第20話 取引からの黒幕
ロキがこっちに向けて伸ばした拳ががぼう、と白く光る。
光は段々強くなり、拳全体を包んでいく。
「随分急いでんだな」
「女王様が戻る前にね。戻ったら彼女、かなりえげつないやり方で欠片を抜き取るだろうから。……この先お前がどうなるかは分からないけど、もし消滅しなければ、ちゃんと殺してあげるよ」
どうしようもないなら、覚悟を決めるしかない。
それに、俺にはなぜか、絶対にアカネの所に帰れるという確信があった。
根拠など何もない。ただ、そう感じただけだ。ちょっと引っかかるのは、ロキの言う
「お前じゃなくなる」
という言葉だが、いま気にしたところで仕方がない。
「じゃ、いくよ。……結城ハガネ。次に会うときには、どんな姿なんだろうね」
「どんなだろうと俺は俺だ。次に会う時は容赦しねえ」
「楽しみだ。……彼の者の魂の欠片、此の者の魂より出で、我が掌に。後に残る欠片と溶け合い、再び元の姿とならんことを」
ロキの拳が解けていく。白い光は掌に集まり、凝縮され、白が濃くなっていく。
その掌が俺の心臓に近づき、触れた瞬間。
俺は、消えた。
――――
蒼く暗いトンネルのような場所に俺は立っていた。
「俺、消えたんだよな多分。消えてこの場所に来たってことか。てことはあれか、ここが消滅した魂の行き着く場所……?」
「はずれ」
いきなり声がする。なんか最近そんな展開ばっかりだな。まあ魂だの神だのってなりゃそんなもんか。
「誰だよ」
「俺はお前だよ。正確に言えば、お前の一部だったもんだ」
「……イザナギ」
「おう。恐れおののけ」
「何言ってやがんだ元俺」
声はあっはっはと笑い、すまんすまんと謝ってきた。いや軽いよ謝罪が。
「とりあえず俺はお前の魂から出ていくことになるからな。家主に最後のご挨拶だ」
「成功したのか。そんで、俺は消えるんじゃねえのか?」
「消えたいのか?」
「あるわけねえだろ。アカネの相棒は俺だけだ」
「だよな。……いいなあ、お前らは仲良くて」
「? ……ああ、イザナミとお前は夫婦だったんだっけか」
「まあな。まだ現世と神話世界が地続きだった頃の話だ」
イザナギは懐かしそうな声で言う。が、姿が見えないので、俺はどこを見て話せば良いのか分からない。
「死んじまったイザナミを追いかけて、俺は黄泉の国へ行った。そこで見たのは腐り果てたイザナミだった。……もっとも、それはただの抜け殻だったんだけどな」
「抜け殻?」
「地続きだって言ったろ。イザナミは、生身のまま黄泉の国に行ったんだ」
「マジか……」
「で、情けないことにそれにビビっちまった俺は、一目散に逃げ帰ってきたって話だよ」
「本気で情けねえなおい」
「ばっかお前、腐った人間とかやべえぞマジで。んでまあ、黄泉比良坂を上ってる時、さっきのはイザナミの魂が抜けた、ただの肉塊だってのに気づいたんだ」
「どうやってだよ」
「いたんだよ本人が目の前に」
「それは気づいたとは言わねえよ……ていうか思いっきり回り込まれてるじゃねえか」
俺が呆れた口調で返すと、
「こまけえこたぁいいんだよ。俺のくせに」
「……俺が雑なのはイザナギ、お前のせいだって気がしてるんだけど」
「で、だ」
「お、ごまかしやがった」
「いいからよ、時間がねえんだ。……俺はつい、イザナミにさっきの抜け殻の話をしちまった」
「なんて?」
「ぐちゃぐちゃに腐ってて、ウジなんかも涌いてやばかったって」
「馬鹿なのか」
「否定はしない」
そんなん、女の子からしたら一番言われたくないことのトップグループだろう。
「で、怒られて魂バラして逃げたんか」
「そこは違う」
イザナギの声が急にシリアスになる。
「バラされたんだよ」
「どういうことだよ?」
「正直俺は、イザナミと一緒に黄泉の国にいるつもりだったんだ。惚れた女だしな。死んでも一緒ってんなら本望だ。お前もそうだろ?」
確かに。
ていうか死んでからのお付き合いなんだけどな、俺は。
「そしたらな。俺とイザナミがどっちも黄泉の国に留まるのを、良しとしないやつがいた」
「いけすかねえ野郎だな」
本当にいけすかねえ。
俺ならひっ捕まえてボコボコにしてるところだ。
イザナギも俺の一部だったのなら、同じ気持ちでいてもおかしくないはずだが……。
「俺とイザナミとの仲を引き裂くとか、本来ならボッコボコにぶち殺してやるところだったんだがな」
「出来ねえ理由でもあったのか?」
「俺をバラして隠したのがが誰だったか。……お前、想像できるか?」」
分からなかった。
俺の知る限り、イザナギイザナミは、日本神話で最初に出てきた神のはずだ。
「あんたにそんな事出来るやついるのか?」
「いるんだよそれが」
イザナギの声が怒りに震えている。
「稗田阿礼。……日本神話をまとめ上げた人間の一人だ」





