2:運命のおまじない
鼻をピカピカさせながらやってきた男性はカイルだった。
今日もランチタイムに第一騎士団のマリクと彼の妻である幼馴染アリアの食堂へ行き、 鼻をちょんとするおまじないをして貰ったのだ。
突然やってきた鼻ピカピカにミザリーは混乱していた。
「あなたは、私の運命なの?」
「え? 俺は第四騎士団のカイルだけど」
身悶えしている最中に話しかけられたのでうっかり願望を口に出してしまったミザリーだったが、
戸惑った表情をしているカイルを見なかった事にして、咳払いをし、自己紹介をする。
「失礼したわ。私は第二騎士団の魔法術師ミザリーよ。
突然だけど、その鼻はどうして聖魔法がかかっているの?」
ミザリーは自分より頭一つ大きな身長のカイルにグッと近づいて、上目遣いで彼の鼻を見つめたまま訪ねた。
真面目な顔で見つめているが、「好みの男前だわ」なんて考えていた。
一方カイルは、至近距離で大きな瞳に見つめられ、どぎまぎしながら答えていた。
フワフワした焦げ茶色の髪に大きな緑の目、少しつり上がった瞳が意思が強そうで、とてもキュートだと思った。
「あ、ああ。これはおまじないさ。俺の幼馴染アリアが城下町の食堂でかけてくれるんだ」
「食堂。それで街にちらほらいたのね。よければその人を紹介してくれない?」
ミザリーが、上目遣いで見つめたまま、花が咲いたように笑う。
カイルは胸が高鳴ることを止められなかった。
紹介すれば、彼女とまだ話ができると思ったが、やはり夫を通すべきと考えマリクの名前を出した。
「第一のマリク殿と結婚しているから、聞いてみたらいいんじゃないか?」
「あー、そこでマリク殿に繋がるのね……」
ため息とともに返事をしたミザリーは、少しだけうんざりした顔をしていた。
「もしかして、マリク殿の洗礼を受けた? もう」
いたずらっぽい、だがどこか同情したような表情でカイルは言った。
アリアと結婚してからマリクは自重をしてない。子供ができてからは尚更だ。
結婚前はきっちりとした神経質なイメージだったが、今ではすっかりデレデレの愛妻家である。
でも心の底から幸せを感じているから、周りも許容し生温く見守っていた。
「嫌じゃないけど、しばらく惚気はお腹いっぱいよ」
「じゃあ、俺が、デートに誘ってもいい?」
ほんの少しの下心と親切心でカイルはミザリーを翌日の昼食に誘うのだった。
ミザリーは満更でもない表情だが、少し恥ずかしそうに聞く。
「迷惑じゃない?」
「迷惑どころか光栄だよ、是非エスコートさせて欲しいね」
既にマリクと話をしている上に、今このタイミングで自分と出会った。この幸運は偶然じゃない。そう信じてカイルは、ミザリーをデートに誘った。
「じゃあお願いしようかな」と嬉しそうに目を細めて笑うミザリーは魅力的だった。
「やっぱりアリアのおまじないは効果があるな」
「なあに?」
「いや何でもないよ」
そう言いながらカイルは翌日の約束を取り付けたのだった。
今日の昼間にして貰ったおまじないは一つ。
素敵な出会いがありますように。だった。