最終話 大往生からの稗田阿礼からの大団円
「弁慶、さん……」
「弁慶……」
弁慶さんは、その身体で巨人たちの攻撃を全て受け止めた後。
他のエインヘリヤルから受け取っていたらしい最後の得物、「爆雷」を抱え、やつらの中心で爆散した。
弁慶さんは英霊だ。恐らくまた、復活してくるだろう。
だが、エインヘリヤルの様に、次の日にはまた、とは限らないらしい。
それどころか、そのまま現世に生まれ変わる可能性すらある、とのことだ。
「次は、平和がいいっすよね、弁慶さん……」
「……弔いは後だ。いくぞ」
「土方さん! それはあんまり……」
「アカネ」
「ハガネ! だって!」
「いいから」
ひたすら前を向き、進もうとする歳さんの頬には、とめどなく涙が流れている。
それを見たアカネは、息を呑んだ。
「ヘイムダル、いけるか」
「……おう、最後の一発だ。……少し下がってくれ」
ヘイムダルは、歳さんの言葉にそう応えると、扉から数歩の距離を置いた。
大きく息を吸い、吐き出す。
「……ふんんっ!!」
ドォォォオオオオオオンンン――……。
爆発の様な地響きと共に、鋼鉄の扉が開いた。
いよいよか。
奥から、冷たく生臭い空気が流れてくる。
顔をしかめつつ中に入ると、そこには大きな木が一本そびえ立っていた。
「……これ?」
「らしいな」
「おい、てめぇ稗田阿礼か!」
俺は声を張り上げた。やるならさっさとやる。
すると、木の上の方から、低く響く声が聞こえてきた。
「ようやく、きたか……」
「偉そうに上からしゃべりやがって。……降りてこいおらぁっ!!」
「……なにを言っておる。余は既に汝らの眼の前におるではないか」
「あ!? てめぇ、何言って……」
「ハガネ」
「あんだよイザナギ」
「あの木が、稗田阿礼だ」
「なにぃ!?」
「声が、こっちからも響いてくるんだよ。……つまり、これが、歪んだ日本神話そのものだ」
すると、風で枝ががさり、と鳴るような音がした。
がさり。がさりがさり。
がさがさがさがさがさがさがさがさがさがさっ!!
音が大きくなり、連続して鳴り続ける。
「なんだ……?」
「ハガネ! あれ!」
「! ……えげつねぇ」
そこには、幹や枝、葉の部分など、いたる所から人の顔や動物の一部分などが浮き出ていた。
「神話が具現化してるのか……」
「本体は上、……だよな」
「……うん」
「ここまで来て二の足踏むわけにゃいかねえ。いくぞっ!!」
歳さんの合図に、俺たちは大木の頂上へ向かって走り、跳んだ。
――――
「おうらぁあああっ!!」
歳さんが邪魔な枝を切り落とす。切った枝は神話の神々の姿となり、地面に落ちて消滅した。
「構うな! やつらはいずれ転生する! ……稗田なんかに取り込まれやがって、自業自得だバカどもが」
イザナギがイザナミを背負い、跳躍しながら叫ぶ。飛びながらイザナミの影が、浮き出た神話の一部を攻撃していた。
なるほど。
そういうことなら遠慮はいらねえな。
それに、俺たちの後ろに、幹から生えてきた追手がもりもり湧いてきている。
「っしゃ、いくぜアカネっ」
「了解!」
揃って跳躍。先頭の歳さんに追い付いた。
俺たちから少し離れて付いてくるヘイムダルは、追手に阻まれていた。
「ヘイムダル!」
「構うな、いけっ! 流石にこの身体のデカさでは、お前らに付いていくのはしんどいんでな。とりあえずこいつらを潰しながら行くさ」
そう言ってヘイムダルは、幹に大剣を突き入れた。
ヘイムダルが殿を買って出てくれた。
てーことは、もう後ろからの追手を気にする必要はない。
いよいよ、本体とご対面、だな。
木の最上部。
そこは、小さな楽園のようだった。
木の上にも関わらず、そこには草木が生え、小鳥がさえずり、兎が跳ねている。
視界の外れには苔むした小さな岩山。……岩山?
