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世界でただ一人銃を扱える者(仮)  作者: おひるねずみ
第1章 旅の始まり
9/19

第九弾 ミネラル成分

 あれから二時間が経過し、ようやく森の出口が見えてきた。


「リーネ様、キッドさん。街道が見えてきましたよ。ここまで来れば安心です。この道を真っ直ぐ歩けば、シュミル村に到着します。あと少しの辛抱ですので、頑張って下さい」


 慣れない森の中を、レオナさんに言われるがままに、ひたすら歩き続けて五時間経過した。

 ようやく、道らしき道を目撃して心から安堵する。

 森を抜け出て一面に広がる、草木が生えた平原。森林特有の緑の香りは無く、透き通った空気が、俺の呼吸と一緒に肺に入り込む。

 この世界に来て、初めて森以外の空気を吸い、感傷に浸りながら、街道の地面に足を踏み入れた。

 道幅は道路換算で三車線ほどあり、広々としているが、地面はデコボコの状態。

 更に、昨日の雨で所々に水溜りがあったり、土がぬかるんでいたりと、最悪のコンディションだ。


「レオナさん。シェミル村は、どんな場所なんですか?」

「シェミル村は、私達が暮らしていたラッテ村より、規模が大きい村で、人口七百人が住む村です。

特産品は小麦で、辺り一面に広がる小麦畑は、それはもう、絶景ですよ。ふふっ、キッドさんとリーネも、見たら絶対に驚くと思います」

「あれ? リーネは訪れた事がないのか?」

「うん。僕は一度も他の町や村に行ったことがないんだ、お爺ちゃんが行っては駄目っていうからさぁ……」


 がっかり顔をしながら、口を尖らせるリーネを見て、レオナさんが軽く会釈しながら「すいません」と俺に頭を下げた。

 レオナさんも大変だなと思いつつも、地面に注意を向けながら歩く事、三十分。

 シュミル村周辺に近づくにつれ、黄金色の小麦畑が段々と広がりを見せる。

 

