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【第2部・完結】男装獣師と妖獣ノエル  作者: 百門一新
第二部 ~第三騎士団の専属獣師になりました……~
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四章 遺跡編突入(2)ラビ、騎士達と遺跡内へ

 乱立する巨木群の太い根を乗り越えながら、ラビはノエルのすぐ後ろを付いていき、休む事なく歩き続けた。


 まだもう少しかかるだろうと思っていたら、蛇一匹見掛ける事がないまま、唐突に森が開けて、真っ平らな土地に聳え立つ巨大な建造物が姿を現した。


 それは土色をした、神殿や城のような巨大な建物だった。風化の見られる壁は痛み、所々亀裂も入っているが、蔦や苔などはなく、隅々まですっかり乾燥しているように見えた。


 建物周囲には、雑草一つえておらず、まるでここだけ森から切り離されているようにも感じた。吹き抜ける風も乾いていて、微かに古びた埃臭さが混じっている。


「すごく大きな遺跡だね……」


 思わず、ラビは圧巻されて呟いた。こんなに大きな建造物を見たのは初めてだ。そう思っているそばで、ノエルが『扉は全部外されちまってんな』と相槌を打って、こう続けた。


『こいつは、確実に神殿だな。まず目指すのは、中心地になっている祭壇だ。大抵は、真っ直ぐ進めば辿り着くが……中がどれほど崩れているのかにもよるな』


 ノエルが歩みを再開して、ラビ達は辺りの様子を窺いながら、慎重に足を進めた。


 建物内は、亀裂が入ったり一部崩れている箇所から、日差しがこぼれ落ちていた。長い年月が経つ中で、自然災害などを受けて修繕や補強がされなかったせいだろう。壁の一部が剥がれ落ちている箇所も目に留まった。


 ほど良い緊張感を持っていたセドリックが、第三騎士団の副隊長らしいキリリとした表情で「ノエル」と呼んだ。


「古い遺跡の危険性については、俺も経験からある程度は知っています。だから、あなたが先導役として前に立つとしても、ここからはラビには、隊列の中央にいて欲しいと考えています」

「副隊長の意見には賛成だ。俺としても、本来先陣を切る役割も持った先頭位置に、チビ獣師を置くのは反対だ」


 ヴァンがそう言った。きょとんとして「なんで?」と振り返るラビを見て、少し呆れたような表情を浮かべて、けれど説く言葉を呑みこむように一度言葉を切ってから、こう続ける。


「何が起こるか分からない場所の探索については、ある程度の人数で行く場合は『何かあっても対応して突破出来るデカい奴』を前後に置くもんだ。その方が、いざって時の危険性が減る」


 つまり、小さいと隊列の中央なのだろうか?


 軍として動く場合の常識を知らないラビは、そう思って他のメンバーに問う目を向けてみた。すると、視線に気付いたテトが「俺いつも真ん中だぜ、んでサーバル先輩がいつも最後尾」と、普段からそうであるという様子で教えてきた。


 今は第三騎士団に所属して行動している身であるし、副隊長として部下を率いている幼馴染のセドリックに、迷惑を掛ける気はなかった。「そっか」と頷いて見せたら、ノエルがちらりと目を合わせて、ちょっと肩を竦める仕草をした。


『了解、そっちの煙草臭い方が、先頭を歩くってわけか。別に構わねぇぜ。姿が見えないにしても、曲がり道があれば俺が声で指示してやる。それから繰り返しになるが、周囲にある物には安易に触れるなよ、何かしら仕掛けがされている可能性があるからな』


 その注意事項を確認してすぐ、ノエルの『行こうか』の声に続いて、今度は先頭にヴァン、次にセドリックという配置で、一同は更に遺跡の奥へと進んだ。


 やはり建物の内部は、一部劣化して崩れているところがあった。探索には困らない程度に視界の明るさが確保され、高い天井部分からは、太陽の光りがこぼれている。


 周囲の様子を観察しながら歩いていたラビは、自分の前にいるセドリックの背中へ視線を向けた。誰かの後ろを歩くなんて普段にはない事なので、ちょっと邪魔だなと感じてしまったものの、真後ろを歩く人間が嫌過ぎて、そちらの方が気になった。


