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世界でただ一人銃を扱える者(仮)  作者: おひるねずみ
第1章 旅の始まり
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第七弾 森の豚さん

 俺はまだ、オーク達を調べてなかったので、ターゲットして鑑定眼を使う。

 【名前:はぐれオーク。HP165。群れからはぐれたオークで下っ端。槍を扱う、中級の魔物。階級7】

 【名前:レッドオーク。HP500。ハイオークの上位種。槍術を扱う、上級の魔物。階級4】


(階級? モンスターに階級があるのか?)


 どうやら階級の数字が小さい程、強さが上らしい。

 まるで、食物連鎖のピラミッドだ。

 にしても強いな……レッドオークは絶対無理。

 オークでさえ、レッサーゴブリンの十倍HPがあるのに、レッドオークはオーク三体分のHP量! 残弾が尽きて、なすすべなくやられるのが想像できた。

 間違いなく、相対したら殺される。


「レオナさん。オークって強いですね……普通のオーク一匹、倒せるのか自信が無いです」

「そうですか。なら迂回して別のルートで進みましょう」

「了解です」


 オーク共を避ける様にして、迂回するルートを選択。

 細心の注意を払いながら、慎重に行動する。


 無事、通り過ぎたと肩を撫で下ろし――――パキッ!


「ブヒッ?」


 木の枯れ枝を革のブーツで踏み、音を立てた者の茶色い瞳のアイライトは儚げに消えていた。


「レオナさん……」

「レオ姉……」


 あろうことか、一番神経を張り詰めていただろう、レオナさんが小枝を踏んでしまっていたのだ。

 ドジッ子属性持ちのレオナさん。

 どうやら、ここ一番! という時に、やってしまったようです。


 オーク達は耳をピクピク動かし、鼻をフゴフゴさせ、俺達の居場所を探り出すことに成功し歓喜する。


「ブヒヒィィィィ―――――!!」

「すいません! 見つかってしまいました。レッドオークは私が絶対に止めますので、キッドさんはオークをお願いします!」

「や、やれるだけ、やってみるさ! 過度に期待しないでくれよ」


 くして、実質2対2の戦闘が始まった。


 レオナさんは左側に颯爽と移動し、レッドオークの敵視を集め、レッドオークはレオナさんに対して、油断なく構えを取り様子を伺っていた。

 その一方で俺は、右側にいるオークの注意を惹き、銃を右手に持ち左手を添えて、オークにターゲットを合わせる。

 オークは、初めて見るであろう銃の事を武器と思っておらず、構えすらもしていない。

 薄にやけた笑みを浮かべ、平然とこちらに近づいて来る。

 目の前のオークは、完全に油断している。

 銃の事を遠隔攻撃用の武器と判断していない。

 なら、このチャンスを利用して、近づかれない様に俺の射程レンジで勝負をするだけだ。


 俺はターゲットの距離が三十メートルを切った所で、攻撃をスタート。

 命中率? そんな事は知った事ではない。

 オークの持つ槍で、一回でも突かれたら終わりだろう。


 俺は心のどこかで、ここはゲームの仮想世界だと思っていた。

 だが、実際は違った。

 レオナさんが倒した生物は、その場に死骸が残り、その場で剥ぎ取り、現物として荷物に入れ、運んでいる。

 そもそも俺が当然として、銃で倒した敵を消滅させたり、異次元袋を使っている事じたい、おかしい。

 この世界では、自分がイレギュラーな存在だと認めざるを得ない。


 そして、なりよりも重要なのが、ダブルスターに噛まれた時、痛覚を感じた事。

 それでも減ったHPは五。噛みつかれただけで五も減少した。

 もしも俺が、オークの槍で体を突かれたら、一体どれだけHPが減少するのか分からない。

 当たり所が悪ければ、致命傷。運が悪ければ即死の可能性すらある。

 

 痛みを受けた時点で、俺の中に確信めいたものが生まれていた。

 決定打になったのは、その後の麻痺だ。

 あれは、俺が歩んで来た人生の中で一番の恐怖。

 全身が強張こわばって金縛りに遭い、まぶたすら閉じることが出来なかった。

 あまりにも現実リアルすぎて、確信するには十分な事柄だった。

 HPがゼロになれば、間違いなく俺は死ぬ!


