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【第2部・完結】男装獣師と妖獣ノエル  作者: 百門一新
第二部 ~第三騎士団の専属獣師になりました……~
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第二部終章 ラビ達の帰還(上)

 これほどまで大きな狼は見た事がない、と、ひそひそと小声で交わされ注目される中を、立派な漆黒の毛並みを揺らして黒大狼が進む。


 獣の相棒を連れるのは、ここでは『獣師です』という看板を背負っているようなものであるらしい。ラビは、王宮に到着してからずっと、「あの若さで専属獣師らしい」「国家獣師への推薦もあるらしいぞ」と噂される声に慣れなくて、緊張していた。


 胸元に首飾りの輝きを覗かせたノエルが、その隣を歩きながら、周りに聞こえない声で『気にすんな、物珍しいだけさ』と言う。それでもラビは、金髪金目以外で注目された経験はなかったから、実に落ち着かなかった。


 先程、遺跡に向かった際にかかった日数よりも早く、ラビ達は王都入りをして王宮に到着した。今度はセドリックとユリシスだけでなく、ヴァン達も総隊長の執務室に案内される事になった。


 馬車から降りたノエルを見た際、衛兵はギョッとして身構えていたし、王宮内を進む間、誰もが金髪金目よりも、そちらを警戒して距離を開けていた。


「御苦労だった。無事に戻ってきてくれて嬉しいよ」


 執務室で待っていたルーファスが、案内役の男が部屋を閉めてすぐ、そう切り出した。姿が見えるようになったノエルに目を留めて、弟のセドリックとは違う薄い色合いをした藍色の瞳を細める。その美貌に馴染んだ愛想笑いは、作り物との区別が付かないほど自然な暖かさを滲ませていた。


「君がノエルか。なるほど、頼もしいくらい『立派な黒い狼』だ――その胸元にあるのが、例の『宝』かい?」

『ああ、これが例の術具だ。ザイアース遺跡は、古い時代に神殿として機能していたらしい。そこを任されていた『ラティーシャ』という人間が残した遺産だ』


 ノエルは手短に答えると、術具をこうして【実体化】に使える事と、『砂の亡霊』の正体が、術具に掛けられていた複数の魔術によるものであった事を簡単に説明した。


 ルーファスは話を聞き終えると、追って質問はせず、続いてセドリック達に目を向けて「まずは報告を聞こう」と、一人ずつ話すよう促した。


 ほとんどの内容は、セドリックとユリシスが報告し、ヴァン達は軍人らしく姿勢を正して、それぞれが働いた内容をざっと口頭報告する。その間、ルーファスはニコリともせず聞いていて、ラビは室内にピリピリと緊張が満ちるのを感じた。


 幼馴染達が、兄弟同士としてではなく、上司と部下として接している見慣れない様子を見守った。これも仕事だもんなぁと思って、自分に順番が回ってきたらと想像して、どう『報告』しようか考えた。


 そもそも、この数日は色々な事があったし、助けに入った鳥と前の日に会話していた事も言えないだろう。必要最低の報告をしたいのに、どう言葉をまとめればいいのか、考えてもヴァン達みたいに内容を簡潔に語れる自信がない。


 ノエルも、トーリについては口にしていないし、はぶくべきだろうか……?


 でも術具の事だって、彼に教えてもらったのだ。鳥達だって、トーリが助っ人にと連れてきてくれた。そこを語らないなんて選択は、浮かんでこなかった。


 考えてみれば、必要な内容は、セドリック達がほとんど報告してくれているのだ。ルーファスだって、繰り返し同じ内容の話は必要ないだろうから、自分は獣師として、彼らが説明出来ていない『見えない助っ人』と『加勢に入った鳥』について、ざっくり簡単に話せばいいのかもしれない。


 最後に口頭報告を終えたテトが下がったところで、ルーファスの雰囲気が唐突に柔らかくなり、その視線が思案しているラビへと向けられた。


 ラビは、ルーファスに真っ直ぐ見つめられて、ハタと我に返った。その急な変化に注意を引かれて、直前までのぐるぐるとした悩みや思考も止まっていた。


 視線が合った途端、村で顔を合わせた時と同じように、ふわりと微笑みかけられて状況を少し忘れた。つい、普段のように「ん?」と笑みを返したラビを見て、彼がリラックスするように組んだ手に顎を乗せて、親愛を込めてにっこりと笑う。


「ラビ、専属獣師として初めての調査任務、お疲れ様。ザイードの街も、初めてだっただろう。君が冒険した話を聞かせて?」

「冒険……? 報告じゃなくて、ルーファスはお話が聞きたいの?」


 まるで里帰りした時と同じように尋ねられて、ラビはきょとんとして、自然と素の口調で訊き返していた。


 彼はいつも、そうやって会えなかった時間を埋めるように話を聞きたがったから、違和感は覚えなかったのだ。もしかしたら、セドリック達が説明し終えていた部分で、自身が確認したい事は全て把握したのかもしれない。


