海の魔王討伐
翌日の朝まで、本当にリエルさんは川から顔を出さなかった。
そして、まるで俺達が起きるのを見計らうかのように川から上がると、川魚を焼き始めた。
さすが人魚だ。魚を捕ることくらい造作もないらしい。
そして、キキが手伝いをしつつ、魚の塩焼きができあがった。
それに思い切りかじりついていると――。
「昨夜はお楽しみでしたね」
「げふっ!?」
リエルさんの一言でむせた。
「若いって良いわねぇ」
「ほ、骨がノドに刺さった……」
動揺し過ぎてふんだり蹴ったりだ。
「それにしても服の中に顔を突っ込んだままするなんて、なかなか珍しい性癖なのね?」
「違う! それはキキが――」
「あらあらまあまあ。うふふ」
あ、キキが何かこっちをジッと見ている。
キキが何か悪いことをしたのかと不安になっている目だ。
これ以上追求される前に早いところ話題を変えないと――。
「船、船を何とか手に入れないといけないよな? 海母王が俺達を狙って出てきて貰わないといけないし」
「そうですね……とはいえ、今の海に船を出したがる船乗りはいませんし。私は船がなくても泳げますけど、私一人でお二人を乗せられませんし」
「ギルドに掛け合ってみるか、海洋調査の依頼を出していたはずだし、船のアテはあるはずだ」
俺はそう言って話を切り上げ、街に戻る。
ちなみにリエルさんは街に戻ると大変なことになるので、川に潜って隠れてもらうことにした。
○
船に乗り、沖へ出てわずか一時間でその霧と船は現れた。
「あれが海母王の幽霊船か」
霧の中におぼろげに浮かぶ大きな帆船。
その船の中には人間を釣るためなのか、キラキラと金色に光るものが見える。
その輝きに目を奪われた時だった。
ラーラララー。
船の先端に人魚が現れ、透き通った歌声が聞こえ始めたのだ。
同時に船頭たちがバタバタと倒れてしまう。
「これが人魚の歌の威力か」
「ラインさん、何かとっても眠いよ?」
俺より耐性の弱いキキは目をこすって必死に我慢しているようだ。
ローレライはかなり強い力を持っているらしい。
これほどの魔力のある歌を聞いて抗える人間はいないだろう。
抗えぬ睡魔に破れ、船は流され、魔王の胃の中って訳だ。
「ラインさん来たよっ!」
半透明な無数の触手が海中から現れ船を絡め取ろうと伸びてくる。
「切り落とす。キキは下がってろ」
迫ってくる触手を次々に切って捨てる。
けれど、手応えは薄く、まるで水を切っているかのようだった。
それに、斬っても斬っても次々に海から触手が襲ってくる。
「本体を狙わないとダメか」
とはいえ、海の中だと血が結晶化しない。
森で使った地中を張って、上に乗った敵を串刺しにする技は使えないんだ。
それに、大技を使ってローレライを巻き込む訳にはいかない。
となれば――。
「キキ、幽霊船に飛び移るぞ。掴まれ!」
「はい!」
吸血鬼の力を完全に呼び起こし、血で固まった翼を広げる。
そして、荒ぶる海を離れた幽霊船まで一気に飛び越えた。
「ローレライ! あんたを助けに来た! 歌を止めろ!」
「っ!?」
俺は叫んでローレライの意識を奪うと、着地と同時にローレライを抱きかかえた。
いくら女性とはいえ、二人も抱きかかえると重いけど、今はそんなことも言っていられない。
「うおおおりゃああ!」
気合いをいれながらさっき飛んだ海をもう一度飛んで、自分達の船へと戻る。
「な、なんで魔物が私を助けてくれるの!?」
ローレライはかなり混乱しているようで、目を白黒させていた。
まぁ、確かに魔物が半魔を助ける理由なんてないから驚くか。
「俺もこっちのキキも半魔だ。あんたの母親のリエルさんからあんたを助けて、海母王を倒して欲しいって依頼があったんだよ」
「本当に!? でも、倒せるの!? 海の魔王だよ!? って、うわあ! 怒って海から出てきてる!?」
海が盛り上がったかと思うと、中から巨大な海月を思わす巨人が現れた。
赤い鈍く光る瞳に、丸っこい体系、無数の触手が絡まって、巨大な手足のように動いている。
幾つもの船を飲み込んだからか、半透明の身体の中には無数の木の破片や帆が紛れ込んでいた。
なるほど、船の天敵だ。
「でも、姿を見せたな!」
海の外に出ていれば、俺の牙は届く。
「吸血鬼の血よ。血肉を食らえ!」
俺は血で出来た槍を海母王に向かって投擲する。
すると、半透明だった海母王の身体が真っ赤に染まり、弾け飛んだ。
俺の血が海母王の中で一気に広がり、内側から海母王の魔力と生命力を食い散らかしたのだ。
「海の魔王が一撃で!? あなたは何者なんですか!?」
「ライン、吸血鬼になった冒険者だ」
「ライン? って、あの英雄ラインさん!?」
こうして、俺は今回の騒ぎの元凶を討ち、ローレライを連れて港へと戻った。




