界の一員としては非常に助かっているので、彼らの夢みたいな取り組みを笑うつもりはないのだが。
だが、不老不死とは言えないまでも、長寿や緩やかな老化を生まれながらに実現しているエルフの様な種族を目撃してしまうと、元の世界の魔術師達が人生をかけて取り組んでいることが徒労の様に感じてしまうのは否めない。
そして、神経を集中させて辺りの気配を探ったが、この部屋には他の人物は透明化等の手段を使ったものもおらず、天応裏や床下にも潜んでいない。扉の向こうに控えている家来だけである。
こんな護衛態勢で良いのかと思ったが、よく考えたらこれは公式な面会の類ではない。実家に帰ってきた娘とその父親が会うだけなのである。
姫という立場があり、ダイキチやアマデオの様なお付の者も同席しているが、基本的にはプライベートな場といっても差し支えないだろう。
となると、残るは俺だが族長の中ではどういう存在なのだろう。
異世界の魔術師の一門の後継者で貴族の位階を持つ者との面会の場、と考えると本来は公式な面会をするべきである。
そうなっていないということを考えると、まさか俺の事をカナデが異世界から召喚した使い魔の類と考えているから、非公式な面会にしているんじゃないだろうな。
「初めまして。私は九頭刃アツヤと申しまして、陰陽師を……」
「ああ。報告は受けている。娘のせいで異世界からこちらに来る羽目になってしまうとは、とんだ災難であったな。それに、学院では色々と異世界の魔術について教えてくれているとか? 元の世界に帰るために試行錯誤しているようだが、出来ることなら協力したい」
俺の存在を正確に認識してくれているようで安心した。もしも俺の事を使い魔の様に、人権の無い存在として考えているようだったら、協力を仰ぐ前に事情を説明するのに一苦労したことだろう。
しかも、向こうから協力を申し出てくれたのだ。この幸運を天に感謝した。




