最後の日常
__2017年4月1日午後1時
『…ちよっと、良っ起きなさい‼︎』と今気持ち良く寝ている男…谷間良を呼ぶ大きな声が谷間良の耳に木霊する
『…ぅあ、今起きるよ…母、さん』と言って谷間良は再び眠りに入る__が、
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆バシッ◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それは谷間良の母、谷間沙織のビンタにより妨げられる
『…ってぇな、本気で叩く事ないだろっ‼︎』と谷間良は起き上がり早々、母…谷間沙織に向かって怒り出す
『あら、いつまでも起きない誰かさんが悪いと思うけど』と谷間沙織は、イタズラな笑みを谷間良に向けながら言う
『…っ』
谷間良は自覚しているからかそれ以上は何も言えず右手で自身の頭を掻く
『さぁ、起きたのなら顔洗って着替えなさい』
谷間沙織はそう言うと階段を下りてリビングに向かって行く
『本当…母さんには頭が上がらないな』と窓から見える景色を眺めながら呟く
その姿はどこか、過去の自分を思い返して悔いているように見える
『…と、顔を洗いに行くか…また、怒られると面倒だ』と言って谷間良は自室を出て一階に下りていく
『えっと…よし、これでOK』
と顔を洗って鏡を見ながら髪を整える谷間良
そして二階の自室に戻ると着替えを始める
『…着替え、終了』
笑顔で答える谷間良の姿は茶色のチノパンに鼠色のオーバーと至ってシンプルでラフな格好をしていた
『母さん、おはよう…今って何時?』
まだ眠気が覚めきっていないのか、惚けた顔で谷間沙織に聞く
『時計を見てみなさい』と飽きれた様子で言う谷間沙織
谷間良は促されるまま時計を見ると
『…もう、13時か』と落ち着いた様子で言う
『…もう、13時か__じゃ無いわよっ』と突っ込まれる谷間良__その時
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆カラン◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
玄関の…おそらく郵便受けだろう
郵便受けに投函される音が鳴り響いた
(こんな時間に、珍しいな)
谷間良は郵便受けの方に向かい投函されていた手紙を取る
そこに書かれていた宛名は谷間良と書かれていた
『…俺?』
谷間良は、封筒をひっくり返し差出人を確認する…が、差出人はどこにも記載されていなかった
仕方なく封を開けて見ると、そこには一枚の紙が入っていた
その一枚の紙を手に取り見てみると紙にはこう書かれていた
『…‘‘今から8時間後…午後9時に、お前の命は終わりを告げる’’?』
(何だ…この文面、新手のイタズラか?)
だが谷間良にはこんな悪質な事をする知り合い、または友人に心当たりが思い浮かばない
もし仮に谷間良の知人や友人がやったとして
そんな事をしても、相手にも自分にも得がない
谷間良は改めて封筒を確認する
そこには、谷間良と大きく差出人の名前が書かれていた
(書き間違えでは無さそうだな…)
ご丁寧に住所まで、今住んでいる住所が一文字も間違い無く記載されていた
(一体、誰が送ったんだ…)
そう谷間良が悩んでいると
『良…どうかしたの?』
谷間沙織が心配そうに聞いてくる
谷間良は咄嗟に手紙を背後に隠すと
『いや、何でもないよ』と
飄々と答える谷間良
(母さんに、これ以上心配掛ける訳にはいかないもんな)
谷間良は心の中で谷間沙織…母に手紙の事を隠し通す事、巻き込まない事を誓う
(それにやっぱ、タチの悪いイタズラしか考えられないよな)
谷間良は手紙の事をタチの悪いイタズラだと結論付ける
8時間後にそれが現実になるとも知らずに
『母さん、外に出ても良いか?』と何食わぬ顔で言う谷間良に驚く谷間沙織
『外って珍しいわね、自分から外に出たがるなんて』
『何でも良いだろ?たまには、外の空気が吸いたいんだ』と谷間沙織にウザいと言わんばかりの言い方をする谷間良だが本命は別にあった
『今日、帰ってくるの遅いと思うから…ご飯先に食べてて』玄関で靴を履きながら淡々と言う谷間良
(タチの悪いイタズラだと思うけど、万が一って事もあり得る)
そう、谷間沙織に対してあんな態度をとったがそれはあくまで心配を掛けさせない為であり、本心からのものでは決してない
以前は素直に感情や思っている事を口に出来て明るく素直な男だったが、ある切っ掛けで谷間良はすっかり別人のようになってしまった
『良、何か有ったらお母さんを頼ってね』と谷間良の考えてる事を悟ったかのように言う谷間沙織
『何でもねぇよ…行ってきます』と谷間良はそう言い玄関から外に出る
‘‘これが母親との最後に交わした会話だった’’
外に出て谷間良は考えた…これが所謂犯行声明、脅迫状に含まれるなら先ずは警察に行くべきだと
(良し、先ずは警察署だな)
谷間良は警察署に向かって歩き出す
幸い警察署は歩いて10分のところにあり時間は対して掛からなかった…が、
『犯行声明?君、頭は大丈夫かい?』
と言った具合に届け出をしても谷間良同様タチの悪いイタズラとして見ていてまともに取り合ってくれない
(そりゃ、俺だってそう思うけどさ)
『それなら、9時までここにいても良いですか?』
谷間良は1時に届いた手紙が、本当だとすれば9時まで安全な場所に居るべきだと考えた
『ダメダメっ警察も、君が思っているほど暇じゃないんだ』と谷間良の提案はあっさりと却下される
(なんだよ、あの態度っ‼︎あれが、市民を守る警察の姿かよっ)
谷間良は心の中でそう叫びながら警察署の外に出る
『…今、何時だ?』と言って谷間良は腕時計を確認した
時計は14時を示していた
(後、最低でも7時間…どこで過ごそうか)
そう考えていると…
(…ぅ、頭が__頭が、痛えっ⁉︎)
谷間良は突如激しい頭痛に襲われる
(なん、なんだっ急に)
そう思った時
‘‘家…は…ちゃ…め‼︎駅…って’’
と、途切れ途切れだが聞き覚えのない女の声が脳裏に響く
それと同時に頭痛は治まった
(…今の、なんだったんだ)
谷間良は左手で自分の頭に触れる
急に襲われた激しい頭痛、そして途切れ途切れではあるけど聞こえた声
(あの声…誰だったんだろ?)
