第十五弾 サンプル体
「初っ端から二人か! 青色って事は、味方だから温厚な人達だよな?」
俺は独り言を言いながら、MAPの青色マークを頼りに「キュロストス森林」を北上していく。
道中にある、癒し草や食べれる果実を見つけては採取したりして、三キロ程進んだ所で違和感を感じ取った。
周囲が異様に静かだ……先程まであった鳥の鳴き声や、虫達の飛び交う姿すら見かけない。
「……何の臭いだ?」
急につんつんと俺の鼻を刺激する臭気。
警戒しながら歩みを進めると、不意に左足がもつれた。
首を下に向けて左足を見てみると、ツタがグルグルと絡まっている! それを脳が理解した時、左足を勢い良く引っ張られ、前詰めりに転倒。
俺は咄嗟に反応し両腕で受け身を取るが、勢いを殺す事はできず思いっきり地面に顔面をぶつけた為、ジンジンとした熱が顔に伝わってきて非常に痛い。と、同時に猛烈な速さで後方に引っ張られていく。
「うおぉぉぉ――――――――!!」
何事だと上半身を捻って見上げると、その三十メートル先の進行方向には、食虫植物もとい、明らかに人をも食べそうな二メートル大の食人植物が、左右、棘付きの口を「ガシン、ガシン」と、奇怪な金属音を出しながら広げ、俺を待ち構えていた。
「――――ぶッ!! 冗談じゃないぞ! 食われてたまるかよ!」
思いも寄らぬ襲撃者に、パニックを起こしながらも、腰に装備したリーネのナイフで五センチ程の、ど太いツタを切り落とす。
簡単には斬れないと思っていたのだが――スパッ! と、簡単にツタが切断された事に驚いた。勢い余った反動で、左足のズボンを切り裂きそうになる。予想とは異なることが更に重なり、心臓がバクバクして心拍が急上昇。
もしリーネが、俺にナイフを渡さなければ、このまま引きずられていたに違いない。
「ジャァァ――――!」
食人植物の十メートル手前でツタを切り落とし後、俺に奇声を浴びせながら、左右から鞭のように弾むツタが伸びて襲い掛かってきた。
後ろ腰にある鞘に、リーネのナイフをしまい、地面を転がりながら、後方にバックステップして立ち上がる。
それと同時に、コルトパイソンを二丁取り出しながら、相手を様子を伺う。
【名前:キメラプラントT-80型。HP742。この世界に存在しない、品種改良された生物兵器。生態系を破壊する植物で、果実や木に止まった鳥すら食べる悪食。毒は持っていないが、口から生えた棘で、鉄すら噛み砕く力あり。階級3】
「っ!? レッドオークより強い!?」
レオナさんに睨まれた時と同クラスの、威圧感を感じる。
そしてこいつは、異世界から顕現されたサンプル体と推測。
想像していた以上の敵に、ソロで遭遇してしまい、俺に焦りが生じる。
その一瞬にキメラプラントは、強靭なツタを右薙ぎに振るい、風を切る音を立てながら俺に目掛けて振りぬく。
かがんでギリギリの所を回避し、髪の毛に嫌な風圧が当たる。
行き場を失ったツタが広葉樹に命中すると、木が振動で揺れ、命中した箇所が歪んでいた。ツタに擦られ木の皮がめくれあがり、ツルツルした表面が姿を現す。
あの攻撃が人体に触れたら、ただじゃ済まされない。
俺は早急に、この場から離脱する事を決めた。
敵前逃亡だが、これは違う。戦略的撤退だ。
撓るツタを避けながら、木々の間をすり抜け、逃走を図る。
「所詮、植物だ。その場から移動できないはず」
背後からは、長縄跳びの紐のような音が「ブォン、ブォン」と耳に刺さる。
一旦、距離を稼ぎ、敵の間合いから抜けた所で反撃しようと考え、五十メートル走り、後ろを振り向く。
だが、俺の戦略は覆される。地面に張っていた、ゴボウみたいな根っこを足代わりにして、追いかけて来たのだ。
愚痴をこぼしながら背を向けて、コルトパイソンを弾倉が空になるまで撃ちまくる。
十二発中、十発命中したが、一割程度しか減っていない。
奴の前方にある、鉄以上の硬度を誇る棘が俺の弾丸をはじき、他の部位に撃ち込んでも、大した効果が無い。どうやら植物には銃が効きにくい様だ。
