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第6話 膝枕からの謝罪

 何故だろう。

 戦乙女は不死不滅だと、勝手に思っていた。


「あ、でもそうそう死ぬことはないよ? 攻撃力は、神と同じくらい高いんだから」

「攻撃力は、だろ?」

「う……」


 つまりそれは、防御力は人並み、てことだ。


「……良かったわ」

「……え?」

「俺の武器が盾で。復活出来る俺が盾なら、ずっと守ってやれるもんな」

「ハガ、ネ……」

「そんな顔すんな。俺は、あの門番より強くなるんだろ?」


 膝枕の状態のまま、アカネの頬を手の甲で触る。アカネは少し驚いた顔を見せた後、俺の手を上から被せる様に握り、優しい笑顔を向けてくれた。


「うん。それは保証する。ハガネは、最強のエインヘリヤルになるよ。最高神って呼ばれる神々すら凌駕する程にね。ボクには分かるんだ」

「……そんなにか」

「うん」

「そう、か……」

「うん……」


 笑顔を浮かべたアカネの顔が近づいてくる。

 あれ、これはもしやアレはイベントか!? それにしてもアカネ身体柔らかいな太ももも柔らかかったしほっぺたも柔らかかったしなんかいい匂いだしこんな子がどうして俺にここまでしてくれるんだあああ近い近いやばいやばいでも俺がされてる方だからやばくはないのかだがしかし「甦ったか、猿!」……やっぱり殺すぞてめえ神。


 入ってきたのは、あの門番、ヘイムダルだった。

 鍵、締めとこうよアカネちゃん……。


「いやぁ、まさかいきなり我に触るとは思わなんだ、つい思わず本気に……!」

「ヘイムダル様」

「……ア、アカネ?」


 あ、目が座ってる。っていうか瞳に光がない。


「人の部屋に入るときはノックを。それから、畳に土足で入るのはおやめください。そもそもまだ明け方ですし、ハガネはついさっき起きたばかりです。初日にいきなり殺しておいて、甦ったか、猿……ですって? 昨日私が申し上げたこと、もうお忘れですか?」


 へえ、目上に対しては【私】っていうんだな。いつでもどこでもボクっ娘なのかと思ってた。ちょっといいな、俺には心開いているみたいな。……俺、なんでもいい方に考えてるな、アカネに対しては。

 一方、ヘイムダルはいつの間にか正座でしょぼくれている。それでも俺の顎くらいまであるんだからやっぱりでけぇ。


「いや、本当にすまん。昨日はやりすぎた。つい、楽しくなっちまってなぁ。……まさかいきなり一発入れられるとは思ってなくてな」


 そこまで言うと、ヘイムダルは真剣な眼を俺に向けた。その表情は真摯といってもいい程で、身体を起こしていたおれも、改めて居住まいを正す。


「ハガネ、といったか。済まなかったな。あれは、新人のエインヘリヤルに必ずやる、儀式みたいなもんなんだ。その時の反応によって資質を見極め、配属を決めるんだが……」


 ヘイムダルは不意に笑った。それは嘲りでも揶揄でもない、本当に楽しいと感じている笑顔だった。


「随分長いこと門番をやっているが、初回に一発入れたのはお前で13人目だ。アカネの言うのは本当だったってことになりそうだなぁ」

「……つまり、あれは俺を試したってことっすか?」

「まぁ、そういうことになるな。で、それ自体は儀式なんだが……」

「ハガネを猿呼ばわりしたのは、ある意味ボクのせいなの。……ごめんね?」


 アカネが心配そうに俺を覗き込む。俺はと言えば、何がなんだかわからず、ただ口を半開きにして聞いているだけだった。


「どういうことだ?」

「アカネを我の女にしたいと思っているのは本当だからだ」

「……あ?」


 そっち? でもそれ、アカネのせいじゃなくて。


「そう怒るな、今はそんなつもりはない。……まぁ、お前が見込み違いのヘタレだったなら話は別だったがな」

「……もしそうだったら、次は私と闘うことになっていましたよ。全力で」


 あ、アカネがガチで怒ってる。まだそれほど深い付き合いでもねえが、それくらいはわかるぞ。


「怖いことを言うな……。ところで、今日はこの、ヴァルハラ日本支部の司令官、ヴィーザル様に謁見することになっている。アカネと我も同行するので恐れることはない……まぁ、お前の肝の据わり方からして、心配はいらんだろうがな」


