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第28話 鬼神からの大往生

 稗田阿礼への扉は、黄泉の国の最奥部にあるって話だ。

 俺たちは今、黄泉の国の入り口に再びやってきている。


 しかし忙しいな。事件ってのは1つ起きると連続して起きるとはいうけど。


「昨日の今日でもう稗田阿礼かよ……」

「そうね……さすがにね……」

「それが、偶然でもなさそうなのだ」

「ヘイムダルさん」


 今回、動員出来る戦闘員は全て投入することになった。

 つまり、おれたち、歳さん、弁慶さん、ヘイムダルの5人。

――そして。


「俺が復活したんでな。それに気づいた稗田の野郎が慌てて動き出したんだよ」


 つい昨日まで俺の魂に居候していた、イザナギ。さらに、


「手早く済ませ、巣作りを続けようぞ。(わらわ)とっても楽しみ」


 イザナギにくっついているイザナミ。すっかりデレデレである。


「とりあえず、この7人でブッコミかけるってことすか」

「おう」

「……ロキは?」


 ロキ、と聞いてヘイムダルがぴくりと反応する。


「……ロキがいるのか」

「いや、あいつはもういねえよ」

「……どこへ?」

「さあな。俺が復活した時、あいつはもう自分が必要ないって言って出てったんだよ」

「……そうか」


 ヘイムダルがちょっと残念そうに返事をした。

 この関係、よくわかんねえんだよな。

 ロキは、オーディンの息子で、最強の戦士トールの弟、だっけか。

 要は身内で揉めたって話だろ? そこからその、ラグナロクってのがどう繋がるのかはわかんねえけど、まあ神様だしな。なんか色々スケールが違うんじゃねえの?

 知らねえけど。


 ま、今は稗田阿礼だ。


「歳さん、作戦はどうします?」

「ああ。ハガネとアカネ、イザナギとイザナミ。この組み合わせを主力とする。俺と弁慶、ヘイムダル様は先行して道を開ける。……相手は日本神話の塊だ。どういう布陣で来るか想像が出来ねえ」


 そこで歳さんは、俺とイザナギを見ながら言った。


「ハガネ、イザナギ。俺たちが全力でお前らを本体まで送り届ける。その先はお前らが中心となって、稗田を倒せ。……多分お前らじゃないと無理だ。俺の勘がそう告げてる」

「おう」

「分かりました」

「よし。……じゃあいくぜ野郎ども!」


 歳さんが声を張り上げる。

 しかし、この人は本当に……。


「俺たちで! 新しい日本神話を創るんだ!! 続けぇええええっ!!!!」


 上手いんだよな。

 その気にさせるのがさ。


――――


「おおおおっ!!」


 弁慶さんの一撃で巨人が倒れる。

 まじか、あいつ俺たちが倒したのよりでけぇぞ……。


「ハガネ、お前の戦いを見ているとなぁ!」


 矢継ぎ早に襲ってくる巨人の棍棒を左手一本で受け止めた弁慶さんは、右手で薙刀を一回転させ、二撃が来る前に心臓に突き入れた。


「湧いてくるんだよ!! 魂の奥から、自分も知らなかった力がなぁ!!」


 強ぇ。

 一騎当千てやつだ。

 薙刀をブンブン振り回し、投石してくる巨人に投げつける。次の瞬間、弁慶さんの手には、でかい金棒が収まっている。


「我が得物合わせて99振り! 貴様ら如き、全て使い切るまでもないわぁっ!!」


 うひょー、ハンパじゃねえな……。

 一方、ヘイムダルは……と。


「ふんん!!」


 元々巨人並みの身体を使って大剣をブンブン振り回し、相手の攻撃が届く前にぶった切る。乱暴だけど、ヘイムダルらしい。


 そんな中、歳さんは。


「……よし、こっちだ!」

「おう!」

「……さすがだね」


 戦っている二人に紛れ、俺たちを先導し、最短ルートで奥へを目指していた。

 やがて黄泉の国最奥部にある、鋼鉄の扉に辿り着く。弁慶さんもヘイムダルも、今は俺たちの後ろで、扉を開ける俺たちを護ってくれている。

 イザナギが、扉の作りを調べていたイザナミに尋ねた。


「……どうだ、イザナミ」

「問題ありゃあせぬ。錠前はついておらぬゆえ、ただ重いだけの扉じゃ。蝶番(ちょうつがい)の具合いから見ても、腕力を以て押せば開くじゃろう」


 腕力か。

 単純な力なら、弁慶さんか、ヘイムダルか……。


「……ヘイムダル殿、こちらは任されよ。一刻も早く、扉を」

「うむ、承知した。……おい、今ゆくぞ!」


 ヘイムダルがこっちに走ってくる。

 そして、そのまま扉に、勢いを殺さずに突っ込んだ。

 扉にぶつかった衝撃が、圧縮された空気のように俺たちに襲いかかる。


「むぉぉおおおっ!!!!」

「うわっ……すっげぇなおい」

「見て、扉が」

「少しずつ、開き始めておるのぅ」


 それにしても分厚い扉だな。おれの肩幅より厚みがあるぞ……。

 と。


「むおぅっ!!」

「! 弁慶!!」


 くぐもった叫びに振り返ると、そこには。

 頭に、槍の破片を突き刺した弁慶がいた。


「べ、弁慶さん!!」

「くるなっ!! 構わん、お主らはそのまま奥へと参れぃ」

「で、でも……」

「アカネ殿。聞き分けてくれぃ。……この弁慶、今一度このような舞台に立てて、大変満足しておる。ここは一つ、この老骨の顔を立て、先に行け」

「弁慶さん……」

「ハガネ! お主が要ぞ! ……頼む」


 弁慶さんは一瞬、これ以上程の情に溢れた眼を向け、巨人達に向き直った。

 弁慶さんの黄色い魂の輝きが轟々と増していく。

 光で弁慶さんの姿が見えなくなった時、光の中から声がした。


「ここはこの武蔵坊弁慶、お家芸の大往生、とくと見せつけてくれるわぁっ!!!!」


 それが、弁慶さんの最期の言葉となった。

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