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黒髪の女性

 ギルドを後にした俺達は教えて貰った酒場にやってきた。

 中を覗けばすぐに船乗り達の集まりだというのがすぐ分かる。

 みんな昼間っから酒におぼれ、机に突っ伏して潰れているか、くだを巻いているかだったんだ。

 んで、その中身は海に出られなくてやってらんないとか、故郷に帰れないとかという内容だった。


 なるほど、ギルドのお兄さんの言う通り、みんな気が立っているし、めいっている。

 絡まれたらなかなか放して貰えなさそうだ。


 とはいえ、声をかけなきゃ始まらない。


 俺はしがみつくキキを連れてカウンターに座って飲む男の隣に座った。

 筋肉質な身体に日に焼けた黒い肌をしている。まさに海の男みたいな見た目だ。

 それでもって、昼間からすげー酒臭い。

 その臭いで声をかけるのを躊躇すると、男の方から声をかけてきた。


「ん? 兄ちゃん、見ない顔だな? その身なり、冒険者か?」

「ただの護衛さ。この子の親探しのね」

「そうかー……。冒険者じゃねーのかー。つかえねぇ兄ちゃんだな」


 いきなり使えない扱いされるとは、なかなか手荒い歓迎だ。

 何となくギルドの受付がめいっていた理由が垣間見えた気がする。

 まぁ、酔っ払っているからこそ女の話はしやすいだろう。


「力になれなくてすまないな。ところで、この女の人に心当たりはないか?」

「ん? あぁ、随分べっぴんさんだな」


 男はヒックとしゃっくりをしながら似顔絵を眺めて鼻の下を伸ばしている。

 そして、ちらりとキキを見て、似顔絵と見比べると急にハッと何かに気付いたようで、真剣な眼差しで俺に目を合わせた。


「なぁ、兄ちゃん、この人、おっぱいはでけぇのか?」

「……キキ、どうなんだ?」


 何かこんなことをキキに聞くのもどうかとは思うんだけど、大事な身体的特徴だ。


「おっきかったよ」

「おー、そりゃあ、是非お目にかかりたいもんだなぁ。にしても嬢ちゃんも将来有望かー。どうだい? 俺っちの嫁にこねぇか?」

「いかない。キキはラインのものだから」

「カー! そりゃ仕方ねえ! 兄ちゃんも隅におけねぇなぁ!」


 うん、この反応は知らないっぽいな。こいつただの酔っ払いだ。

 他の連中にも声をかけるか。

 ――そう思った時だった。


「そう言えば、昨日とっ捕まった女が黒髪のべっぴんさんって言ってたっけなぁ。魔物が人に化けた奴だとか、何だとかって言ってたから別人だとは思うけどな。なんたって半魔の娘もいるらしいしなぁ。男としちゃあおっぱいでかいべっぴんさんなら魔物を相手にヤってもいいよなぁ」


 そんなことをサラリと言ってのけた。

 半魔の娘がいるって聞いて一瞬ハッとしたけど、魔物が人に化けたって聞いて別人だと思った。

 あれ? でも、キキの両親ってどっちが夢魔なんだ?

 そう疑問に思った瞬間、キキが俺の耳元に背伸びして、俺だけに聞こえるように囁いた。


「お母さんが……夢魔なの」


 となると、この酔っ払いが言っている人はキキの母親の可能性もあるのか?

 もう少し情報が欲しいな。


「ま、明日処刑されるらしいし、これで海が静まると良いんだけどなぁ」

「その話、詳しく聞かせてくれないか? 別の街に船で行こうとしたら足止めを食らっていて、少しでも情報が欲しいんだ」


 あまりの急展開に、その場で咄嗟の嘘をつき、浮かせた腰を下ろす。

 キキも驚いたようで、服を掴む力が増しているようだ。

 すると、俺達の反応に男はニヤリと唇を歪ませた。


「情報ってのは金を払うか、麦酒で舌を回させて手に入れるもんだぜ?」


 こいつっ!?

 でも、今は急ぎだ。麦酒一杯くらい安いものか。


「麦酒を一つこの人に」

「へへっ、物わかりの良い兄ちゃんは好きだぜ」


 男は俺の注文したビールに口をつけると、美味そうに一気に飲み干した。

 状況が状況じゃなきゃ、大した奴だと笑えるんだけどな。


「やっぱり他人の金で飲む酒は美味いな」

「それで、さっきの話は?」

「船乗りの噂でしか知らないけどな。どうやらその女、人を惑わす力を持っているらしいんだ」

「人を惑わす?」

「ウー、ヒック――何でも霧を出して、ヒック――声で惑わせるらしい。その半魔の女にあったら酔っ払ったか夢でもみているみたいに頭がボーッとするんだとさ」


 少し曖昧だけれど、どことなくキキの力と一致する。

 とはいえ、これだけじゃ母親だって決めつけるのは早すぎる。


「その人が死んだらなんで海が静まるんだ?」

「さっきも言ったが声で惑わせるからだよ。その女の声を聞くと船が沖に出られず、気付けば港に戻っているんだ。俺っちもそれを実際に経験した。マジで意識がなくなったのに港に戻っているもんだから夢かと思ったぜ」

「なるほど。それでその女がいなくなれば、海も通れるって訳か」

「そういうことだ。教会の連中は冒険者の連中と違って役に立つなぁ。兄ちゃんもがんばれよ?」

「ははは……」


 教会の連中はこういう精神的な呪いに対して強い抵抗力を持つ魔法を優先的に覚えるからなぁ。

 多分、集団で呪いを解く呪文をかけあい続けたんだろう。まぁ、今はどうやって捕まえたかはどうでもいいか。


「処刑は明日なんだよな?」

「んだな。明日の朝、中央広場で執り行われるそうだ。どんなべっぴんさんか見てみたいぜ」

「となると、今は教会に閉じ込められているってことか?」

「あぁ、らしいぜ。一目見ようと行ったけど追い返されたがな!」


 情報は少ないけど、時間が無い。

 迷っている暇も、考える暇もあまりなさそうだ。


「良い話しが聞けたよ。店長、この人にもう一杯やってくれ」

「おっ! 兄ちゃん話が分かるじゃねぇか! ありがてえ! へへ、船が出るようになったら俺っちの船を安く使わせてやるぜ」


 調子の良い船乗りに軽く礼を言って、俺とキキは店の外に出た。

 すると、キキは今にも泣きそうな困った表情で俺を見つめている。

 俺はそんなキキの頭に手を乗せて、心配するなと頭を撫でた。


「今夜、会いに行くぞ」

「でも、そんなことしたらラインさん、教会に追い回される犯罪者になっちゃうよ?」

「今でも始祖王の呪いで目をつけられているからな。いまさらだよ」

「それ……もっとダメになってない?」

「大丈夫。ダメにならない方法が一つだけある」

「え? どんな方法?」

「ばれなきゃ大丈夫。こっそり忍び込んで、こっそり連れだそう。そのためにはキキにも手伝って貰うことになるけど、いいかな?」

「うん!」


 キキの母親が本当に捕まっているとしたら見殺しには出来ない。

 もし、ここで見捨ててしまったら、キキは確実に俺の側から離れてしまうだろう。キキを側に置いておくためにも、ここは一肌脱ぐしかない。

 こうして俺とキキは夜が来るのを待って、教会へ忍び込むことになった。


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