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第7話 謝罪からのおさらい

「……で、どこまで分かった? ヴィーザル様のお話」

「ん、あぁ……」


 日本支部司令官、ヴィーザル、様? ……慣れねえな、呼び捨てでいいか。いいって言ってたし。……ヴィーザルと会合した後、俺とアカネはさっきの和室っぽい部屋に戻ってきていた。この部屋は俺が使っていいらしい。畳があるとなんかほっとするな。


 今は座布団とちゃぶ台を出し、お茶を飲みつつ、アカネと一緒に復習タイムだ。こころなしか緊張していたアカネも、今はすっかり緩んだ表情で、座布団にペタッと座っている。


「……つまり、あれだろ? 来年の7月にノストラダムス戦争が起こると」

「セカンドラグナロクね」

「それが起きると……なんだっけ?」

「……別の神話世界のアンゴルモアと呼ばれる破壊神を呼び起こす原因になり、今度は神話世界全部を火の海にする、ね」

「で、それを防ぐんだかなんだかするためにも、高天原を奪還しないといかんと」

「……」


 アカネはちょいちょいツッコミを入れながら「訂正ね」……訂正を入れながら、おれの話を聞いている。どこから出してきたのか、甘辛い揚げ煎餅を齧りつつ、ふーふーしながらお茶を飲む姿は、もう完全にくつろいでいる様子だった。


「奪還する理由の一つが、味方のなんだっけ、トオルくん? を復活させるためだと」

「トール様ね」

「で、そもそも高天原にやらかした黄泉の国には、北欧のロクだかロッキーだかってのがバックについてると」

「……ロキ様ね」

「そのロキに対抗するためにそのトールくんを復活させたい、そのためには大量のなんだかの石? が必要だと」

「……魂の意思、ね」

「で、そいつは高天原を取り戻すと手に入ると。……これ詰んでるんじゃねえの?ラスボス倒さないとラスボスを倒す武器が手に入らないってことじゃね?」

「……まぁ、そこはいずれ説明するけど、その前にね、ハガネ」


 なぜだろう、背中が寒い。


 いや、気づいていたんだ。

 アカネの表情が「変わらないのになんか怖くなってる」のは。


「ど、どうした? なんか間違ってたか?」

「雑」

「へ?」

「雑なのよ、全部。大雑把すぎてもうどこから突っ込んでいいやら……」

「あれ、訂正じゃねえの?」


 睨まれた。いや、お前もツッコミの自覚あったんじゃん。


「生前も大らかなタイプだとは思ってたけど、魂はここまで雑だったかぁ……」

「自慢じゃねえけど、生まれてこの方細かいとか繊細とか言われたことはねえぞ」

「いばって言うことじゃないのよねぇ……」


 アカネはもはや、ちゃぶ台に突っ伏している。

 そこも可愛いんだけどね、とか呟くな。聞こえてるから。


「邪魔するぞ」

「あ、ヘイムダル、さん」

「あ、失礼しました。……ご用件は」

「あぁ、かしこまるな。ヴィーザル司令からの伝言を伝えにきたんだが……苦戦しているな、アカネ」


 ニヤニヤするヒゲおやじ。くそう。


「苦戦、といいますか……。多分本人は理解はしてるんだと思うんですが、その理解の仕方が」

「ハガネ、お前の立場はなんだ?」

「アカネの相棒」

「……やることは?」

「アカネを守る」

「歯向かうやつは?」

「ぶん殴る」

「よし」

「よし、じゃないです!」


 食って掛かるアカネを、ヘイムダルはまぁまぁと宥めながら苦笑した。


「いや、実際エインヘリヤルだからな。自分が戦う理由、行動原理を理解していれば、あとはどうでも……といっちゃいかんか。まぁ、そう急いで知らねばならん訳でもあるまい」

「まぁ……」

「ハガネはあくまでも人間の魂だ。アカネの様な半神でも、ましてや神でもない。人間世界に影響のあることだとて、神話世界の事情を知らねばならぬ立場でもないだろう。もちろん、知りたいと言うならば隠すことはしないがな」

「なんか釈然としない……」


 アカネが納得行かない顔でもにょもにょと呟く。


「それとも」


 ヘイムダルがニヤァ、とあまり趣味の良くない笑みを浮かべた。


「自分の知っていることを、ハガネと共有したいと、そういうことなのかね?」

「! ……くぅぅ」


 え、なにそれ可愛い。


「そっか……じゃあ俺ももうちょい頑張らねえとなぁ」

「や、だからっ! も、もう充分頑張ってるし!」

「……」


 アワアワしているアカネを見たヘイムダルが呆気にとられている。


「……アカネが慌てるところは初めて見たな」

「え、そうなんすか?」


 いや、割とこの子こんな感じだぞ?