谷間良には、親しい異性が一人もいない
それどころか関わる機会もない…したがって
今聞こえた声に該当する人物が一人もいない…それよりも
(駅、か…)
そう、その声は最後の単語に駅と言っていた
(あの感じだと、家には向かうな…駅に向かえって事か?)
そう自己解釈すると谷間良は駅に歩みを進めた
駅はここから歩くと30分以上掛かる所にある
いつもならバスを利用するが今日は最低でも21時まで過ごさないといけない
(面倒だが、歩くか)
谷間はゆっくり、わざと時間を掛けるように歩いた
途中コンビニなどに寄ったりしながら
そうして駅に着いて時刻を見ると
時計は16時を刻んでいた…
(ゆっくりしすぎたな…)
谷間良は心の中でボヤくと近くにあったベンチに腰掛けた
そして駅の広場に目をやるとそこには楽しそうに笑いあっている一家族の姿があった
父親と思われる男が小さな女の子を抱き上げて
たかいたかいと声を出して笑っている
(ふっ…俺にもあんな時が有ったんだな)
谷間良はその家族の姿を見て自嘲の笑いを浮かべる
まるで、‘‘自分の存在を否定するかのように’’
それから5時間…谷間良は何もせずにじっとベンチに腰掛けていた
昼間と違い人は少なく辺りも真っ暗になる
(静かで良いな…と、もう21時か)
谷間良は緩みかけていた心に警戒心を持たせる
あの手紙が本当なら、今から何が起きても不思議ではないのだから
そう思って周りを探っていると
『少し…良いかい?君』と警官服を着た男が現れた
『君…ずっとここに居るようだけど、どうかしたのかな?』
どうやら、ずっとここにいるから不審に思われたらしい
(職務質問か…今そんな事をしている場合じゃないのに)
何も答えない谷間良に益々警官は顔を顰め
『ちょっと君…そこの交番まで来てもらおうか?』と言って谷間良に触れようとした瞬間
◆◆◆◆◆◆◆◆ピューーンッ◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『…グワアァアっ‼︎』と青白いビームのような物が警官を襲う
『…え、おいっ警官さんしっかり‼︎』とビームを受けて倒れた警官の体を揺さぶりながら声をかける谷間良
だが、ビームは電撃か何かが含まれていたようで警官のビームの当たった箇所が真っ黒に焦げ付いていた
そして警官の目は白目をむいている
『…嘘、、、だろ』谷間良は口に手を押し当て動揺する
『…対象発見』と機械のように抑揚のない声が聞こえ谷間良は声のした方に顔を向ける
そこには、SF映画で見るような衣装に最近流行しているplaystation○Rのようなものを被っている女性がいた
そしてその女性が手にしていたのは
『…な、なんだよ、、それ』
この時代とは思えないエメラルドよりも透き通っている材質で、コンパクトな形状の銃だった
『…マスター、対象を発見、次の行動指示、希望』と片言の様に呟く女性
そして暫くして
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ガチャッ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
女性は手にしている銃の銃口を谷間良に向け
『行動、受諾、速やかに対象を抹殺』と片言でとんでもない事を口にして銃を放つ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆ピューーン◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それを谷間良は既の所で左に倒れこむ様にしてそれを避ける
そして放たれた銃の方向を一瞬見てから女性に視線を戻す
すると次の発射をしようと谷間良に銃口を向けていた
『…っ』
谷間良は即座に立ち上がり、走り出す
その間にも、警官や谷間良を襲ったビームが何発か発射される
(くそ、どこに行きゃ良いんだよっ)そう思った瞬間
◆◆◆◆◆◆◆◆ダッダッダッダッ…◆◆◆◆◆◆◆
背後からマシンガンの様な音が鳴り出す
谷間良は一瞬背後を向いた、するとそこには
戦場とかで見る様な重量級の機関砲がだった
が、違うのは…放たれた銃弾だ
銃弾は青、赤、白、黄色、黒と色が付いていた
『なんだってんだ…くそっ⁉︎』
谷間良はやけくそになりながら走った
安全な場所を求めて…これが谷間良にとっての最後の日常となる