3:幸せは突然に
その後カイルは、アリアの夫マリクに、明日ミザリーを連れて食堂に行くことを伝えた。
アリアにおまじないをして貰うためである。
「今日、第二のミザリー殿が、聖魔法のおまじないの件で訪ねて来たそうですね」
「おや。そうだったのか。気がつかなかったよ。アリアの愛しさについて語っていたからね」
「おまじないを見たいそうで、明日食堂に行きます」
「わかった、アリアに伝えよう。だがアリアの体調次第だからな」
「もちろん」
どんな時でもアリアが一番な、相変わらずのマリクに肩をすくめるカイルだった。
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翌日、ミザリーとカイルは城下町の食堂に向かった。
アリアは妊娠したとき一旦給仕を辞めたが、安定期に入りまた働き始めていた。
ただ体調によっては休むこともあるので、カイルは、前日に夫マリクに、ミザリーを連れて行くことを伝えたのだ。
幸い、今日は出勤したとマリクに確認を取っている。
食堂へ徒歩で向かう間、カイルは緊張していた。カイルは第四騎士団、ミザリーは第二。
二人は所属の団が異なるので、今日を逃せばミザリーとはあまり会う機会がないかもしれない。
次回への誘い文句をどう言えばいいのか、カイルは悩んでいた。
同じようにミザリーも緊張していた。好みのタイプのカイルは、話をしてみてとても好ましい性格をしていた。
穏やかで、優しく、思いやりがある。もしかして自分にも、マリクのように幸せな時を過ごすことができるようになるかもしれない。
その相手がもし隣を歩くカイルだったらどうしようと、妄想でいっぱいだった。
そうして二人それぞれが悶々としているうちに。食堂に到着した。
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「カイル!いらっしゃい。マリクから聞いたわ。そちらのお嬢さんね」
食堂に入るとすぐに元気な声が聞こえた。金の髪を後ろで緩く編んだ青い瞳の、マタニティドレスを着たアリアだ。
「初めまして第二騎士団、魔法術師のミザリーと申します」
「初めまして、マリクの妻のアリアです。
キュートな方ね。カイルの彼女?」
ニヤニヤしながらこっそり聞かれるが、明日以降、会う約束ができるか心配している段階だ。
「まだそんなんじゃないよ」
「あら? 昨日のおまじないは効果があったのかしら?」
「最高にあったよ」
「まあ素敵! じゃあ次は、カイルにもっと幸せが訪れますように!」
アリアがカイルの鼻先をちょん、とつついた瞬間ミザリーが小さく叫んだ。
「あ!それ!聖魔法」
「そうらしいわね。私にはわかならいんだけど、マリク様はそう仰るわ」
「私も体験してみたいわ」
「おまじないでよければ。ミザリーにもいいことがありますように!」
ミザリーは自分の鼻先を寄り目で見つめて嬉しそうにしていた。
その姿をカイルが優しく見つめていた。
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「これで何かいいアイデアが浮かぶかも」
自分で自分の鼻先をちょんちょんつつきながらミザリーは呟いた。
それを耳にしたカイルは次回会う切っ掛けになればと、困りごとを聞いてみた。
「実は布に防御魔法術をかけるとカチカチになって裁断もできなくて困っているの」
警護に関することなので、敢えてドレスと言わず布とぼかして愚痴をこぼしたミザリーに、アリアは何気なく言った。
「あら。ふにゃふにゃの防御魔法術ってないの?」