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第21話「元最強陰陽師、魔神と遭遇する」

 ミリグラム伯の居城に挨拶をしに行った次の日、俺はカナデ達を連れて山登りをしていた。


 この山はミリグラム伯の居城から少し離れた場所に位置ししており、標高はそれ程高くはないのだが、植物が密生しているため、道を外れた場所を歩くのはかなり困難である。


 その代わり、誰が通るのか分からないのだが、意外としっかりした道がつけられている。誰が道を踏み固めて樹木を伐採したというのだろうか。


 先を急いでいるため食事などは歩いたまま各人思い思いとっており、今もクロニコフは水筒に口を付け、ダイキチは川魚の燻製を齧っている。俺はついさっき干し肉を食べたばかりだ。


「蠱王。もうそろそろだろうか?」


「その通りです。主よ。もう少し先で魔力の高まりを感じます」


 俺の問いかけに対して、懐に隠れているカエルが答えた。彼は蠱王と名をつけた俺の式神で、本来なら殺し合いをさせる蠱毒の魔術において、戦うことなく他の毒虫達を心服させた器の持ち主である。


 まだ力は弱いものの将来性は抜群であるため、非常に期待をしている。まあそもそも俺の魔術が復活すれば、その影響で自動的に強くなるのだが。


「じゃあもうすぐなの? その龍穴(りゅうけつ)っていう場所は」


「そのはずだ。地形上そうなっているし、蠱王もそれを感じ取っている」


 龍穴とは大地の気が噴き出す場所で、これは山の尾根伝いに存在する気の流れである龍脈のどこかに存在する。俺の風水の知識では、今登っているメルバ山はアガラト山脈に流れる龍脈の気が集まる場所のはずだ。


「その龍穴でミリグラム伯は何かをしようとしているってことね」


「ああ。多分な。恐らく何かの魔術儀式だと思う」


「そして、それには魔王が関わっているってことなんだニャ?」


「その通りだ。あのバイエルンと手紙のやり取りをしていたんだぞ? 奴の目的からいったらそうなるはずだ」


 バイエルンは以前倒した魔王復活を目指す一味の手先で、バナード魔術学院に教師として紛れ込んでいた。そして、授業を利用して教室の黒板で魔力を盗んでおり、それをどこかに運び出そうとしていた。


 昨日ミリグラム伯の居室に入り込んだ時、そこには病に臥せっているはずのミリグラム伯はおらず、おかげで悠々と捜索したところ、バイエルンとやり取りをした手紙を発見した。隠語を使っているので目的は完全には判明しなかったが、黒板をミリグラム伯の居城に運び込むという記述があった。


 黒板と言われても普通は分からないので、その単語を隠さずに使ってしまったのだろうが、バイエルンの企みを打ち砕いた俺にはお見通しという訳だ。


 また、捜索の際にミリグラム伯の書斎机に風水の本があるのを発見した。この世界では風水は知れ渡ってはいない筈なのに妙な話である。


「しかも、あそこにあった本、「風水地理五訣」とか「葬書」とか俺の世界の風水の本だったんだぜ。しかも、一般に出回っているのじゃなくて、魔術師業界にしか知られていないのが」


「誰かがこの世界に持ち込んだってことなのかしら」


「あり得るな。カナデが俺の世界とこの世界を繋ぐゲートを作ったみたいに、他にもそういう事をした魔術師は過去にいたんだろうね」


 そもそも、この世界では日本語がそのまま通じたり、漢字が使用されていたりと元の世界との繋がりを示す事柄が多かったのだ。


 ミリグラム伯を締め上げれば、色々と元の世界に戻る為の手掛かりが分かるかもしれない。


「よし、ここから慎重にゆっくり進んで行こう。なるべく音を立てないように気を付けよう」


 俺の指示で皆がペースを落とし、物音を立てないように気を付ける。ここに来ている者は鎧の様に音の出る者は着ておらず、クロニコフはローブ、俺以外の陰陽師勢は道服である。


 俺はジャージなので実に閉まらない事この上ない。今度小さなゲートを開いて実家と交信で来た時、道服を送ってもらおうと心に決めた。


 今回この山に来たのは、別に戦闘が第一目的ではない。もし事態が切迫しているなら強襲することになるが、あくまで第一目的は偵察である。


 エルフの姫であるカナデがこうして参加しているのも、あくまで偵察が主目的だからだ。でなければ町で協力してくれていたエルフの大商人であるジェイスが強硬に反対していただろう。


 もっとも、普通なら単なる偵察とはいえ、軍務に就いている訳でもない姫君がこうも簡単に最前線に出るなど出来ないだろう。これはこの件が魔王復活に関わるからだ。


 約10年前、この世界に突如として現れて世界を滅ぼしかけた魔王の忌まわしい記憶は、まだ人々から消えていない。カナデやジェイスの故郷であるペペルイの森も大きな被害を受けて、大半が枯れてしまったという。


 こういう事情があるため、魔王復活を阻止するための行動は、身分を問わず最優先でやらなければならない、いや、高貴な身分だからこそやらなければならないのだ。


 ジェイスは今頃王国の諜報機関と接触して、対処するための兵を集めているはずだ。王国として正式にミリグラム伯の居城を捜索したら、まだまだ新たな証拠が出て来るかも知れない。


「止まれ」


 小さな声で停止を指示した。少し先は開けていて、小さな小屋が見える。多分今進んできた道はこの小屋に行くためのものであり、あの小屋にミリグラム伯がいると推測できる。


 そのまま無策に進むのではなく一旦道の脇に逸れて草木で身を隠した。


「ねえ。あれって……」


 カナデが珍しく不安そうな声で小屋の近くを指さした。


 その示す先には、小屋のそばに居座る象の大きさ程の生物の姿があった。


 そいつの外見は、人、牛、羊の3つの頭を持ち、足はガチョウ、尾はヘビでドラゴンに跨っているという怪物である。手には槍と軍旗を持っている。また、時折息に炎が混じっており、その危険さは子どもにだってわかるだろう。


 また、そいつの周囲には強烈な魔力が漂っているため、物理的な危険のみならず魔術的な脅威も持ち合わせていることがこの場にいる誰にでも理解できた。


「あいつはやばいな……」


 たいていの事には動じない自信がある俺も、奴との遭遇に動揺を隠せなかった。


「あれが何なのか知っているの?」


「あいつの名前はアスモデウス、7つの大罪の内色欲を司る悪魔にして、ソロモン72柱の魔神の1柱だ。まともにやって勝てる相手じゃない」


 最悪の相手と遭遇してしまったことに俺は戦慄した。

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