第8話 おさらいからの初デート
――神話世界の街ってのがどんなのか、ちょっと楽しみだな。
そんなことを言っていた頃もありました。
「……ふつーの街だな」
「ふつーの街だよ?」
日本支部から出た俺たちは今、隣接されたショッピングモールにいる。
なんかこう、日本のあちこちにある、ごく当たり前のモール街だ。
俺は死んだ時の格好、黒のTシャツに迷彩のカーゴパンツ、バイク用のショートブーツ。
アカネは白に近い淡い緑のワンピースに、足首まで編み上げたサンダルを履いている。
「あ、もっと神話っぽいのを想像してた? 石造りとか、漆喰とかレンガとか」
「まぁな……」
「でもほら、ここ日本支部だし」
「まぁな……」
それはそうだ。日本支部なんだから、別に北欧神話に寄せる必要もない。
でも、これはあまりにも現代っぽすぎる。
「まぁ、別のエリアにいけば、もっとそれらしい建物もあったりするんだけどね」
「別のエリア?」
「うん。ヴァルハラってね、実は1つなんだ。で、日本とつながる扉を管轄してるのが日本支部なの。だから、中に入れば全部地続きで、本部にも他の支部にも行けるんだよー」
「へぇ……」
周りを見回しながら歩く俺。
すると、あることに気づいた。
「値札が出てねえんだな」
「うん。無料だからね」
「へ?」
「言ったでしょ、みんな趣味で出してるお店なの。基本的には全部自分でまかなえるしね。それに経済活動がないからお金も存在しないし。一応お店だし『買う』っていう言い方はしてるけど、本当は好きなものを作って、それを気に入った人が勝手に持っていくだけなの」
ああ、そんなこと言ってたな。
てことはこれ、みんな趣味で作り出したものなのか。
言われてみると、確かに結構偏ってる。ラインナップは各店舗、相当ニッチだ。
「今日はここで、ハガネの普段着なんかを買おうと思って。いいかな?」
「ああ、助かる。とりあえず靴を見たいな。バイク用のブーツ、歩きにくいんだよ」
「そうだね、自作に慣れるまではこういうとこで探すのがいいかも。……靴はあっちだね、いこ、ハガネ」
「ああ」
俺たちは目についた店を冷やかしながら、靴屋に向かった。どの店も完全に専門店だが、そのラインナップはかなり充実している。これはいい靴が探せそうだとホクホクしていると、アカネが話しかけてきた。
「色んなお店があるでしょー」
「ああ、正直びっくりだわ」
「これ全部、エインヘリヤルが出してるお店なんだよ」
え、マジか。
さっき5万人のエインヘリヤルがどうとか言ってた気がするが、バランス的に店の数多すぎないか?
「1人でいくつもお店出してる人もいるからね。エインヘリヤルになるのは、並外れて魂が強い人だって話したじゃない?」
「ああ。じゃないとみんな一緒くたになっちゃうって聞いた」
「そう。でも、みんな元は兵士とか戦士だったわけじゃないんだ。ハガネも普通に高校生だったでしょう?」
確かに。
要は、色んな職業、年齢、性別、性癖のやつらがいて、その共通してるのが「魂が強い」こと、か。
「生きてるときとあんまし変わんねえんだな。数は少ないけど」
「どういうこと?」
「肉体の代わりに魂の強弱があったり、強い方がやっぱり強かったり……うまく言えねえけど、そういうとこがさ」
「あーうん、なんとなく分かるよ。器の価値が違うだけなんだよね、感覚としては」
そう。つまりはそういうことなのだろう。
生前が強かろうが弱かろうが、今ここで必要なのは魂の強さだ。そして強くないとここにはいられない。
選民思想、という言葉が頭をよぎる。が正直、別にどうでもよかった。
おれはここにいて、横にアカネがいる。
それが分かってりゃ問題ない。
「あ、これなんかどう? 良くこういう登山靴みたいなの履いてたよね」
「トレッキングシューズな。……ていうか良く知ってるな」
「……ずっと見てたもん」
「お、おう……」
不意打ちかおい。もん、じゃねえよ可愛いな。
それに、おれの好みをよく分かってる。
「いいじゃん、それにするわ。店の人とかいないのかな」
「自分の商品が売れるのを見たい人ならいたりするけど、ここは無人だねー。あとはどうする? 訓練始める前に欲しいものない?」
