第五弾 旅の幕開け
この長さなら、前書きを書いても大丈夫と判断したので、余裕があれば記入して行こうかと思います。
俺は肉にターゲットを合わせ、お肉を観察眼で調べた。
【名前:リーネの猪の焼き肉。一級品。品質87。リーネの作った料理、大変美味】
品質の最高値が百だから、凄い高得点だな。
これからも、料理はリーネに任せよう。
「それでは、行きます。ワン、ツゥー、スリー!」
俺がスリーのカウントをしたと同時に、肉を異次元袋に収納した。
突然、目の前から肉が消えた事で、レオナさんは目を見開いている。
「えっ? えっ? えっ!? お肉はどこに消えたんですか!?」
レオナさんは、俺達が予想した通りの反応をした。
キョロキョロと周囲を見渡し、肉を探している。
俺とリーネは、してやったり顔になり、ハイタッチして喜んだ。
「本当にどこにやったんですか! 二人だけ、知っていてズルイですよ。詳しい説明を求めます!」
俺は簡単に説明してマジックの種を明かした。
それを聞いたレオナさんは、頭を抱えて「そんな非常識の事が起こせるなんて…………夢なら覚めて欲しい」と、力なく笑いながら呟いた。
食事を片付け終わる頃には、雨が止んでいた。
辺りは、夜鳥や虫の鳴き声が響き渡り、森深い夜の静けさをしている。
これから早朝まで、ログハウスで休息を取る事が決まり、リーネは俺とレオナさんの計らいにより、ベットで熟睡中。
よっぽど、気を張り詰めていたんだと思う。
ベットに入って数秒で寝息を立て始めた。
それだけ、必死に逃げ延びて来たと受け取れる。
戦闘が可能な、俺とレオナさんで、交代しながら追手に備える様に警戒をする事にした。
初めにレオナさんを休ませ、俺が哨戒の代わりをする。
何事も無く、俺が警戒する時間が終わり、リーネの傍で寝息を立てているレオナさんの肩を叩いた。
「レオナさん。交代の時間です。悪いですが、起きて下さい」
「んっ~~、時間ですか。キッドさん、警戒お疲れ様です。変わりますので、休んでいて下さい」
レオナさんは身を起こし、すぐに意識を覚醒させ、玄関に一番近い椅子に座った。
気配を研ぎ澄ましているのが分かる。
少し、近寄りがたい雰囲気を発していたが、村で起きた出来事を有耶無耶にしている事は、俺には出来ず、レオナさんに問いただした。
「レオナさん。少し、いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「村で起きた出来事を、詳しくお聞かせ願えませんか?」
頭の引き出しを整理するかの如く、考えこむレオナ。
「フゥー」と、ため息を付きながら俺に語った。
「あれは昨日の夜の出来事でした。突如、見張り台のいた仲間の駐屯騎士が、鐘の音を鳴らしたのです。非常事態だと思い、村の入り口まで行くと、ゴブリン達が軍勢を率いて、目前までに迫っていたのです。
今まで襲撃が会ったとしても、多くて二十がいい所でした。けど、昨日の夜に村を襲った奴らは違った。夜中で正確な数は判りませんが、少なくとも五百は存在しました。
私達がいたラッテ村は、人口三百人の中堅の村です。駐屯騎士三十名。戦える村民七十名の計百人で防衛をし、戦局は一進一退で拮抗を呈してました。
あの特殊なゴブリンが来るまでは…………あのゴブリン達は異常です。あんな大軍を率いて村を襲うなんて聞いた事がありません」
矢継ぎ早に話をするが、続ければ続けるほど、レオナさんの表情が曇っていく。
見ていられない。脳が瞬時にそれ感じ取り、気が付けば俺は、レオナさんの傍により、背中を撫でていた。
気が付いた時には、もう遅い。行動を移した後なのだから。
「あ~、こ、これは違うんだ。体が反射的に動いてしまって……」
「ふふっ、優しいですね。リーネ様が、キッドさんに懐くのも分かる気がします。あの子は、少し浮いてる所がありますから」
「ハハッ、確かに。自分の事を僕って言ってますし、まあ、そのギャップが良い味出してますが。では、休ませて貰います」