 そう推測していると、ルーファスがよりニコニコとして、確認するようにこう口にしてきた。


「うん、そうだね。私は君の『お話』を聞きたいよ」


 いつも、自分の話を楽しいと言って聞いてくれていた幼馴染である。離れている間は手紙だけだったし、顔を合わせてこうして話を求められたのも実に四年ぶりだ。ラビは嬉しくなって、笑顔で『冒険談』を話し始めた。


 夢中になって身振り手振り語っていたから、隣でセドリックがこちらを凝視したまま「可愛っ――」と言いかけた口を手で塞いだ事も、ユリシスが「総隊長に扱いをすっかり把握されているようですね……」と呟いた事も気付かなかった。


 ジン達がやや呆気に取られて、「……可愛げのなさをどこにやった」と各々の感想を口の中に落とす。その声も耳に入らないまま、ラビは話し続けていた。


 盗賊団を成敗して、財布を取り返してやった話の部分も、ルーファスは始終いい笑顔だった。人を騒ぎの元凶みたいに言っていた男達とは違って、よくやったと褒め、途中でさらりと、こんな冗談を交えてきたりした。


「ラビのズボンの後ろポケットか――俺だったら、その場で殺してる」


 ラビは、父親であるヒューガノーズ伯爵同様、相変わらずジョークやお喋りが好きな幼馴染だなぁ、としか思わなかった。痴漢されたわけじゃないよ、と教えてあげたら、ルーファスは何も言わず、にっこりと笑い返してきた。



 その話しの最中、ノエルは口を挟めず、顔を引き攣らせていた。遅れてようやく察したヴァンとサーバル、ジンとテトが「まさかの、めちゃくちゃ過保護……」と戦慄して、性別を知っている事は絶対に知られないよう心に誓う。


 そのそばで、ユリシスが思い返して「隊長が受け取っていた手紙は、総隊長からの個人的な物ですか」と、確認するように視線を向ける。セドリックが「多分、そうでしょうね……」と、顔をそらしながらぎこちなく答えた。



「つまり盗賊達は君を助けて、最後は協力してくれた。そして、小さな妖獣が色々と教えて、手助けしてくれたわけだね。ラオルテの町の時と違って、今回の『見えない生物』は味方だった、と」


 一通り話を聞いたルーファスが、興味深そうに椅子へ背をもたれて、足を組み直した。姿がハッキリ見えているノエルへ目を向けて、軽く片手を上げて問う。


「前回は敵になって、今回は味方になった。その違いはなんだい、ノエル?」

『そもそも、ラオルテの町に出たのは、低知能・共存不可な悪質の低級妖獣だった。元々あいつらは、人間にも妖獣にも、害にしかならねぇ種族なんだよ』


 これ以上は必要ないだろ、とでも言うかのように、ノエルが苛々した様子で口を閉じた。話を切り上げる気配を察して、ルーファスは「ふうん……?」と思案の読めない流し目を彼に向けていた。


 冷やかにも見えるルーファスの、色素の薄い印象がある藍色の瞳が、チラリと動かされてセドリック達を見渡した。それから、目元を和らげてラビに目を留めると、隣に立つ黒大狼のノエルと見比べるように、顎に手をやって何度か視線を往復させて、少しだけ首を傾げて口を開いた。


「男達と並ぶとそうでもないが、改めてラビとのセットだけで見ると、ノエルは随分大きいな」


 ラビが乗れそうじゃない? と、ルーファスが可愛らしい感じで一同に問う。その愛想たっぷりの、無害なご近所のお兄さん、といった雰囲気を醸し出す総隊長を見て、ヴァンが「誰だコレ」と言い掛けた口を、サーバルが慌てて手で塞いだ。


 実際に、前回の氷狼の一件でも、そして今回の調査任務でも、まるで馬みたいに黒大狼に乗っているラビを目撃している。けれど、あまりにも猫を被ったルーファスの様子が衝撃的過ぎて、その場にいたユリシス達は、何も言えないでいた。


 ラビは、その件に関して正直に答えていいものか、とセドリックに確認するような目を向けられて、すぐ横目に見上げて小刻みに首を横に振っていた。


 危ないから馬には乗らないように、とは数年前までよく言われていて、当時のように長々と、危ない理由を心配そうに説かれる可能性が過ぎったからだ。この任務の間、ずっと専属獣師として行動を共にしていたので、正直言うと疲れてもいた。


 実年齢の十七歳には見えないくらい、ラビは華奢で小さい。それに対して、ノエルは一般害獣種の狼や山犬よりも一回りは大きいから、並ぶとより大小の差が見えて存在感が増した。しかも大型肉食獣種だから、その組み合わせは余計に目立つ。


 それはラビだけでなく、ここにいる全員が推測している事でもあった。同じようにそれについても推測したのか、誰も回答も得られないまま、ルーファスが首飾りに軽く指を向けて再び口を開いた。


「私が予想していたより、君は少しばかり大きくてね。その術具で調整出来ないかい?」

『言っておくが、俺にとっちゃコレが最小サイズなんだ。これ以上は小さくなれねぇよ』


 犬じゃねぇんだぞコラ、とノエルが怒鳴りたい気持ちをこらえるような表情で、ぷるぷると震えてそう口の中にこぼした。ラビは可哀想に思えて、つい「ルーファス、ノエルはずっとこの大きさだよ……」と、そう教えてあげたのだった。

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