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第13話「元最強陰陽師、格闘訓練で無双に失敗する」

 蠱毒の実験によって新たな式神であるカエルの「蠱王」との契約完了後、朝食を終えた俺達は学院内の中庭に来ていた。


 本日の午前中の授業内容が格闘訓練だからである。


 魔術にとって格闘訓練は必須ではない。元の世界における仙道の様に、武術が魔術修行に組み込まれている様な流儀もあるが、そうでない流儀の方が多数である。


 もっとも、俺は魔術協会から戦闘任務を受ける立場であったため、プロの格闘家に匹敵するだけの格闘能力を身につけている。


 そして、この世界の魔術学院のカリキュラムに、格闘訓練が組み込まれている理由は察しが付く。魔王対策であろう。


 10年前にこの世界に突如として姿を現し、破壊の限りを尽くした魔王。当時の魔術師たちは戦いに関する技術を磨いていたかったために散々な目に遭い、その解決策としてこの魔術学院が設立されたのだ。


 魔術の戦闘における使用法が重要であろうが、格闘技術というものも命を左右する極限の場では重要となるのだ。


 このあたりは、いくら武器が発達しても近接格闘技術を修練する軍人も同じであろう。


 まあ、理由はともかくこの学院で授業を受講できる許可を得ているので、せっかくなので格闘訓練に参加することにしたのだ。


 気分的には特に気負う所は無い。


 以前、学生の中で実力者とされているクロニコフとの決闘の際も、戦闘経験ならクロニコフ以上のバイエルン一味を退治した際も、格闘能力なら圧倒することが出来た。


 多分、この世界では俺の世界程格闘技術が発達していないのだ。この世界は相当長い間平和が続いたというので、その影響かもしれない。


 ここは、元の世界で磨いた戦闘技術で華麗に無双して、「俺、また何かやちゃいました?」をしてみるのも良いかもしれない。


 この世界に来てから魔術が弱体化して、本領が発揮できないのでその位のことはしても罰は当たらないだろう。


「それでは、九頭刃(くずのは)アツヤさんは、とりあえず乙グループに入ってください」


 格闘のコーチをする男性の教師が、俺の参加するべきグループを教えてくれた。


 乙というのが気になるが、実力を見せればすぐに昇格可能だろう。


「お願いします!」


 準備体操を終えて実践訓練に移るところで、対戦相手として目を布で覆い隠した少年が現れた。彼の名はジャガン。その名のとおり邪眼使いで、普段は目を「邪眼」と書かれた布で覆い隠している。


 以前にお茶会をした時に親しくなった。


「こちらこそ」


 ジャガンの様子を観察する。目を隠していてもその影響はほとんどなさそうだ。そして、目を隠しているせいでかなりの強キャラ感を醸し出していた。


 これは警戒しなくてはならないかもしれない。


「テヤッ!」


「参った!」


 しかし、心配は杞憂であった。開始直後、軽く足払いてジャガンを転ばすと、簡単に降参された。


 ジャガンは普通に動作するのには支障がないものの、流石に格闘の試合における敵の動きまで捉えているのではなかった。俗に言う心眼の域まで達するのは中々厳しいのだ。


「次!」


 他の学生同士の試合も終わり、対戦相手の交代をコーチに促され、他の学生と対峙した。


 しかし、これもジャガンと同じく簡単に勝利を収めることが出来た。以前戦ったクロニコフとも再戦したが、これも前と同様に一瞬で地面に引きずり倒した。簡単に倒してみたが、感覚的には彼がこのメンバーの中では最上位であろう。

 

 やはり戦闘技術が未発達なので、多少訓練は積んでいてもこんなものだろう。


「先生、甲グループって言うのはもっと強いんでしょう? そちらに編入してくれませんか?」


「ううむ。あまりお勧めできないんだが、この分なら大丈夫かな?」


 先生は渋々承諾すると、甲グループの練習場所を教えてくれた。場所は以前にクロニコフと戦った決闘場である。


 決闘場に走って移動する最中、他のグループの訓練の横を通過した。


 女学生のグループでは、エルフのカナデが華麗に戦っていた。その動きは他者を寄せ付けず、もし男子学生の乙グループに入っていたなら間違いなくトップであっただろう。


 丙グループは猫妖精(ケットシー)のダイキチが入っていた。どうやら、肉弾戦闘に向かない種族が集められているらしく、ケットシーやフェアリー等の小型の種族がキャッキャモフモフと格闘している様は、どちらかというと可愛らしい代物であった。本当に野性味とかの無い連中である。


 そして、甲グループの訓練している決闘場にたどり着いた。決闘場は元の世界のストーンヘンジのような外見をしている。


 たどり着いたのだが、俺は即座に後悔した。なぜなら、


「お? お前は九頭刃アツヤじゃないか。どうしたんだ? ここは甲グループだぞ?」


「いやいや。どうやら九頭刃氏は乙グループでは満足できなかったと見える」


「おお! そうだな。あの、教室で黒板を破壊した腕前、とても人間とは思えなかったぞ」


 俺の目の前で色々言っている連中、彼らは人間ではなかった。


 それも、丙グループのように、猫などの可愛らしい種族ではない。ドワーフや龍人(ドラゴニュート)、人の形をした岩石の塊にしか見えない者など、見るからに戦闘向きの種族であった。