「…………おい眼鏡、なんでオレの真後ろにいるわけ?」

「『眼鏡』という名前になった覚えはありませんが?」


 途端に冷やかな声が返ってくる。


 それを聞いたラビは、ジロリと睨まれる視線が強くなるのを感じて、げんなりとして肩越しに目を向けた。そこにはユリシスがいて、薄い水色をした形のいい目を顰めてきた。


「いちいちギスギスした感じの視線を送ってくるの、やめない?」

「それは君の一方的な被害意識です。私は『小さいな』と思って見ていただけです」

「余計に性質(たち)悪いわ! オレの前を歩いているセドが、デカいだけなのッ」


 ラビは悔しくなって、うっかり幼馴染を愛称の方で呼んだとも気付かずに、そう言い返していた。


 ムキになって主張した彼女を、テトとサーバルが悪意なく「ちょっと小さめだと思うけどな」、「いや十七歳にしては小さいよ……」と見やる。彼らに背中を向けて前を歩くセドリックが、つい数秒ほど緊張感がゆるっゆるになって、口に手を当てて静かに悶えている事には、誰も気付いていなかった。


 ヴァンが、真面目な表情で左手を剣の柄にかけたまま、足元に注意しながら先頭を進んでいた。前方から聞こえるノエルの『今のところ通路自体の大きな崩壊がないのは、幸いだな』という声に集中し、細かい瓦礫と土埃を踏み超えつつ尋ねる。


「おいワンコ、真っ直ぐ行くと祭壇っていう造りだと言っていたよな。神殿ってのは、今で言うところの教会みてぇなもんなのか?」

『煙草野郎、俺はワンコじゃなくて狼だ――まぁ似ているかもな。機関や住居が一緒になっているタイプだと、複雑迷路だが、そうじゃない場所は表の正面中央がメインの祭壇、その奥に色々とあんだ』


 その声を耳にして、ラビはクソ忌々しい長身のユリシスから、親友のノエルへと視線を移した。


「奥に空間があるって事は、オレらは祭壇の向こうを目指すの?」

『いや、調べるのはまず、中心になっている祭壇部分の大広間だ。神殿ってのは、良い物も悪い物も保管しているから、どちらとも言えねぇんだよ。地下を持っている場所だと、案外メインの広間に仕掛けがあって、別部屋までの入口や通路が隠されている場合も多い』

「それで、まずは祭壇って言ったんだね」

『おぅ。これだけバカデカい建造物となると、かなりの人間が祭事で集まれるくらいの規模だっただろうから、調べるだけでも骨が折れそうだけどな。広く取った空間ってのは崩れやすいから、そこがちょっと気掛かりではある』


 物知りなノエルに感心しつつ、ラビは足場に転がっている、建物の一部だった物らしき瓦礫に目を留めた。幅の広い通路の先を見てみると、柱が半分ほど倒壊している箇所もあった。


 高い天井の穴から差しこむ太陽の光が、いくつもの筋になってこぼれ落ちている。その風景は外からざっと見た時に受けた、きちんとした建物の印象が変わるほど、年月を経て荒れてしまっているという実感も湧いた。


 ラビと同じように、通路の様子を観察していた一同の中で、テトが思い付くままに口を開いた。


「でも、俺が知っている古い遺跡とかに比べると、随分キレイに残っている感じもするけどな。かなり古い時代の物だっていう印象も、そんなにないっていうか」

「歩くだけの衝撃で、崩れてしまう通路もありますからね」


 ユリシスが、銀縁眼鏡のツルの部分を押し上げ、経験からそう意見する。


 すると、ノエルが『こっちも同じだと思うけどな』と言った。


『多くの人間が同時に出入り出来るよう、正面部分だけが頑丈に作られているだけだろうと思うぜ? 地下が何層もあるような広間だと、どうしても床が弱くなる』


 つまり進むほど、遺跡の内部は崩れている恐れがある。ほとんどの調査チームが途中で逃げ帰っているので、ここから先は、本当に未知の領域だった。


「これだけの規模だと、デカい地下空間もありそうだしなぁ……」


 ジンが、ノエルが想定している懸念内容を察して、そう呟いた。

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