俺はヒットアンドウェイをしながら、全力で逃げる。
その時、偶然にも茂みに蹲る、大型犬が瞳に映った。
【名前:シェミルドック。HP391。危害を加えなければ襲う事はない賢い犬。数日前まで、この森の頂点に位置していた森の守護者。階級5】
(お腹から血を流しているな……取りあえず、鉢合わせしない様に誘導しないと)
キメラプラントの敵視がそちらに向かないよう、射撃して注意を引き付けていたが、急に立ち止まり体を震わせ、奇妙な行動に出た。
次の瞬間、血の匂いを感じ取ったのか、胴体を左旋回させシェミルドックの方に進軍。
その殺気を嗅ぎ取った大型犬は、その場に立ち上がる。
体長は約、一メートル五十。かなり大きいが、呼吸が乱れていて、随分と苦しそうだ。
「わぉぉ――――――――――ん!」
遠吠えを青空に捧げるように上げ、戦意を奮い立たせる大型犬。
それに呼応するが如く、草むらから「グルルル!」と、姿を見せるシェミルドックが数匹。
驚いた事に、全く気配を読めなかった。
もし、俺が狙われていたら、確実にやられていただろう。
茂みから現れた同族達は、怪我をしたシェミルドックを守る様に、キメラプラントに突撃を開始した。
周囲を取り囲むように、様々な角度から鋭利な爪や牙を突き立てる。
しなるツタを、翻弄するように避け、絶妙なコンビネーションで攻め立てた。
俺も加勢しようとしたが、大型犬に当ててしまう危険性があったので、今の内に怪我をしているシェミルドックに近づく。
流血が止まらす、足がガクガクとしており、今にも座って横になりそうだ。
早速、異次元袋から『ヒールポーション』を取り出し、ガラス製のフタを――ポン! と外し、口元に近づける。
俺に敵意がないと悟ると、目を閉じ、そのままの状態を保ってくれていたので、遠慮なく『ヒールポーション』の液体を、口の中に注ぎ込む。
徐々に回復していき、お腹の傷が塞がったのか出血が止まり、それにおおじてHPバーも上昇を開始する。
三割ほどだったHPが、五.五割程まで回復したので『ヒールポーション』一本につき、約百ほど回復する効果がある事が判明した。
体力が回復した為、その場に立ち上がり、仲間たちに向かって元気な声音で吠え叫ぶ。
それを耳にした同胞は、一目散に俺の所にやってくる。
敵対していたキメラプラントに視線を移すと、遭遇した時とは打って変わって怠慢で勢いが無く、その姿は水分が足りない植物の様にボロボロだ。
千切れた箇所から、緑色の水分が流失しており、斬撃に弱いと理解できた。
HPを見ても後、一割も満たないくらいに減少しているし、何もしなくても枯れ果てるだろう。
だが、もしも生き残った時の事を考えれば、ここで確実に引導を渡さないといけない。
今ならシェミルドックに当てる心配は無いので、躊躇なくトリガーを引き、キメラプラントを消滅させた。
脅威的存在が消え、この場に安心感が生まれる。
俺の周囲にいるシェミルドックは全部で七匹。
その七匹が尻尾を振りながら、一斉に仰向けになった。
この行為は服従の証と言われているのだが、ここ最近では違うのではないか? と、にわかに騒がれている。
が、俺は気にすることなく、お腹を撫でまわすスキンシップを開始。
犬達もまんざらではなく、撫でまわしが終わった個体から、俺に体を擦りつけてきた。
「ちょっ、お前。想像以上に押す力が強いな。もう少し弱めてくれると助かるんだけど」
「わふぅ」
返事を返すと俺の意見を理解したのか、擦りつける圧力を弱めてくれた。
思ったより賢いワンコだと認識し接する。
こうして全ての大型犬とのスキンシップを終えた所で、MAP上に映る青いマークを見ると。
「あれ? 目と鼻の先にいる?」
五分前には、北に三キロの地点を示していたのだが、今の位置は、キメラプラントがいた二十五メートル手前付近を示している。――――――何もいない? ……様に見えたのは気のせいだった!




