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中二病やってます

「おはよう。芽引君(めいんくん)


 一人の女子生徒が俺に朝の挨拶を送った。


「この俺に低級な小悪魔ごときが挨拶か。だが今朝は気分がいい。生かしてやるから感謝したまえ・・・。おはよう」


「相変わらず失礼なおはようだね。私以外に言ったらビンタされても文句言えないよ」


 そう残して女子生徒でありクラスメイトであり、幼馴染の倉本鈴音(くらもとすずね)は靴箱から教室へと消えて行った。


「ふん。幼馴染のくせに神に選ばれし俺の秘められた能力に気づくことも出来ないとは・・・哀れだな」


 一人呟き、俺も教室へと歩き出した。


 俺の名前は芽院英雄(めいんひでお)。神に命名された通り芽引英雄(メインヒーロー)。つまり、主人公だ。


 

  1〜中二病やってます〜



「ホームルームやるぞ〜」


 ふん。相変わらずやる気のなさそうな担任だ。始業式から三日間、俺が悪魔の呪縛と闘っていた間も平和に過ごしたのだろう。


「そうだ、芽引。お前が風邪で休んでた間に委員会を決めてな。休んでたお前は飼育委員会に決まったから」


 なんだと・・・。神に選ばれしこの高貴な俺が飼育委員。家畜の世話をさせると言うのか⁉︎


「さっそく今日の放課後から飼育小屋のエサやり頼むぞ」


 それはダメだ今日はダメだ。先月からずっと楽しみにしているライトノベル(神書)が通販サイト(天界)から着払いで届くことになっている。


 これを逃したら俺は明日の日曜日何をして過ごせばいいと言うのか。


「ちょっ・・・・・・」


 キーンコーンカーンコーン。


 俺の神意を込めた反論はチャイムの音にかき消された。


 クソ。このタイミングで地獄の鎮魂歌(ヘルレクイエム)が流されるとは。担任も用意周到なことだ。


 朝から残酷な宣言をされた俺は、担任が教室を出てからしばし沈黙し、右肘を机に付き、右手で顔を覆いながら考えた。


 緊急事態だ。天界からの贈り物は今日受け取りたい。そうしなければ俺の休日に必要なピースを得ることができない。バックれて帰るか。いや、神に選ばれし者としてそれはできない。与えられた使命から背くことは主人公にあるまじき行為だ。