俺はレオナさんに一礼してから、床に寝転がり、物思いに耽た。
(ここから一日進んだ距離に、リーネの住んでいた村がある訳だ。レオナさんの話を聞く限り、村人の生存は絶望的だろう。
ゴブリンが軍団を編成して攻めて来たらしいし、きっとこの地で、何かが起きてるに違いない)
こんな状況だからか、思考が悪い方向に向いてしまう。
俺は割り切る様に思考を停止させ、睡眠を取る事にした。
その後、ゴブリンに襲撃されることも無く、無事、早朝を迎えることが出来た。
俺は食事をする為、昨日の余り物である猪の焼き肉を、異次元袋から取り出す。
【名前:リーネの猪の焼き肉。一級品。品質87。リーネの作った料理、大変美味】
お皿に乗せた肉は、品質が全く落ちておらず、そのまま口にしても、美味しさと鮮度を保っていた。
三者三様、違う反応をして食事の時を過ごす。
食事を終え、ログハウスから外へ出た。
この場から離れるために。
「キッドさん。リーネ様。ここから東に見えるヘラリス川を目印に、南へ十五キロ程向かった場所にある、シェミル村に向かおうと思いますが、どうでしょう?」
「俺はレオナさんの意見に賛成だ。この世界の事を何も知らないからな」
「僕は、みんなの後をついていくよ。手持ちの武器が無いからさぁ。だから、守ってくれると嬉しいなぁ」
リーネが俺の方をチラチラと覗いてくる。
レオナさんは、それに気づいて空気を読んだのか、我関せずを貫こうとして、こちらを見ようとしない。
「ハァ~、全く、困った妹だ。ちゃんと守ってやるから離れるなよ?」
「い、いもうとぉ!? じゃ、じゃあ、キッドの事は、兄様って呼んでもいいの!?」
「ハアッ!? 兄様!? なんで、様が付くんだ。別に、キッドでいいだろう?」
「キッドは僕の命の恩人なんだから、様を付けないとねっ」
リーネは会話の流れに乗り、俺に近づいて腕に絡みつかせる。
全てを見透かすような青い眼が、俺の視線を捉えた。
「にしし。それでぇ~、キッドにする?兄様にする? ねぇ~、どっちの呼び方がいい?」
「……キッドの方で呼んでくれないか?」
リーネの唇が次第に、アヒル口に変化していく。
この表情は、勝利宣言の顔だ。
「ふ~ん…………キッドの、うそつき! 本当は、兄様って呼んで欲しいんでしょ?」
「なっ!?」
確かに俺は、心の中で兄様もいいなと妄想していた。
だが、レオ姉、兄様と、リーネから言われれば、知らない人からは「家族ですか?」と、聞かれるのは間違いないだろう。
なので俺は、キッドの方を進めたのだが、無駄に終わった。
リーネが、俺に向けて放った満面のスマイルには、勝てそうにない。
レオナさんに助けを求めたが、笑顔で「受け入れて下さい」と、止めを刺された。
「わかった、わかったよ。キッドでも兄様でも、好きなように呼べばいいさ」
「えへへへ。流石は僕の兄様。話が分かるよねぇ」
「リーネ様。良かったですね」
「うん! 兄様。これから妹特権を使って、いっぱい甘えるからよろしくね?」
「甘える前提か!?」
言った傍から、リーネが腕に抱き着きながら、俺の肩に顔を密着させて、猫のようにスリスリしてきた。
俺の腕が完全に、リーネの柔らかい部分が当たってる。
「リーネ。ちょっと引っ付き過ぎじゃないか? 非常に、歩きにくいんだが」
「だめ?」
控えめな胸を押し当てながら、甘え声で攻勢を仕掛けたリーネ。
俺は、これから生きてく上で大変な目に遭いそうなので、これ位の役得はアリかなと結論に達し、されるがままに受け入れる事にした。
心地いいのだから、しょうがない。
「キッドさん。リーネ様の事を、どうかよろしくお願いします」
リーネの従者兼、お目付け役でもあるレオナさんに、頭を深々と下げられてしまい、後戻りする事は不可能に。
こうして、波乱万丈に満ちた、俺の旅が幕を開けた。
ある理由で、少しガクブルしています。
俺の想像通り事が進めば、ヤバイな…………