第24話「元最強陰陽師、魔神との遭遇から帰還する」
アスモデウスの居る山から下山し、ミリグラム伯の居城の城下町に戻った時、町の高級住宅街に存在するエルフの大商人であるジェイスの邸宅には、数十人の男達が集結していた。
「おお! 姫様、ご無事で何よりでございます。お帰りになるのがもう少し遅ければ、城に向かうか山に向かうかしていたところでございました」
エルフの姫であるカナデの姿を見つけたジェイスは、心底嬉しそうな声を出して出迎えた。
魔王復活に関わる案件だったので、王族であるカナデが直接情報収集に向かったのだが、やはりペペルイの森のエルフの一員としては心配だったのだろう。
俺とカナデはジェイス達の方に近づいていくが、ダイキチ達は疲れているらしく、何か食べに行くと言って厨房のほうへと向かって行った。
「ご心配なく。この者達は?」
「はい、魔王調査隊の者達でございます。丁度ペペルイの森に逗留していたので、族長にこの件を報告したところ、こちらに派遣してもらえました」
「そうですか。でも、もう事件は解決したと言ってもいいので、折角魔王調査隊の方々に来ていただきましたが、戦うことはありませんね」
「すでに解決されたと? それは目出度い。流石姫様であります」
魔王復活の企みが、既に潰えていると知ったジェイスは喜びの声を上げた。魔王による被害がまだ記憶に新しい時期である。これは偽らざる感情であろう。
そして、初めて知った単語に対して、俺の好奇心が湧き上がってくる。
「ねえ。魔王調査隊って何?」
「魔王調査隊っていうのは、魔王復活を企む組織の動向や、魔王がこの世界に出現した理由を調査する組織で、各国が協力して立ち上げたの。それで各国の実力者が集っているから、調査が主な任務だけど戦闘力も中々のものよ。それに、調査のために色んな特権を持っているの」
なるほど、調査に関して特権を有しているから、貴族が犯人である今回の事件での活躍を見込まれて派遣されたという事か。
魔王調査隊の方を見ると、騎士や魔術師等の服装をした者達で、バランス良く構成されている。そして、彼らの武具からは強力な魔力が感じられる。いざ戦いになったならば、かなりの実力を発揮することは間違いない。
また、種族も人間だけでなくエルフ、ドワーフ、ドラゴニュート、鬼族や猫妖精等多種多様である。これだけの種族や国家が利害を超えて一致団結していることが、魔王がどれだけ恐怖と破壊をまき散らしていたのかを創造させられる。
見たところかなりの実力者揃いであることは感じ取れた。もっとも、俺が本来の実力を発揮できるのなら、準備さえ万全にすれば彼ら全員を相手にすることも可能である。
この世界は元々平和が続いていて、魔王が復活するまで表立った戦争がなく、戦いの技術は磨かれていなかった。それに比べて元の世界では、国家間の争いは絶えず、魔術師の世界でも殺し合いは日常茶飯事だった。そのため戦闘技術は真価を重ねて来た。
そして、その様に戦いに長けた魔術師の中でも、俺は最強を謳われており、その実力は先の魔術大戦でも十分発揮した。つまり魔王調査隊がどれだけ才能があり、精鋭揃いであろうと、戦闘技術の磨き方に差が生まれるのは仕方がない。
まあ何が言いたいかというと、アスモデウスの潜む山に対して、彼らが攻撃を仕掛けてこなくて本当に良かった、という事である。
彼らがいくら精鋭揃いであろうと、あのように強大な魔神とやり合って無事で済むわけがない。恐らくなすすべなく全滅したことだろう。とは言え、それを口に出すことは、彼らのプライドを傷つけてしまい、角が立つので当然黙っている。
「あなたが異世界から来たという魔術師の、九頭刃アツヤさんですか?」
色々考え込んでいたら、魔王調査隊の一人がこちらに近づいて来て、話しかけてきた。