そうか、明日からは訓練が始まる。
動きやすい服は用意しといたほうがいいな。
「ジャージかな。まぁ実際魂だから、動きやすさとか関係ないんだろうけど、気分的に。あと、来る途中でちょっと気になる店があったから、そこもいいか?」
「もちろん、じゃあその2つ行ったらフードコートでお昼にしよっか。……そこで、聞いて欲しいこともあるし」
「アカネのことか?」
「うん」
何か思いつめるような、真剣な表情のアカネの頭を、俺はぐしぐしと少し乱暴になでた。
「にゃーっ、なにをするぅ!」
「大丈夫だよ」
「え?」
「もう何があっても今更だし、そもそも俺がアカネを嫌うとかないから」
「……うん、ありがと」
ええ可愛いなこんちくしょう。
それから俺たちは色違いのジャージを揃え、寄ってみたかった店に行く。
そこは、ヤンチャカジュアルな店だった。
「ねね、これ特攻服ってやつだよね? え、ハガネ、こういうの好きだっけ?」
「いや、そっちには興味ねえんだけどさ。……これ」
「あ、スカジャン」
「そ。これはよく着てたんだよ。……お、いい色あるな」
深い青と明るいオレンジの2トーンを見つける。……でもこれ無地だな。
「あ、いいねこれ。ハガネとボクの魂の色だしっ」
「そういえばそうか。……でもこれ無地なんだよな」
「なんかメモがついてるよ。『あえて無地にしています。気に入った柄やエンブレムなどを入れてください』だって!」
ほほー、なるほど。
「ユニフォーム的にも使えるよってことか。面白えな」
「うん、ボクも買おっと。色はハガネと逆パターンのこれがいいな」
これはあれですか、ペアルック的なことですか。
まぁでもコンビのユニフォームだと思えばいいか。
「いいんじゃね? そしたら柄は後で考えようぜ」
「だね!」
なんだおい、デートってこんな楽しいのかよ。したことなかったけど、なんかもっとめんどくせえもんだと思ってたわ。
――――
フードコートに着いた俺たちは、既に出来上がっている料理を取る。そうか、現世じゃないから麺が伸びたり、冷めたりもしない。なんなら別に食わなくても死にはしないが、そこは精神衛生上、食べておいたほうがいい、ということなんだそうだ。
「……で、アカネはどうして戦乙女になったんだ?」
「んー……」
揃ってラーメンを啜っていた俺たちは、食べ終わったところで本題に入ることにした。今はアカネは烏龍茶、俺はアイスコーヒーを飲みながらの食休みだ。
「ぶっちゃけ、ハガネと変わらないのよね」
「へ?」
「うん、ボクもねぇ、死んだの。ボクの場合は病気だったんだけど。で、あ、これ死んだなぁってなった時、別の戦乙女がお迎えにきたんだよ」
……マジか。
「それ、いつのことだ?」
「んとね、ボクが小学校6年の時。で、その時に、よくわかんないけど、戦乙女の素質が高いって言われて、それでこうなりましたって感じ」
「おま、俺のこと言えないレベルで雑だぞ」
「でもそうとしか言えないのよね。ワルキューレとエインヘリヤルをどこで区別してるかって、それこそ神様じゃないと分からないんだ……って、どしたの、ハガネ」
「いや」
アカネが死んだのは小6。
てことはだ。
「俺とアカネが会ったのは中学の時だ。その頃にはもう戦乙女だったってことか?」
「そだよ」
こくん、とアカネが首を縦にふる。
「素質はあっても、まだ人間としての経験が足りないってことで、人間の学校には行きなさいって話になってね。それで、ボクをお迎えに来てくれた戦乙女が母親代わりになってくれて、まぁ色々うまいことやって、転校生ってことにしたの」
「本当のご家族は……」
つい聞いてしまった俺にちょっと苦笑しながら、アカネは淡々と答えた。
「それもハガネと一緒。向こうでは、最初からいないことになってるし、ボクはボクで魂になったときに未練消えてるし。戦乙女になる時、半分神様の魂も受け継いでるから、辛いとかは全然なかったよね」
そういうもんか。まぁ本人辛そうでもないし、それでいいか。
……で、だ。
「……なぁ」
「……うん。まぁ、こういう人もいるってことだね」
「めんどくせぇな……」
話し込むうち、いつの間にか俺たちは、数人のエインヘリヤルに囲まれていた。