「八方ふさがりとはこのことか・・・。畜生!」


 小さく叫び、主人公としての辛さと、与えられた使命の存在に悔しさを噛みしめる。


「どうせ帰ってもやることないんでしょう。なら動物の世話した方が満たされるよきっと」


 悩み多き主人公に声をかけてきたのは、靴箱で挨拶した幼馴染、倉本鈴音。


「ふっ、低級小悪魔なお前にはわからないだろう。俺がどれほど大きくたくさんの悩みを抱えているかなど・・・」


「わかりたくないけど予想はつくよ。どうせ通販でロクでもない物が届くとかそんなんでしょ」


 ショートボブのふわっとした柔らかい髪を揺らしながら彼女は、お母さんみたいな口ぶりでそう言った。


 これだから低級はダメだ。だが、神書をロクでもないと言う姿はさすが低級でも悪魔。


「幼馴染のよしみで暇ができたらお前を浄化してやるからな」


 哀れな悪魔に慈悲を。なんて優しいんだ俺。主人公はときに悪魔にすら優しさを与えるものだ。


「ごめんね。何言ってるかわかんない」


 低級には高貴な神の子である俺の言語はそもそも通じないようだ。


「かわいそうに・・・」


 いくら低級小悪魔でも、幼馴染ということで多少の情が生まれてしまったのだろう。彼女の人生を思うと自然と涙が頬を伝う。


「いい加減高二になったんだからその中途半端な中二病やめたら?」


 だからお前は哀れなのだ。そんな認識でしか俺を見れないからお前はいつまでも低級なのだ。


 しかしこれ以上彼女に何を言っても理解できないだろう。ならいっそ今だけは優しくしてやるのが主人公としての役割ってものだ。


「どうした?泣いていい。お前の涙は俺が拭ってやるから」


「いや、遠慮するね。涙腺も開く予定ないし」


 神の底知れぬ優しさに恐れをなした悪魔は静かに自分の席へ戻った。


 放課後の解決策を見出せないまま、午前の授業はあっという間に終わり、昼休みになってしまった。


 どうするどうすればいい。なんとしても神書は受け取りたい。この際、妹に頼むか・・・。


「それはダメだ‼︎兄として本日届く神書のタイトルは妹には知られたらマズい」


 頭を抱え、静かに鋭く呟いた。


 神書のタイトルは【おにぃちゃんだ〜愛好(あいす)き。】という、義兄妹のラブコメ物最新六巻。


 別に卑猥な内容が記されている訳ではないのだが、タイトルがタイトルなだけに実の妹に知られたら誤解を招くトリガーになるだろう。


 昼休みの俺は基本孤独を過ごす。周りから見たらぼっち飯だと思われがちだが、主人公とは孤独と上手く付き合っていくものだ。決して寂しくなんかはない。


 そんなことより今解決すべきは神書だ。


 神書神書神書神書神書神書神書。


 脳内で神書を連呼し解決策をひたすら探しながら弁当の蓋を開けた。


「うわぁ〜キャラ弁」


 思考を停止させるインパクト。その弁当にまんまと乗せられた俺の思考は中断した。


 俺の弁当はほとんどが妹担当である。三つ下の現在中二の妹手作り弁当は、孤独をたしなむ俺には持て余す内容がほとんどだった。


 普通に数人とお昼を共にすればこの弁当を見た者からイジリ言葉などの差し入れがあったりするだろうが、あいにく、いや、幸運なことに俺は一人飯。イジリ言葉は飛んでこない。


「この弁当。無言で兄を追い込むとは、さすが我が妹だ」


 製作者の妹を称え、しっかりといただきますの祈りを捧げる。


「本日も素晴らしき弁当と食材に感謝を込めて。いただきます」


 両手を合わせ、一礼してから箸を持つ。


「うわぁ〜キャラ弁だね。比呂(ひろ)ちゃんどんどん創作技術向上してくね」


 箸を持った瞬間に背後から声がかけられた。


 我が妹、芽引比呂(めいんひろ)の名前を発したのは、またも幼馴染である鈴音だった。


芽引英雄(メインヒーロー)である俺の妹だからな。妹もまたその名の通り芽引比呂(メインヒロイン)になれる器だろう」


「相変わらずいただきますの前になんか言ってるんだね」


 スルーされたのでこちらも完璧にスルーを決め込んだ俺は、そのまま更に感じたことを、胸の奥で囁いた。

 いつからこいつは俺を見ていたんだ。視線を感じさせない鈴音の性能(ポテンシャル)は暗殺者向きの能力構成だな。


 幼馴染のステータスを分析し終え、今度こそ弁当に箸をつける。


「おいしそうだね〜。あぁ、そこ食べたら顔が・・・あー、顔がぁ・・・」


 食いづらいわ!!何隣に着席して俺の食事観察してんだよ、ちょっとかわいくて幼馴染だからって調子に乗るなよ。クソビッチが!!