金髪の長身の美男子で、ブレストプレートの軽装備で片手剣と片手杖を腰に差している。恐らく魔術と剣術を総合的に行使して戦う、魔法戦士とい言ったところであろう。
「申し遅れました、私は魔道騎士のユルス=マザールと言います」
「マザール? すると……」
「はい、あなたの友人で一緒に山に行った、クロニコフ様の親戚にあたる者です。ただ、私は単なる分家筋で、クロニコフ様のように一族を背負って立つような存在ではありませんが」
言われてみると、ユルスの顔立ちはクロニコフとかなり似ている気がする。そして、ブレストプレートに刻まれた紋章もよくよく見ればクロニコフの持ち物に刻まれた物と比べてかなり簡略化されているが、基本的な様式は似通っている。恐らく分家筋だから簡略化した物しか使用できないのだろう。
そして、ユルスの所作を見るに、彼はかなり腕が立ちそうだ。
俺は戦闘魔術師として武道の稽古をかなり積んでいるし、実戦で様々な強者を見てきた経験がある。それは魔術と武道を融合させた者、剣技のみで魔術師と渡り合う者、魔術によって召喚された怪物など多岐にわたる。
その俺から見てもユルスの実力はかなりのものであると見て取れる。まだ甘い所もあるが、これから実戦経験を重ねて行けば、かなりの実力者に成れると断言しても良い。
生き残れたらの話だが。
「しかし、クロニコフの奴、折角親戚がいるんだから挨拶位していけばよさそうなものを」
「滅相も無い。クロニコフ様は私の様な分家の者とは立場が違います。私に声をわざわざかける義理などございません。現に今までお言葉をかけてもらったことは、ほとんどありませんので」
ユルスの言葉に対して、俺は疑問を感じた。
クロニコフは確かに名門出身だが、彼の取り巻きや他の学友に対する態度は丁寧なものである。食堂のおばちゃんや清掃員の小父さんにだって礼を失するようなことはない。
そのような男が、一門の分家筋だという理由で冷たい態度をとるものだろうか。
そこまで考えたところで、一つの予測を思いつく。クロニコフはユルスに対して、嫉妬に似た感情を抱いているのだと。
クロニコフは魔術師の名門マザール家の後継者として、その立場に恥じない魔術の実力を有している。まだ未熟な面もあるが、大人になるころにはそれも解決していることだろう。しかし、総合的な戦闘力としては、これはまだまだ甘く、魔術がほとんど使えなくなった俺に決闘で敗れるくらいだ。
つまり、戦いの実力では分家のユルスに、全く敵わないのだろう。平和な時代なら、魔術の実力だけが評価されていたかもしれないが、魔王出現以降はそうではない。戦闘で如何に実力を発揮するかが問われる時代に突入している。そのことがクロニコフの感情に作用しているのだろう。
しかし、クロニコフの性格からいって、その様なことにこだわる愚かしさも分かっているはずだ。だからユルスに対して高圧的に出ることも、親しく話しかけることも出来ずにその場を立ち去ることしかできなかったのだ。
自分の理想とする姿と、現実の姿が乖離する。その様な悩みには俺だって覚えがある。それを解決するには、現実を割り切ってしまうか、若しくは理想の姿に近づいていくしかない。
クロニコフとは学院の寮で同部屋である。話す機会はいくらでもある。
いずれ相談に乗ってやろうと思った。
「して、姫様。アツヤ様。山で何があったかを教えていただけますかな? 事件が解決したと言っても、我々には詳しい状況が分かりませんので」
ユルスと話して考え込んでいたが、ジェイスの問いで現実に引き戻された。
確かに詳細についてはまだ何も伝えていないし、正確には解決の道筋をつけてきただけで、完全には解決していない。そして、完全解決には彼らの力も必要である。
俺はカナデと代わる代わる山で起きたことについて話し、今後の具体的な解決策を討議した。




