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第9話 初デートからのステゴロ

「アカネ、知ってる人いる?」

「……」


 アカネは俺の問いには応えず、俺たちを囲むやつらの1人に声を掛けた。


「あなたたちは今訓練中のはずですが」

「アカネさん、その男が新しいエインヘリヤルですか」

「そうですよ」


 話しかけてきた男が、俺に目をやり、鼻で笑った。

 ……なんだこの野郎。


「……お前、名前は」

「……あ?」

「てめぇの名前だよ、さっさと答えろや」


 他の奴らもやたらと煽ってくる。

 ……なんだこれは。

 これが、魂の強さで選ばれたエインヘリヤルなのか?


「ごめんね、ハガネ」

「いや、別にお前のせいじゃ……! ア、カネ……」


 やっべぇ。

 この声色。表情。目の色。

 俺はこの状態のアカネを、過去にみたことがある。

 これはあの、弄られてるアカネを助けようとして、俺が同級生の馬鹿に捕まったときの顔だ。


「アカネさん、なんでこいつがいきなりバディなんですか」

「なんか弱みでも握られてんじゃないのー? アカネちゃん」


 うっぜぇ。

 これが上位5万人?


「アカネ」

「……」

「アカネ!」

「! ……ごめん、今一瞬意識飛んでた」


 怒りでか。相当やべえな。

 っていうか、こいつら、どういうつもりだ?

 相手は戦乙女だろ? 半分とは言え、神だぞ。


「よぉセンパイ方、どういうおつもりですかねぇ?」

「あ? うるせえよガキ。こちとらアカネさんのバディになるためにどんだけ訓練積んできたと思ってんだ」

「あのねぇ、今おれらはアカネちゃんとお話してんの。わかるぅ? わかったらぁ……」

「おごっ!」


 いきなり腹に蹴りが入る。魂でもなんでも、痛いものは痛い。

 まぁいきなり来た新入りが、色々飛び越えて戦乙女とバディってことになったんだ、腹が立つのも分かる、気はする。

 気はするが、別に俺の知ったことではない。

 アカネは生前から俺に告白してくれた。俺が死んだのはアカネのせいじゃない。

 色んな偶然があって、俺は今ここにいるわけだ。

 といったことを伝えようとして顔を上げると、更に腹に追撃がきた。


「ハガネ!」


 たまらず腹を折ってうずくまる俺の背中に、次々と痛みが走る。どうやら寄ってたかって俺を踏みつけているらしい。

 アカネはというと、さっきの状態のまま、無言で俺を見つめている。

 ……そういえばさっきチョロっと聞いたな。


――


「ハガネ」

「ん?」

「エインヘリヤルは5万人いるってさっき言ったわよね」

「ああ。全員に序列があるんだったよな。試合だかなんだかで順位決めるってやつ」

「模擬戦、ね。で、新しく入ったエインヘリヤルの順位は、通常は一番下からのスタートなんだけど」

「なんだけど? お、そのサンダルいいな、似合うわ」

「ほんと? ありがと。……でね、ハガネはというと」

「ああ、戦乙女と組むエインヘリヤルの特権ってやつか」

「そう。それでいくと、ハガネはいきなり序列13位からのスタートなの。戦乙女と組む人を選ぶのは、戦乙女本人。順位は本来関係ないんだけど、やっぱり上位の人たちから選ばれることが多いのよ。……だから、いきなりボクと組んだハガネには、当然やっかみみたいなものもあると思うわ。他の戦乙女と組んでる人たちも、相当苦労してるみたい」

「ひー、死んでまでそんなのあるのかよめんどくせえ」

「まあ、人はどこまでいっても人だから。本質なんて変わらないわ。でも、これだけは覚えておいて。……エインヘリヤル同士の揉め事には、戦乙女は介入不可。破ると、バディ解消。ちなみにヴァルハラ内では、武器も出せないからね」

「マジか」

「うん、マジ。その代わり、解決方法は何でもいいの。……それこそ、殺すまで戦っても良い」

「次の日には蘇るから、か……」

「そういうこと。だから、気をつけてね」


――


 なるほどね。

 こういうことがあるよと。

 で、解決は俺がしないといけないよと。


 ――上等じゃん。

 腹、決めたぜ。


 俺はしゃがみ込んだ脚にぐっと力を込める。そしてそのまま、自分の背中を盾にするように、後ろに飛び退った。


「一丁前に逃げてんじゃねえよぉ!」

「逃げるかよ、嫉妬に狂った雑魚数人ごときで」

「あぁ!?」

「見苦しいんだよ、戦乙女に認められねえのはてめえら自身のせいじゃねえか。……ああ、言っとくけどよ、センパイ方」


 おーおー、相当頭に来てんな。いいぞ。


「俺がアカネに認められたのは、死ぬ前だからな。……羨ましいかよ、戦乙女からの愛の告白はよ?」

「てめえええええええ!!」

「生かしちゃ置かねえぞごらぁぁあああっ!!」


 俺に蹴りを入れたやつが飛びかかってくる。さすがに速えな。

 ――けど。


「読めてんだよ馬鹿野郎!!」


 やっぱりこいつは足技でくるか。

 5、6メートル離れた間合いから一気に飛び込んで、勢いのままに前蹴り。

 俺があんたにビビってたなら、悪くはないけどね。

 低い体勢で蹴りを避け、一歩前に出て脚を担ぐ。そのまま一気に立ち上がると、そいつは後頭部から床に倒れ込んだ。


「がぁっ!!」


 え? エインヘリヤルってこんなもんなの?

 こんなんで神と戦うとか言ってんの? 大丈夫か?

 ちらっとアカネを見ると目が合った。

 うわー、いい顔して笑ってんなぁ……。


 そんなことを思いながら、俺は倒れたそいつの顔面に、体重をかけて膝を落とし込んだ。

 顔面を潰された瞬間、そいつはビクン、と大きく痙攣し、動かなくなった。


 さぁ、次はどいつだ。

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