「うむ。いつもはそうだな、我と会話をしている時の雰囲気だな。あまり感情を見せないというか」

「へぇ……」

「な、なによその目はっ!」


 睨んでるけど可愛いだけですよ?

 それはそうと、俺は一つ気になっていることを聞いてみた。


「あのさ、俺、生きてる間に喧嘩とかしたことなかったんだけどさ。亡者が来た時、なんであんなに動けたんだ?」

「あぁ、それは……」

「我から説明しよう。丁度話そうと思っていたこともあるしな」


 ヘイムダルは崩れていた相好を引き締め、元の厳格な顔になった。


「お前はもう、死んでいる」

「いや、わかってますけど」

「まぁ聞け。肉体というのは、人間の魂の容れ物だ。その肉体の持つ力を上回る事は出来ない。……だが、今のお前は魂だけの存在だ。つまり、剥き出しのお前自身だ」

「剥き出しの俺……」


 肉体を強くするには鍛えなくてはならない。そして、鍛えれば鍛えるほど、魂は肉体の力を引き出せる。

 つまり肉体は拘束具だってことか。


「そして、魂の強さと肉体の強さは比例しない。現世で英雄だったからといって、神話世界で強いとは限らんのだ。もちろん、逆もまた然り」

「魂っていうのは強いんだけど、普通はそのままだと形を保っていられないの。だから肉体っていう器に入ってるんだけどね」

「俺はちゃんと俺の形してるぞ」

「うん、だからそれだけ魂の純度が高くて、強いってことなんだよ」

「魂ってのは本来個体では存在出来なくてな。大きな一つのカタマリとして存在し、合う肉体を見つけるとそこに入り込み、生まれ変わる。日本では輪廻と呼ぶらしいが、実際にはそういうことなんだ」


 アカネとヘイムダルが説明してくれるが。


「えっと、つまりどういうこと?」

「つまり、ハガネは輪廻から外れた存在ってこと。エインヘリヤルっていうのはみんなそうなんだけどね」

「ちなみにエインヘリヤルになった時点で、現世にお前がいたという事実はなくなってるからな」


 え、まじで?

 まぁ、俺のことで哀しむ家族は見たくなかったけど、なかったことになってるってのは、それはそれで……。


「ハガネ……」

「ま、いいか」

「そこも雑っ!?」


 雑でも強がりでもなんでもない。

 死んだ時にも感じたことだったが、肉体から離れた時点で、生きていた頃の執着などがするっと抜け落ちている。残った家族が気がかりではあったが、なかったことになるなら、俺のせいで泣くことにならないのなら、それはそれでいい。


「なったものはしょうがねえし、最初からいなかったことになるなら別に大した話でもねえ。俺が死んで家族が泣くこともねえし、俺には相棒もいるしな」

「……お前がエインヘリヤルになったのもまぁ、わかる気はするな……。よし、ハガネ」

「え?」


 ヘイムダルは、そのバカでかい手で俺の肩を叩いた。いてえっす。


「明日からお前をがっつり鍛えてやる。全エインヘリヤル50000人の頂点に立たせてやろう。……とはいえ、戦乙女(アカネ)専属の時点で、トップ13人に入ってはいるがな」

「ボクも手伝う! あ、相棒、だもん。ハガネは最強のエインヘリヤルになるって信じてるから!」


 とりあえず今日はゆっくりしとけ、とヘイムダル言い残して部屋を出ていった。

 今はアカネと2人、ちゃぶ台を囲んでお茶タイムだ。


「ね、ハガネ」

「ん?」

「あとでさ、街に出てみない? 買い物なんかも出来るし」


 お?

 おお?

 これはあれか、で、デートってやつか!


「お、おう、構わねえよ」


 平静を装ってみるが顔が熱い。

 告白されてOKした仲ではあるが、まさか死んだ後にデート出来るとはな。


「……ボクのこともいっぱいお話、したいしね」

「……そうだな。いっぱい教えてくれ。アカネのことも、この世界のことも」

「……うん!」


 ヴァルハラの街か。

 神話世界の街ってのがどんなのか。

 ちょっと楽しみだな。

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