 おっといけない。主人公はたとえ声に出さなくてもそんなこと思ってはいけない。ましてや俺は神の子。神が私情で憤怒したら世界が終わってしまう。


「ふっ、これも運命(さだめ)か・・・」


 優しさで世界を思いやる俺の器は。


「海何個分だろうなぁ」


 脳内の声と掛け合いする。断じて独り言ではない。


「一畳あれば十分じゃないかな?」


「一応聞くが何の広さだ?」


 幼馴染の魅力パラメータは高めだ。これは幼馴染のひいき目を加算した物ではなく、事実彼女は結構モテる。断トツぶっちぎりでかわいいって訳ではないが、地味にかわいい。


「トイレの個室。違った?」


 なのに男っ気がないのはこのようによくわからない回答をするからだ。

 初対面では魅力値に誘惑された男子達から人気を所持していたが、話せば話すほど誘惑魔法は解除されていった。


 今では女友達は多少いるものの、その友達はお昼休みは、みんな彼氏と過ごしている。

 取り残された彼女は、ある意味ぼっちだ。


「飯時にトイレとか言うな。だから彼氏の一人も出来ないんだよお前」


 言ってる俺も辛いが、言ってやらないとこいつがダメになる。今だけは心を鬼にして言葉の一五〇キロのストレートを投げ込んだ。


「キャラ弁でぼっち飯してる人が言えるのそれ?」


「・・・・・・・言うな。飯が不味くなるだろ・・・」


 これがあの、ぐうの音も出ない。ってことか。心を鬼にして力投したストレートを天然の鬼は金棒でバックスクリーンまで運びやがった。今度から野球を見るときは敗戦投手に同族意識を持ってしまいそうだ。


