1:幸せののろけ
全身がピカピカ光り輝いているマリクは、何だか優しい雰囲気をまとっていた。
「おや。第二のミザリー殿ではないか。私に何か用事が?」
「ええ。城下町で聖魔法で鼻が光っている人を見かけたんだけど……物凄く、マリク殿の方が光っているわね」
光る鼻について相談することを躊躇するほど、マリクの身体は聖魔法に満ちて光っていた。
「ふふ。そうだろう。私は妻に愛されているからな。
聖魔法に興味があるのか?
では私の妻がどんなに可愛らしいか、しっかり教えてあげよう」
マリクは標的を定めたハンターのように、お茶とお茶受けを用意し、椅子を勧めてきた。
なぜだか周りの人々は、諦めたような雰囲気だった。
「可哀想に。今日はミザリーが犠牲者か」
「貴重な犠牲者だ。邪魔をするんじゃないぞ」
他の騎士達は、我関せずと目線を逸らしている。
ミザリーは、なぜ鼻ピカピカの聖魔法から、妻の惚気になるのか理解できないまま、延々とマリクの惚気を聞かされることになった。
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「盛大に惚気られることがこんなに苦痛だなんて……。
結局惚気しか聞いてないわ」
盛大に惚気られると精神的な何かをガリガリ削られるような気がするのは、ミザリーに恋人がいないせいだろうか。
小一時間惚気られたミザリーは、鼻の光る聖魔法について聞き忘れたことを思い出し、精神的に疲労を感じた。
なんだかよろよろしながら第二騎士団に戻る最中、思わず立ち止まり壁に額をつけ溜め息をつくのだった。
「ああ、何だか、いたたまれないわ」
残念ながら聖魔法については聞出すタイミングが無かったが、愛しの奥様は、可愛くて優しくてお茶目で元気が良くて、もうすぐ子供も生まれるし、幸せで毎日が天上にいる気持ちだ、という盛大な惚気を延々聞かされて、うわぁと思う反面、こんなに愛されるのはどんなに幸せなんだろうと憧れも出てきた。
自分も幸せな恋愛をしてみたい。そんな憧れだった。
「今まで仕事だけでよかったんだけどな。
私も、どこかに素敵な人は落ちていないかしら。
この際、鼻がピカピカした人でもいいわ」
一人身悶えしながら壁と向き合って独り言を言っていると、ミザリーに少し遠くから声がかかった。
「大丈夫ですか?気分が優れないのですか?」
運命の相手だったらすごいわねと思いながらゆっくり振り返ると、警ら途中の第四騎士団らしき男性が足早に近づいてくるのが見えた。
茶色の髪に茶色の瞳、細身ながら均整のとれた体つき。少しタレ目の優しそうな青年だった。
彼はまるで運命のように、鼻がピカピカ光っていた。
「いたわ!!落ちてるじゃない!」
運命ってあるかもと思わずにいられないミザリーだった。