「ええ、まあ……」


 明らかに人間が素手で戦う相手ではないが、引き下がると格好が悪いので、歯切れの悪い返事をしてしまう。


「うむうむ。流石異世界からの客人(まれびと)は剛毅な事よ。さあ。早速試合だ」


 サラブレッドの中に紛れ込んだポニー、どころかロバの様な状態だが、無情にも試合は始まってしまう。


 こうなったら、やれるところまでやるしかない。


「どっせい!」


 ドワーフは小柄ながらその肉体は筋肉の塊であり、その突撃は単純な動きであったが恐ろしく重いものであった。


「ふんっ!」


 ドラゴニュートは鋭い爪を備えているため、その両手から繰り出される一撃は大振りながら油断の出来るものではなかった。それに、隙を見て長い尻尾による強烈な一撃が襲ってきた。


「あれ? 君は人間?」


「いや。俺は狼男(ワーウルフ)だ」


 人間かな? と思った相手も変身型の種族で、試合と同時にその本性を露わにして襲い掛かって来た。


「はぁ、はぁ。け、結構やるな……」


 何とかやられないように相手の攻撃を耐えきり、引き分けに持ち込んでこれたので、苦しいながらも強がりのセリフを口にした。授業の時間的には後一人相手にすれば終わりだろう。


「では、九頭刃さん。よろしくお願いいたします」


 最後の相手、それは見知った顔であった。


 鬼族(オーガ)のアマデオである。陰陽師を志しており、陰陽道の先達にあたる俺の教えを受けようと、最近行動を共にすることが多い。


 その身長は3メートル近くあり、この甲グループの戦闘向きの種族の中でも一番大きい。


「……よろしく」


 危険を感じさせる予兆が頭の中で鳴り響くが、最早破れかぶれでやるしかない。


「始め!」


 誰かの合図で試合を開始する。他のメンバーは物珍しさからか戦うことなく、周りに集まっていた。


「とりゃ!」


 アマデオの攻撃は、その巨体から繰り出される威力は恐ろしく、余裕を持って回避しても体を襲う風圧は恐怖を感じさせた。恐らく受け止めることは出来そうにないし、まともに食らったら一撃で終わるだろう。


 しかし、勝ち目もある。その攻撃は威力があるものの単調であり、回避はそれ程難しくはない。そして、回避が難しくないという事は、こちらは余裕を持って攻撃できるという事だ。


「ここだ! くらえ!」


 アマデオの何10回目かの攻撃をギリギリの見切りで回避した後、渾身の反撃を放った。


 中国拳法の形意拳に伝わる崩拳をベースにした技で、俺の得意技の1つである。


 体重の乗った拳はアマデオの鳩尾に深々と突き刺さる。相手が3メートル近い巨体のため、鳩尾といっても人間の頭部付近にあり、狙うのは中々難しかった。


「やったか?」


「なるほど。やりますね」


 フラグを立てるようなセリフを言ってしまったのが悪かったのか、アマデオは少し苦しそうな声色であったが、まだまだ戦えそうな様子であった。


「中々興味深い技を……確か、こんな風ですか?」


 言い終わるが早いか、アマデオは反撃の一撃を放ってきた。


 それは、今までの大振りの攻撃とは違い、腰を落として狙いすましてきた鋭い一撃であった。


「うわっ!?」


 何とか致命的なダメージは回避するべく、俺は後ろに跳躍してなるべくダメージを殺すようにした。


「おお! あんなところに回避したぞ!」


 ギャラリーが沸き立つ。アマデオの攻撃の威力と俺の跳躍が組み合わさり、ストーンヘンジの上に乗っかってしまったのだ。その高さは大体5~6メートルである。


「流石、九頭刃さん。見事な体術です」


「ま、まあな」


 アマデオは感心してくれるものの、こちらとしては内心ヒヤヒヤしている。


「もうそろそろ終わりの時間だから帰ろうぜ」


「そうだな。それにしても今日は面白かったな」


 授業終了の時間になったらしく、甲グループのメンバーは学院に向かって帰って行った。


 何とか危険な相手との試合に生き残ったので、心の底から安堵した。


 この世界の戦闘技術は未発達かもしれないが、元の世界にはいなかった戦闘に向いた種族がいるので決して油断できない事を、心の中に刻み込む。


 そして、この世界で生き残っていくためには、魔術を復活させるだけではなく、格闘技術も更に磨きをかけなくてはならないと心の奥底で決意した。


「さて、どうやって降りよう」


 身長を大きく超える高所から地面を見下ろし、助けを呼ぶべきかどうするか迷った。

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