「稗田の野郎、ふざけやがって……」
「? なにがだよ?」
「これはかつての高天原そのものじゃ……」
マジか。
「大分小せえけどな。だがこの感じ……まさか、ここは」
「ご名答だイザナギ。ここは、天岩戸だよ」
「! 稗田! どこにいやがる!」
「ここさ」
言うなり、岩山の頂上に、一人の人間が生えてきた。
見た目、60歳くらいか。貧相な身体に、紫色の驕奢な着物を着込んでいる。
「……あんたが稗田阿礼か」
「そうだ。結城ハガネ、と言ったか? 貴様の様なゴミ同然の存在が、まさかここまで辿り着くとはのう」
「ゴミですって……」
「そうとも、わるきゅうれのお嬢さん。たかがイザナギの欠片の容れ物だ。中身がなくなればゴミ同然……」
「……へぇ」
この時俺は、なぜこんなことを言ったのだろう。
「そのゴミにてめぇはぶち殺される訳だ。安心しろよ。蘇ることも出来ないくらいの細切れにしてやるぜ」
盾を構え、剣を抜く。全身から発する光は、周囲の色を藍色に染めていた。
「てめぇの歪んだ神話を壊して、俺が最初から作り直してやる!!」
聞くやいなや、稗田阿礼は高らかに笑い始めた。
「ひゃあーーっひゃひゃひゃ、面白いやってみろ! この下の天岩戸には、天照大神が眠っている。余を見事倒し、岩戸を開けてみせよ!」
「やってやろうじゃねえか!!」
俺とアカネ、イザナギとイザナミ、それに歳さん。
これだけいりゃあ、あの糞じじい一人ぶち殺すのは訳もねえ。
――はずだったが。
「ぐっ!!」
「う、うごけぬ……!」
イザナギ・イザナミの動きが止まっていた。
「当たり前じゃ馬鹿が。余の日本神話では、貴様らは仲違いした後互いに野垂れ死にじゃ。精々その場で、このゴミどもを始末する様を見ているがよいわ」
「て、めぇっ……!」
「待ってて、イザナギさん、イザナミさん」
アカネが、全身からオレンジの光を放つ。
「俺たちでやってくらぁ。ちょいと疼くだろうが、きっちりカタぁつけてくるからよ」
歳さんが淡く青い光を放つ。歳さんの羽織と同じ色だ。
「この神気取りが! てめぇがゴミと笑う人間様にぶち殺されやがれえええっ!!」
3つの光となった俺たちが稗田に迫る。その光はどんどん量を増し、加速していく。
「貴様ら……っ、ゴミの分際でぇ……っ!」
「うおらぁああああああっ!!!!」
そして。
全てが、白く輝く世界となった。
――――
それから、月日が過ぎた。
「ねえ、あたしいっつも思うんだけどさー」
「ん? 素敵かっこいいだろ?」
「まぁ、それは認めるよ。でもね?」
「なんだよ?」
「なんでいつも! 最後白くなって終わっちゃうの!! 稗田阿礼はどうなったの!? 天照大神は!? あと歳さまの大活躍はぁっ!?」
「歳さまっておまえ……。ついこないだも遊びに連れてってもらってたじゃねえか。それに復活した高天原にもちょいちょい連れてってやってるだろ」
「そうじゃなくて! あたしは、歳さまの活躍を知りたいの!! あんなイケオジ、このヴァルハラにもそうはいないんだから! ましてやそこで、お父さんと親友になったっていうし! おーしーえーてーよー」
「おおう揺らすな揺らすな、脳がもれる」
俺とアカネの間には、可愛い娘のアサギが生まれていた。魂だけとはいえ、もう現実世界に生まれ変わることのないエインヘリヤルは、同じエインヘリヤルかワルキューレに限り、子どもを創ることが出来るらしい。
「ただいまー」
「あ、お母さんおかえり!」
「おー、おつかれぇ」
「ベンくんもおかえりー! ほら、お姉ちゃんが抱っこしたげるからおいでー」
アサギにてちてちと近寄る赤ん坊。実は弁慶の生まれ変わりで、うちの養子である。
一応記憶はあるらしく、たまに困った眼でこっちを見ている。
あの時爆散した魂は中々元に戻らず、赤ん坊からやり直しになったようだ。
「しかし、こんな可愛いちっこいのがあんなゴッツくなるんだなぁ……」
「ふふ、そうだね。でも、すこしずつ成長してきてるし、しばらくしたら元に戻るんじゃないかな?」
「ねえねえ、今日はヘイムダルのおじちゃんも来るんでしょう? そしたらさ、また続きをおはなししてよ!」
「えーまたかよぉ……。お前も好きだなぁ……」
「だって! みんなかっこいいんだもん! ねーいいでしょ?」
「おまえ、俺がその目で見られるのに弱いって知ってて……」
「おーねーがーいー」
「ったくしょうがねえな」
困っている俺を見て微笑むアカネ。生まれ変わる前の話だからか、興味津々な弁慶。そして、既にワルキューレの才能を発揮しだしている、アサギ。
これが、俺たちがこじ開けた扉の先。
俺たちが、自分の手で選び取ってきた未来だ。
「わーったよ、じゃあヘイムダルが来たら、セカンドラグナロクのお話な」
まあ、そういうのも悪くない。
いずれまた、あのイタズラ好きがやらかすまで。
平和ってのを楽しもうじゃねえか。
これにて第一章、完結です。
お読みいただき、本当にありがとうございました。