「あ、そうだ。放課後エサ買いに行くから付き合ってよ」


「なんのエサだよ?」


「飼育小屋のだよ」


「ちょっと待て。俺は飼育委員を引き受けてないぞ。そもそもこちらの意見も取り入れてない決定は民主主義に反するだろう」


「それは困ったなあ」


 本当に困っているのは俺の方だ畜生。朝から強引な決定事項を宣告された俺がどれほどの悩みを抱えているかお前には理解できないだろうがな。


「推薦したの私なのに〜」


 貴様が主犯かこのやろう。お前のせいで俺の予定が狂っているんだぞ。

 今だけは怒ることを許せ世界よ。世界を救う神書が関わっている今だけは。


「でも結局行ってくれるんだよね」


 勝手を抜かすな。俺には受け取らなければならない書物があるんだ。


「なんも言わないってことは承諾したということだもんね」


 間違っているぞ。俺が今黙っているのはそうじゃない。この怒りをどうやって解き放つか真剣に考えているからだ。


「じゃあよろしくね。そろそろお昼終わるから戻らないと、あ、ウインナーも〜らい。んーおいひぃ」


「おい、ちょっ・・・・・」


 キーンコーンカーンコーン。


 またしても地獄の鎮魂歌に邪魔された俺の神声は、無様にかき消された。


 −−−あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎−−−


 行き場を完全に失った俺の怒りは、心で咆哮をあげた。

 クソ。俺のタコさんウインナー返せ。てか。


「弁当一口しか食えてねぇよ・・・・」


 食事妨害を受けた俺の胃袋は静かに泣き声をあげた。


 ・

 ・

 ・・・・・・・放課後。


 結局、解決策は見つからず配達会社(天界)にメールを送り、届け日を明日にずらした。


「よし。じゃあ買い物行こ〜」



 なぜ高貴な俺がこんな仕打ちを・・・。

 弁当を食えなかった胃袋はまだ泣いている。


「お腹すいたの?燃費悪いね」


 俺の腹鳴りを聞いた全ての元凶は歩きながら無邪気な微笑みに乗せてそう言う。


「誰のせいで弁当一口しか食えなかったと思ってんだ。タコさんウインナー泥棒」


 泥棒は小さく被りを振って反論した。


「ちゃんと貰うって言ったもん。泥棒はひどいよ。せめて怪盗にしてよ」


 返事する前にしっかりタコさんウインナー噛み締めていたクセによく言えるな。

 なんで泥棒否定で怪盗はおっけーなんだよ。似たようなもんだろ。


 胸中でボヤいてもボヤいても、消えないこの感情はなんなんだ。


「着いたよ。ほら入ろう入ろう〜」


 感情の正体がわからぬまま、俺は店内へ連れ去られた。


 学校から徒歩十分ほどでついたここは、この辺では一番大きなペットショップ。

 ホームセンターと同じ敷地内で店構えするここには、プライベートでも結構お世話になっている。


「おい鈴音。そもそも何のエサ買うんだ?その前に飼育小屋には何がいるんだ?俺何にも聞かされてないぞ」


 飼育委員に推薦された理由の説明責任も果たされてないし、エサ買いに付き合わされてることも全て納得していないし、できそうもない。楽しみも一日ずらされたし。

 不満を全面的に感じてるので、湧き水のようにとめどなく溢れる文句を叫びたいくらいだ。


「とりあえず、今日はニワトリのエサと〜。あと、犬のエサだね」


 入学して一年。初めて知ったが飼育小屋に犬いたのか。


「ニワトリ(羽族)って何食うんだ?」


 俺の質問に「羽族って・・」と、小さく放ち少し間を置いてからタコさんウインナー怪盗は答えた。


「わかんない。とりあえずこのニワトリのエサって書いてあるやつでいいんじゃないかな」


 いい加減なやつめ。仮にもニワトリ(羽族)の命を世話するんだぞ。そんないい加減だと種族差別と判断されてしまうじゃないか。


 怪盗の発言に肩を落とした俺は小さく嘆息し、後でしっかり調べよう。それくらいしてやらなければニワトリ(羽族)の命を預かる神として、主人公として一生ニワトリ(羽族)に顔向け出来ない。そう決意した。


「犬(牙族)の大きさと種族は把握してるのか?」


「んっと〜。犬の大きさと種類ってことでいいよね?」


 首を傾げ問われた質問に「下界ではそう呼ぶらしいな」と、素早く返し、怪盗の回答を待つ。


「犬のエサってこれが万能じゃないの?」


 そう言って細めの両腕で持ち上げたのは一番安い固形物の袋。五キロで税抜き九五〇円。

 その姿に俺は思った。こいつはダメだと。


「お前には別種族に対する思いやりはないのか。例えばお前の家で朝昼晩、全ての食事が煮豆だったら嫌だろう?犬(牙族)だってそうだ。彼らも食を楽しむ心は人類と同じだ。そんな彼らから楽しみを略奪するのはかわいそうだと思わないのか?その・・心すら、お前は持っていないと言うのか・・・?」


 あまりに熱弁したせいで途中から涙を流しつつ、店内には相応しくない声量で彼女に訴えかけた。

 少し店内で視線を集めたが、そんなこと今は気にしてる場合じゃない。早くこの人でなしに心を思い出させてやらなければ・・・。


「私、煮豆結構好きだよ。おいしいよね〜煮豆」


 俺の叫びは届かなかった。というより、煮豆好き?って聞かれたくらいの軽い返答だった。

 届かなかった思いは、数秒で店内BGMにかき消され、消滅。

 残ったのは、俺に集められた複数の視線だけだった。


「一六〇〇円になりまーす。二〇〇〇円からお預かりします。四〇〇円のお返しになります」


 はぁ。すまん飼育小屋の住民よ。俺が事前に調査していればこんなことにはならなかったのに。


 結局鈴音が選んだ物を購入し、荷物を学校で借りた自転車に乗せて学校へ戻る。


「はい。これ!」


 住民への罪悪感で俯いてる俺に缶コーヒーが渡された。


「貢ぎ物か。ありがとう」


「先生がね、お釣りでジュースでも買いなって。芽引君はこれだよね」


 そういうのって普通、相談してから買うもんではなかろうか。

 それでも俺が選ぶ物をしっかり熟知しているのは流石に幼馴染ってことだろう。


 悪い気はしないからまぁいいとしよう。


 まだ消えない罪悪感を抱きながら俺は十分の帰り道を、まあまあ重い荷物を積んだ自転車を押しながらとぼとぼ歩いた。


 学校に着いた俺たちは、先生にレシートを渡し、その足で飼育小屋へと向かう。

 着いた飼育小屋を見てまず思ったのは。


「小屋多くねぇか?一体何がどれだけいるんだよ?」


 高校にある飼育小屋にしては与えられた敷地も広く、一列に並んだ小屋の数は五つ。丈夫そうな屋根に、三面は木造り。出入り口の面は鉄製の棒で程よく隙間が空いていて、中の様子もしっかり確認できる。一番奥の小屋横には、小さく浅そうな水たまりみたいな池まである。


 一年過ごした学校でこんな新たな発見、普通はないだろう。


「あれ。何もいないぞ?小屋だけ設置してるのか?」


 一番近くの小屋を覗いたが、綺麗にされているものの、中には何も住んでおらず、少しガッカリした。


「これから増えるらしいよ。なんか校長先生の提案で春休みに作ったばかりなんだって」


 どうりで見たことないわけだ。てか、校長の提案でも、これってある意味経費無駄使いって言われ出したりしないのか?