 別に、そんなに度胸があるとは自分では思っちゃいないが。

 ぼんやり考えていると、アカネが俺のすぐ横に寄り添ってきていた。


「とりあえず、着替えよっか。一応制服みたいのはあるから、それを着ていけばいいよ。慣れてきたら自分で自由に作れるし、そういうの得意な人がお店出してるからそこで買ってもいいし」

「俺にそんなセンスねえよ? ていうか服なんて作ったことないし」

「イージス創った時みたいにすれば出来るよ? 忘れてるかもだけど、今のハガネは魂だけの存在だからね?」


 あ、なるほど。便利だな魂。


「じゃあボクはちょっとお風呂入ってくるね。……一緒に入る?」

「ええっ!?」

「じょーだんだよ、まだね。じゃあちょっと行ってくるね」

「お、では我が」

「ヘイムダル様まだいらっしゃったんですか? ささ、門にお戻りください。なるはや(・・・・)で」

「おう……」


 扱い雑だなおい。


――――


 制服に着替えた俺たちは今、司令室に向かって渡り廊下を歩いている。

 この建物は執務棟と居住棟に分かれているらしい。居住棟には神々とワルキューレ、ワルキューレ直属のエインヘリヤルが住んでいるそうだ。


「で、その司令官ってのはどんなやつなんだ? 神様、なんだよな?」

「一応様をつけてね? 神様だし。ボクの前ではいいけどさ」

「お、おう、すまん」


 アカネはくすっと笑うと、俺の腕に自分の腕を軽く絡めてきた。


「お、おい」

「このくらいはしておかないと、周りが中々認めようとしないからね。……意外とモテるんだよ、ボク」


 いや意外でもなんでもないけど。たまにすれ違う神とかエインヘリヤルに睨まれるし。

 真っ赤になるなら言わなきゃいいのに可愛いなこんちくしょう。


 ていうかね、なんか柔らかいのがふにょっと当たるんですよ。さっきから。

 今アカネは、戦乙女の鎧姿ではなく、白を貴重にした軍服のような格好である。

 おれはおれで、さっきの部屋のクローゼットに入っていた、青を貴重にした軍服姿になっている。神々との会合の際には必ず着ることになっているそうだ。


 目覚めて風呂に入った後、俺とアカネはヴァルハラ日本支部の司令官ってのに会うために、司令官室へと向かっていた。ヘイムダルも合流するらしい。なんでも、後見人ってのになってくれるらしいが、それが何の意味があるんだかさっぱりだ。

 まぁここまで来たらなんでもいい。

 俺は、俺のやれることをやるしかない。


「司令官はね、ヴィーザル様って言って、北欧神話世界の総大将、オーディン様の息子さんなの。大丈夫、悪い人じゃないよ」

「まぁ、縁もゆかりもない日本神話の世界を助けようってんだからなぁ。悪い人じゃないんだろうけど」


 聞きたいことはいくつもある。

 何故、日本人であるアカネが、北欧神話の戦乙女になっているのか。

 何故、ヴァルハラは高天原を奪還しようとしているのか。

 日本神話の神はどうしているのか。等々。


 でも、多分まだ考えもしないこともたくさんあるだろう。

 あれもこれもとがっついたところで、俺の頭で追いつくようなもんでもない。

 まずは話を聞いておこうか、というところで、司令室に着いた。他の部屋とは違う、大ぶりで重そうな扉が目の前にそびえている。

 アカネが一歩前に出て、扉の前で申告した。


「ワルキューレ、風見アカネ。新しく配属になったエインヘリヤル、結城ハガネを連れてまいりました」

「……よい。入れ」


 眼の前の扉がゆっくりと開く。扉の間からは淡い光が漏れ、部屋の中の明るさを示している。


 入った瞬間、ふわっと淡い、いい香りがした。

 部屋の中には巨大なテーブルがど真ん中に置かれ、壁一面に本棚がずらりと並んでいる。一番奥には、これもまた大きな執務机があり、ヘイムダルよりさらに大きい、巨人かと思うような大男が椅子に座ってこちらを見ていた。


「ようこそ、ヴァルハラ日本支部へ。私がヴァルハラ日本支部司令官、ヴィーザルだ。君を歓迎するよ。――若きエインヘリヤル」

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