 俺の初撃が戦闘開始の合図となり、レオナさんとレッドオークの得物がぶつかり合う、不愉快な剣戟音けんげきおんが、森に鳴り響く。

 それに対して、銃のサプライズアタックを受けたオークは、突然痛みが発生した事で狼狽えていた。

 俺の一発目は、オークが装備している革製の胸当てに着弾し、四ダメージと表示される。

 俺は、そのままの距離を維持しながら、残弾七発をぶち込む。

 初撃と合わせ、全部で五回のダメージ表示があり、オークのHPの約二十五%分、ダメージを与えた。


「ブオォォォ―――――!!」


 オークは遠距離から攻撃された事に、少し遅れてから理解が追い付き、怒りの咆哮とともに、地面を蹴って俺に突撃してくる。

 想像以上に速度があり、俺は後退しながら移動している為、距離を詰められるのは時間の問題だ。


(チィ! 想像していた通り、ダメージの通りが悪いな)


 弾倉が空になり、その後、発生する四秒のリロード時間が非常に長い。

 リロードが終わったら、全弾発射を三回繰り返すが、HPの七割を削り取った所で、オークの接近を遂に許してしまう。

 オークが俺の胴に狙いを定め、鉄製の槍の穂先を深々と突き出す。

 鋭いひと突きを、咄嗟に体をひねって回避し、その隙に銃を放つ。

 それと同時に、その場から距離を稼ごうと動いた瞬間! 再び、近づく事が出来ないと判断したのか、オークが手持ちの槍を、やり投げの選手が放つスピードで、俺に目掛けてとうてきしてきた。

 タイミングを読んだかのような、完璧な動作。

 俺の行動を予測したオークの槍先が、俺の腹に吸い込まれる様に突き刺さる。

 傷口付近が熱を帯び、電流が流れるかの如くのスピードで痛みが伝わり、地面へ仰向けに倒れこんだ。

 自身のHPバーが急速に減っていき、残り三割でストップする。


「キッドにぃ―――!」

「リーネ……来るな!」


 俺の腹に槍が突き刺さり、服に血が染み込んでいく。

 それを遠目で目撃したリーネが、自信が出せる最高速度で、俺の傍に駆けつけようと走り出した。

 だが、時間は待ってくれない。


 「ブヒヒッ!」と、ゲスい笑みを浮かべながら、悠然と近づいて来るオーク。

 息をするのもつらい状況に陥るが、辛うじて動く右手で銃をオークの足に向け、装填が終えた銃の引き金を引く。


「ブヒィィィ―――!?」


 ブヨブヨとたるんだすねに命中し、その場に膝をつき、まるで頭を狙って下さいと、言わんばかりの姿勢。

 俺は一切の躊躇なくオークが消滅するまで、頭部に弾丸をプレゼントした。

 ピンク色の塊が地面に倒れ伏せ、青色の微粒子となり周囲に拡散し、それと同時に、俺に突き刺さっていた槍も微粒子となり拡散する。


 消滅を確認した俺は、レオナさんの戦況を確認する。

 あちらはまだ、戦闘を繰り広げている様だ。

 両手で二刀の長剣を上下左右に振り抜き、相手は怒涛の攻めに苦しみ、防戦一方。

 状況はレオナさんが無傷で、レッドオークは赤い肌を更に赤くし、体中が鮮血に染まっている。

 HPバーは六割ほど失っており、もうじき決着が着く。

 レオナさんの勝ちが揺るがないと確信した俺は、自分の受けた傷を治す事に集中する。


「キッドにぃ! 血が、血が出てるよぉ! 僕は、どうすればいい!?」

「腰にある水筒を貸してくれないか……考えがある」


 泣き顔のリーネは俺の指示に従い、水筒を俺に手渡す。


 リーネの水筒を異次元袋に収納し、癒し草を採取した時に得た「下級錬金レシピ。適正レベル八。ヒールボトル」の作成に取り掛かる事にした。

 材料は、癒し草が2に対して、水分が1の割合だ。それと入れ物の容器が有れば、それも追加できる。

 ボトル無しだと、取り出す時に液体のまま出現し、大変な事になるだろう。

 リーネの水筒には、ヒールボトル3回分の割合で水分が入っている為、癒し草を6個の割合として錬金を開始する。

 異次元袋内で調合が始まった途端、脳内にルーレットが鮮明に浮かび上がる。


 説明には、金色、大成功。青色成功。赤色失敗と書いてあり、黙読が終わった途端! ルーレットが回転を始めた。

 青色二割、赤色八割の割合で占めており、成功確率がすこぶる低い。

 タイミングを見計らってストップさせた。

 止まった位置の色は、青色だ。

 無事、錬金のヒールボトルが完成した結果、ヒールボトルがドロップ品として所持品に加わる。

 錬金のレベルが足りなかった為か「ヒールボトル2/3」と、一回分の使用された状態になっていた。

 完成したヒールボトルを異次元袋から念じて取り出す。

 出現した場所は、俺の腹部の上。


 錬金が成功した事で緊張の糸が切れ、ぐったりと仰向けに倒れ込んだ。

 思うように、体に力が入らない。


「悪い……それを……飲ませてくれ……」

「わ、わかった!」


 リーネは水筒の中身をコップに注ぎ、俺の口元へ近づかせ、口の中に流し入れた。

 俺がヒールボトルの液体を飲む事により、HPバーが上昇していく。

 徐々に体の感覚が元に戻っていき、痛みが消え失せる。

 上半身を起こし、恐る恐る槍で刺された部位を観察すると、傷が塞がり出血が止まっていた。

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