 このままの言葉で鈴音に聞いたところ。


「それは大丈夫じゃない?校長先生が提案して、小屋も自腹で建てたって聞いたし」


 マジかよ。校長ってそんな金回りいいのか?

 真っ先にそう思ったが、次の思考で校長は尊敬に値することに気づいた。


 なぜならば、自らの身銭を切り、学徒達に他種族に対する思いやりを学ばせようとしている。なんて素晴らしく優しい大人なんだ。世の中にこんな大人が増えればきっと戦争もなくなり、平和が築けるだろう。


「なんで泣いてるの?」


 どうやら校長の慈悲深さに感動し、知らぬ間に涙腺がこじ開けられてしまったようだ。


「いや、同じ平和を願うものがいたことに感動してな」


 流した涙を袖で拭いながらそう言い、早速ニワトリ(羽族)と犬(牙族)に挨拶に向かう。


 やることは初顔合わせとご飯を差し入れるだけなので数分で終わり、さっきの缶コーヒーで作業後の余韻に浸る。


「この子達、名前なんて言うのかな?」


 不意に飛んできた質問に対し、俺は一切答えを知るはずない。


「俺が知ってるわけないだろう。飼育委員強制参加に、つい先程までここにどんな種族がいるのかも聞かされていなかったんだからな」


 終わったことと決定されたコトに文句を言っても変わらないが、溜め込む容量もパンパンなのでこの際言ってやった。

 少しは謝罪の言葉なり態度で俺に詫びてもバチは当てないでやる。感謝しろよ。


「まぁいいじゃん。きっと楽しいよ」


 私に悪気はありません。って表情だな。

 その無邪気な笑顔は悪くないが、多少でも申し訳なさを出してほしいものだ。


「はぁ〜。まぁたまにはこんな日もいいだろう」


 無邪気な笑顔に押し切られた俺は、煮え切らない思いを缶コーヒーとともに吞み干し呟いた。


「帰るか。もうすぐ六時になるし」


「うん。久々だね、芽引君と帰るの」


 言われてみればそうだった。家はお隣さんだし、帰る道も一緒なのだが、一緒に並んで帰るのは多分入学式以来だった。


「芽引君すぐ帰るもんね」


「普通だろ。残ってもやるコトないんだから」


 理由はこの通り、俺がすぐ帰るのに対し、鈴音はやるコトもないくせに教室でしばらくボケ〜っとしてから帰る。

 この謎のボケ〜。が結構長く、日によっては一時間近くそうしている。

 いくら家が隣で帰り道が一緒でもそんなボケ〜。を待ってるのもバカらしいので俺は最速で帰宅するのだ。


 特に話題も無いままに帰宅路を歩く。無言でも気にせず入られるのは正直ありがたい。


 十数分で家に着き、別れの挨拶をした。だが、彼女が最後に言った一言で俺はさらなる絶望へと落とされた。


「じゃあまた月曜日な」


 言葉を置いて帰ろうとした俺の背中にまたしても聞いてない事実が放たれた。


「バイバーイ。でも月曜日じゃなくて、また明日だよ?」


「いや、お前と休日に遊ぶほど俺は暇じゃない。神書も届くしな」


「遊ぶわけじゃなくて、明日も飼育小屋行かなきゃだよ〜?」


 はあ?聞いてないぞ。その言葉に立ち止まり、説明を要求した。


「だって、じゃなきゃ誰がエサあげるの?」


「いや、休日は先生があげるんじゃないのか?」


「違うよ。飼育委員の仕事だよ」


 聞いてねぇよ‼︎‼︎‼︎‼︎。つまりあれか?これから休日は毎回学校に行かなきゃならないのか?それってまさか・・・。


「休日全返上!?」


 まさかそんなことあるわけないだろう。

 この思いは僅か一秒で打ち砕かれた。


「だね。がんばろ〜ね。じゃあ朝十時にこの辺待ち合わせで。じゃあね〜」


 そのまま鈴音はドアの奥へ姿を消した。


 そんな・・・バカな。


 休日全返上。その事実に押しつぶされた俺の心はペッチャンコ。


 そのまま帰宅し、神書(ライトノベル)の注文をキャンセル。


 全てにおいて納得することが出来ない一日はそっと終わった。


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