第22話 覚醒からの初勝利
「……来い」
「……」
様子を伺いつつ、じりじりと間合いを詰めていく。
やべえ、緊張する。
多分俺は強くなってる。それはさっきの鎧でもわかった。が、それがこの、目の前にいる大きな神に通用するかどうかは全くわからない。
とはいえ、このままじゃ拉致があかない。
ヘイムダルも警戒しているからか、近付こうとはしてこない……あれ、待てよ。
――いつもは向こうから攻撃仕掛けてくるよな?
「……し!」
「ぬぅっ」
来ねえなら行く。
俺は間合いを一気に詰める。ヘイムダルは両手で握る剣を振り下ろす。
が。
「おせえっ!!」
「なにっ!!」
こないだまで暴風を伴って振り下ろされるその剣を、俺はいなすのがやっとだった。
だが、今は。
――見えるっ。
剣を見ながら躱し、剣風を盾で弾く。そのままやつの右から後ろに回り込むところで、ヘイムダルの剣が横薙ぎに俺を追いかけてきた。
「ふっ!」
合わせてジャンプし、剣を避ける。着地と同時に前転して更に回り込む。
背中が見えた。
「は、やい!!」
「まだまだぁ!」
回り込んだ俺は地面を蹴り、そのままヘイムダルに向かって直進しつつ、左手のシールドを右手で掴む。
「バッシュか!」
振り返り、剣を立ててガードするヘイムダルだが、そこに俺の姿はない。
バッシュを仕掛ける直前、ステップを入れて更にヘイムダルの左側、つまり右腕の裏へ回り込んだのだ。
「!」
俺がそこにいないことにヘイムダルが一瞬硬直した隙に、俺は渾身のシールドバッシュをヘイムダルの右脇腹に叩き込んだ。
「お゛っ!!」
「おお!?」
入れた瞬間、当たった場所から藍色のヒビのような光がヘイムダルの身体を這い、消えていく。今までそんなものは出たことがなかった。
「おおおっ!!」
「おっと」
飛び退った時、一瞬前までいた場所に、ヘイムダルの左拳が打ち下ろされた。
「あっぶね」
「ハァガネエエエエっ!!」
俺の真横から大剣が横薙ぎに襲いかかってくる。反射的に構えた盾ごと、10メートルほど吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。鎧のおかげで大したダメージはないが、俺がぶつかった壁が抉れ、瓦礫が飛び散る。
「まだまだぁ!!」
振り抜いた剣を大上段に構え、ヘイムダルは俺に向かって跳んだ。
やばい。
壁に叩きつけられたままの俺に、真っ赤な大剣が振り下ろされる。
こうなりゃイチかバチか。
「……ってたまるかよぉぉおおおっ!!」
「おおおおおお!!」
盾を前に出しながら、俺は杭打剣を引き抜く。盾を剣筋から少しずらし、いなすように突き出した。
ぎいいぃぃぃぃぃぃいいいいん…………。
強烈な金属音が鳴り響き、視界が一瞬真っ白になり、紅と藍の光が交錯する。
瓦礫や土が舞い上がり、俺たちを覆い隠す。
視界が晴れた時と同時に、勝敗は決していた。
ヘイムダルの剣はイージスを弾き飛ばし、そのまま大地に突き刺さっている。
一方、俺のパイルブレードは、ヘイムダルの心臓部分にめり込んでいた。
「あ……くぁっ……」
「……はぁ、はぁ、……はぁぁぁ」
ヘイムダルがゆっくりと後ずさり、身体からおれの剣が抜けると、その場にへたりこんだ。
「はぁ、はぁ……ハガネ」
「……」
「は、はじめて……我に、勝ったな……」
「ヘイムダル……」
「あーっ、くそう!」
ヘイムダルはそのまま後ろにひっくり返り、大の字になる。
「……あと半歩踏み込まれてたら、我の心臓を貫いていた。先程の光といいその鎧といい。……覚醒したな」
「覚醒……?」
「ああ。極稀にエインヘリヤルに起こる現象だ。それが起こると、その魂の強さが数倍に膨れ上がる。お前の場合は、イザナギの欠片が抜けたことで、拘束が解けたというところか」
「ハガネ―!」
アカネが駆け寄ってくる。
「アカネ!」
アカネが抱きついてくる。それを抱きとめながら、アカネの柔らかい髪を撫でた。
はふん、と小さく鼻を鳴らし、きらっきらした眼で俺を見上げている。
「やっと勝ったぜ、アカネ」
「うん! 観てた! すっごいカッコ良かった! ヘイムダル様も、もしかしたら初めてだったんじゃないですか?」
「うん?」
「本気、でしたよね。最後の一撃」
「……気付いたか」
ヘイムダルはぼりぼりと頭をかいた。
「確かにあの一撃は、神すら殺せる一撃だった」
「最後のは正直自信なかったな。受け止める形になったら多分、また朝まで死んでたと思う」
「攻撃を反らす用に構えてた様に見えたが?」
「あれはもう、勘ですよ」
「……なるほど」
ヘイムダルはニヤ、と笑い立ち上がろうとするが、まだ上手く力が入らないらしい。立つのを諦め、座り込んだ。
「我は傷を癒やそう。……ハガネ、アカネ」
「ん?」
「はい」
「午後、集団戦闘やってみろ。人数はまた八千人。但し、今度は指揮官と追加戦力が入る」
「指揮官?」
「うむ」
楽しみにしておけ、というヘイムダルに礼をいい、俺たちはその場から離れた。
「ハガネ、大丈夫? 疲れてない?」
「少しはな。まあまだ午後の模擬戦までには時間もあるし、一旦帰ってちょっと休めば大丈夫だろ」
「ボクも、一緒にいってもいい、かな?」
「なぁに遠慮してんだよ。当たり前だろ」
「……うん。当たり前、がいいな」
「ん?」
「ハガネと、一緒なのが。それが、当たり前でいたいな」
「アカネ……」
立ち止まったアカネが俺を見上げている。
少し切なそうに見える彼女の顔は上気していて、やがて。
俺たちは、どちらともなく、唇を寄せ合っていた。





