プロローグ
〜プロローグ〜
三月。
入学から早三年。こんなにも別れを惜しむことになるなんてな。
ここで学んだ二年間は永遠に俺の記憶に刻まれるだろう。
「芽引君。泣いてるの?」
幼馴染の女の子が俺に聞いた。
その問いに遅まきながらも自分が涙を流していることに気づく。
「・・・これは涙じゃない。神から眷属への敬意の雫だ」
卒業したての俺は、こいつらに感謝を込めてそう言った。
「二世。お前は母に似て勇敢で優しく育ったな。今のお前を母が見たらとても誇らしく思うだろう」
片膝をつきながら言った俺の言葉に二世は、クゥ〜ン。と唸ると膝に前足を片方置き、頭を下げた。まるで騎士礼のように思えた。
「雷神。お前の素早さにはとうとう追いつけなかったよ。まさに雷の生まれ変わりのようだったぞ」
差し伸べた右手に雷神は頬をすり寄せる。雷神らしからぬその行為は彼なりの好意の表し方。そう思えた。
「炎神。そして朱雀。お前達の咆哮は何よりも凛々しく、その炎色の髪はカッコいいぞ」
二羽は羽を広げ、最後の咆哮を俺に届けた。その咆哮は俺の鼓膜から脳へ真っ直ぐ伝わった。
「玄武。どんな時でも自分のペースで力強く進むお前の姿は、まるで戦車のようだったぞ。優しいお前は主砲を撃つことはなかったが、その優しさは何よりもお前の武器だ」
玄武は首を伸ばし、力強く存在感を示した。まさに玄武の名に相応しい姿だ。
「水神。愛くるしい見た目だが、一際気性は荒く、攻撃的な性格も持っていたな。お前の一撃は俺の心に大切な物を刻んでくれた。礼を言うぞ」
水神は、キュルキュル。っと愛らしい声を上げた。
「天馬。陸を走るお前の背中には、立派な羽がある。俺にはしっかり見えてるからな」
天馬は左右の前足を思いっきり上げ、天を仰いだ。その姿はとても美しく輝いていた。
「鈴音。こうしてお前に伝えるのは初めてだが、今日は言わせてもらおう。ありがとうと・・・」
幼馴染に感謝を素直に伝えた。思えば今までこいつに言葉を素直に言ったことはなかったな。巻き込まれた形で参加したことだが、今は感謝している。ありがとう。
「素直に言われるとやっぱり恥ずかしいね」
幼馴染は泣き笑いの表情で小さく呟いた。
「白河。学力が低いお前は無知でどうしようもないやつだったが、学ぼうとする姿勢は尊敬に値する。最後まで参加した君に敬意と感謝を贈る。ありがとう」
同級生の白河朽葉は不満そうに深く頷いた。
「バカにされてる気がするです・・・」
そう言った彼女の眼から落ちた雫は地面に数滴の潤いを与えた。
「藍原。頭の良いお前は常に物事を理論的に考えていたな。だが、理論通りにいかないことを知った時のお前の表情は凄く眩しかったぞ。いろいろ助けられもしたな。ありがとう」
転校生で同級生。俺の言葉を聞いた藍原海香は、頭脳派とは思えないほど鼻を鳴らし、海の味がする雫を流し続けた。
「・・ずるいよ。最後にこんなコト言うなんて・・・・うぅ」
可愛い顔に涙で化粧をした彼女の表情は神秘的だった。
「柚木。お前にはここに残していく我が眷属・・・友のことを頼む。お前になら任せられる。委員長はやることも増えるだろうが、頼んだぞ」
一学年下の後輩、柚木まゆに最後の願いを告げた。
「先輩の、頼み、承ります・・・任せ、てぐだざい」
泣き虫な後輩は特徴のツインテールを小さく揺らしながら涙をながした。
「・・・アメリカン」
「雨里‼︎」
「すまん。なんか湿っぽい雰囲気になってきたからつい・・」
「ったく。最後くらい湿っぽくいいじゃないですか・・・」
「雨里。副委員長としてしっかり委員長をサポートしろよ。まぁ優秀なお前は言わなくてもできるだろうがな」
同じく一学年下の後輩、雨里流風に委員長を支える役目を託した。
「当たり前じゃないですか。言われなくてもやりますよ・・」
サイドテールの生意気な後輩は、言い終わるとプイッと身体ごと後ろを向いて顔を隠したようだが、流れ落ちる雫までは隠せなかったようだ。
「二世。雷神。炎神。朱雀。玄武。水神。天馬。今この刻を持って我が眷属の任を解く。これからは余生を満喫するがいい。次に会う時は、友として語らおうぞ」
最後に友と約束を交わし、俺たち卒業生は校門から次なる一歩を踏み出した。