「すごいな。レオナさんが言った通り、辺り一面、小麦畑だ」

「ハァ~、これが小麦畑かぁ~。想像以上に綺麗だなぁ~。僕が育ったラッテ村は、牛の畜産が盛んだったから……小麦とかの作物は、作ってなかったんだぁ~」


 生まれ育った故郷に何事も無ければ、俺と一緒に眼前に広がる光景を笑いながら、分かち合えただろう。

 ゴブリンに襲われた故郷を想像して、悲しそうなリーネの後頭部を、右手でソッと撫でる。

 ほんの一瞬、硬直するが、青の瞳を下に落とし、歩きながら前に進む。


「兄様、そんなに過保護にならなくても、僕は大丈夫だよ?」

「過保護でいいんだよ。リーネは俺の妹なんだから、辛いならいくらでも頼っていいんだぞ?」


 リーネは目を糸のように細め、口元をウネウネさせ、「うーうー」唸り始める。

 前を進むレオナさんは、こちらをチラみして様子を探るだけで、何も言ってこない。


「ううぅ~、キッドにぃはズルイ! そんな事言われたら、頼りたくなっちゃうじゃんかぁ~」

「いくらでも甘えればいいさ。まあ、流石に人の眼が光る所では、甘えるのは遠慮して欲しいけどな」

「いわれなくても、人前で甘えるのはしないよぉ~だぁ!」


 頬を膨らませ「ぶー、ぶー」言ってるリースをよそに、遠目で村の入り口が確認できた。

 入り口の周りで、木製の柵を補強作業をしている人が見受けられる。

 どうやら、ラッテ村で起きた悲劇的事件が、ここまで伝わっているようだ。


「ふぅー、今のところ、シェミル村は無事のようですね。物々しい雰囲気ですが、何も知らされていないよりは、幾分かマシです」

「無事でなかったら、どうしようかと悩んでましたよ。もう弾の数が残り少ないので、戦闘になったら近いうちに無力になる予定でしたし」


 事実、俺の弾の数は残り六発になっており、戦闘になれば、途中で弾切れを起こしても不思議では無かった。

 レオナさんのサポートが無ければ、完全に弾切れになって、森の中で息絶えていただろう。


「レオナさん。ありがとうございます。俺、レオナさんがいなければ、ここまで辿り着けなかった」

「えっ!? キッドさん。急に、どうしたんですか!? やめてください。私もキッドさんがいなければ、毒で死んで辿り着けなかったはずですから」


 俺が疑いようのない真実を述べたら、リーネがレオナさんの腰に抱き着き「にしし」と笑い出した。


「にしし、レオ姉もキッドにぃの事が好きなんだぁ~。僕と一緒だね♪」

「な、ななななな、何を言うんですかリーネ様!? そんな事は、断じてありません!」


 見た事がない位、レオナさんが動揺してる。

 リーネの言葉でタジタジになり、いつものレオナさんの面影が無い。


「レオねぇ~、嘘は駄目だよぉ? 僕に抱き着かれてるから、どういう事か理解できてるよね?」

「そ、それは、そのぅ……分かっていますが、リーネ様が好いてる方を好きになるのは、従者として失格かと存じ上げます……」

「レオねぇは硬いなぁ、もう。僕は別にいいんと思うんだけどなぁ~、二人で兄様の事を支えるの! 兄様もいい案だと思わない?」

「はいぃぃぃぃ!?」


 鳩が、豆鉄砲を食ったように気が動転する俺。ここはひとまず、強引に他の話題を出し、この場をやり過ごす事にしよう。


「レオナさん。質問なんですが……やはり、リーネは触れた者の心を読めるんですか?」


 顔を赤くして照れていたレオナさんが、後ろに一歩後ずさりし、瞳を大きく見開く。


「ど、どうして、その事を!?」

「さっきリーネを調べたら、偶然にも知り得てしまって」


 リーネとレオナさんは、お互いに顔を合わせて俺に対する対応を協議してる様だ。

 話が決まったのか、レオナさんが重い口を開く。


「はい……キッドさんの仰る通りです。リーネ様の為を想うなら、どうかご内密にお願いします」


 俺は両目で、青い瞳と茶色い瞳を交互に覗き込み、笑顔で相槌をうつ。

 二人を安心させるために。


「お互いに持ちつ持たれつつ、危険な森を抜けて、人が暮らす場所まで来たんだ。なら、一蓮托生だろう? だからこの事は、俺達三人だけの秘密だ。勿論、俺の力の事も秘密にしてくれると助かるんだけどさ」

「うふふっ、分かりました。キッドさん。秘密ですから、ちゃんと約束を守って下さいよ? もし約束を破ったら、木に縛り付けて、リーネ様の弓の的にしますね」


 レオナさんは俺に、爽やかすぎる微笑みを贈る。

 言い換えると、ご褒美に近い。

 まるで、女神! 最大級の賛辞さんじに匹敵する……そう、ラストの言葉さえなければ……


「レオねぇ。僕、兄様に弓を引きたくないよぉ~」

「大丈夫ですよ、リーネ様。キッドさんが約束を守れば、何も問題はありませんから」

「そっかぁ! うん。そうだよね! 僕、兄様を信じるよ!」


 二人が本物の姉妹のように映る、俺の瞳。

 仲良きことは美しきかな。

 俺が約束をたがえなければ、木に縛られずに済む。

 何よりも、女性を悲しませる事は極力したくない。


 きっと人の心が読める事で、沢山辛い事や葛藤かっとうがあったはず。

 それにともない、おのずと答えが出て来る。

 村長はリーネの力を知っていたから、よその町や集落に行く事を禁止していたんだろう。

 もしも、そこで読心術がバレたら、どんな目に遭うか想像もできない。


「レオナさん、仮定の話です。もしも、もしもですよ? リーネの読心術がバレたら……リーネは、どうなるんですか?」

「…………別に、どうもしませんよ? その時は、私が全力でリーネ様を守りますので。ですが、どうしてその様な事を聞くのです? まさか、キッドは約束を守る自信が無いとでも?」

「そんな訳ありませんよ! 約束は約束です。絶対に、口は割らないと約束します!」

「リーネ様!」

「にししっ!」


 瞬発的な移動に伴い、左右にブレたのを認識した時には、俺はリーネに抱き着かれていた。

 太陽の日光が当たり、黄金髪に輝く髪が俺の目の先にある。

 一連の動揺があり、その時の心持までもが読まれてしまう。


「レオねぇぇぇ――――――!! すごい、すごいよぉ~! キッドにぃ、命を懸けて守ってくれるって、言ってるよぉ――――――!!」

「良かったですねっ、リーネ様。その様に想ってくれる人は滅多にいませんので、手放しては駄目ですよ?」

(嗚呼……心中を覗かれてしまった。それに何も、声に出さなくても……)


 よっぽど嬉しかったのか、俺の背中に回しているリーネの腕の力が増す。

 予想以上の締め付けだ。

 スキルの筋力レベルの差が、関係あるのかも知れない。

 

「リーネ。そろそろ、離れてくれないか?」

「え~、だって兄様。シェミル村の中に入ったら、もうチャンスがなくなっちゃうよ? それにね、幸せになるのに遠慮はいらないんだよ?」


 すっごい誘惑だ。こっちも、スキルの交渉術が関係ありそうだ。

 普通に買い物関係の交渉術かと、想像していたが、このやり取りも突き詰めれば、交渉になってる気がする。

 現に、俺の心がグラグラ揺らいで非情に危険。

 下手をすれば……っと、内心想像していたらリーネが、俺から離れた。


「リーネ様。ご堪能しましたか?」

「うん! 僕は満足したよぉ~、兄様成分を吸収したから、しばらくは大丈夫!」


 どうやら俺は、リーネに対してミネラル成分を持っているらしい。

 これからもミネラル補給の為に? 適度に抱き着かれそうだ。

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