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6・運命の出会い

 リリス・ノーティラス。

 公式設定では十五歳の可愛らしい女の子である。

 外見的特徴としては、長めの髪を後ろで一括りにしている。童顔でそのことを指摘すると「わたしは子どもじゃありませーん!」と怒る。ぷにぷにとしたほっぺを触ったら、最初至福の表情を浮かべるが、しばらくするとやっぱり怒る。歩く度に揺れる大きな胸は、「もしかしたら必敗勇者のスタッフはここの処理に全力を注いだのではないか?」と言われる程、見事なものである……といったところか。

 ゲーム時では一番最初に冒険者ギルドに訪れた時。彼女が現れ、ギルド職員に代わって詳しく説明もしてくれる。

 さらにはプレイヤーがギルドに慣れるまで——謂わばお助けキャラとして、クエストに同伴してくれるのだ。

 リリスは両親を亡くしてから、自分一人の力で生きていくため冒険者となったわけだが、プレイヤーよりも基本的にレベルが大分高い。

 普通、プレイヤーが最初ギルドに訪れる時のレベルが1……いくら良くても3くらいに収まるのに対して、リリスのレベルはなんと20。

 さらにクエストランクも頼もしくEランク。

 ダンジョンでも先んじてモンスターに襲いかかり、先制攻撃をくらわしダメージを与えてくれる。

 冒険者の先輩としてクエストに同伴してくれる彼女がいれば、モンスターにやられてゲームオーバー……という事態にはまず陥らない。

 スタッフとしてはリリスをチュートリアル的なキャラとして位置づけたかったのだろう。

 そして——プレイヤーが一人前になった時。

 とある問いに「はい」と答えることによって、仲間パーティーに加えられる。

 リリスはレベルも上がりやすいことから、スタッフとしては——初心者向けの仲間キャラ、にしたかったんだろうなという思惑が見て取れる。

 しかし彼女は(おそらく)スタッフの思惑通りのキャラとはならなかった。

 リリスが初心者向けの仲間キャラ、と位置づけられながらも『初心者にはお勧めしない』キャラとも同時に言われる理由。

 どうして噛ませ犬と呼ばれるのか。

 それについてはプレイヤーがストーリーを進め、自分のレベルも上がり始めた頃に判明するであろう——。



「へへへへ、変態ですねっ! わたしの唇を奪うなんて!」


「お前が慌てて出ようとしたから問題だったんだろうが。冤罪だ」


「は、初めてだったのに……」


 リリスが唇に手を当てて呆然としている。

 初めて?

 そんなの——俺も同じだし、どうして大事なファーストキスをこいつに捧げなくちゃいけないんだ。

 いやこれはキスじゃない!

 自分に言い聞かせるように、リリスの肩に手を置いて、


「リリス……これはキスじゃないんだ。不可抗力の事故。キスってのは、もっとお互いの気持ちが通じ合った状態でするのが普通だろ?」


「事故?」


「そう交通事故みたいなもんだ」


 この世界で『交通事故』という単語があるのかは分からないが。

 するとリリスは納得したようにポンと手を叩き、


「そうですね! これは事故……事故。キスじゃないんだ。でもよく見るとカッコ良かったし——こういうキスもありかなって」


 一頻り頷いている。

 ——忘れていた。

 そういえばゲーム時にも、ギルドに入ろうとしたらリリスが慌てて出てきて、こんなイベントが起こったような。

 だが唇の柔らかい感触ではゲームでは得られないものであった。


「そういえば」


 思い出したように、リリスは俺と向かい合って、


「どうしてわたしの名前を知っているんですか?」



 この世界は実はゲーム……もしくはゲームを元にして作られた世界……だか、何だか知らないが、ゲームの時にリリスとは出逢い、君はプレイヤーの中で噛ませ犬と呼ばれて有名だったんだ。だから俺がリリスの名前を知っていても可笑しくないだろ?

 なんて説明は出来ないから、適当に誤魔化しておいた。

 具体的にはこうだ。


「君みたいな有名な冒険者。知らない方が可笑しいだろ? 凄腕の冒険者としてリリス・ノーティラスの名は有名なんだぜ〜」


「ふふん。それもそうですね。わたしもそんなに有名になりましたか」


 と得意気にリリスが鼻を鳴らした。

 何というか……チョロい。

 しかし話が早く進んで好ましい。


「あなたの名前はなんていうんですか?」


「俺の名前は覚えてもらわなくていい。じゃあ——また」


「あっ、新しく帝国にやってきた冒険者志望の人でしょ! わたしが見たことない顔ですし……。

 仕方ないですね! 冒険者登録をわたしが付き合ってあげますよ!」


 逃げようとする俺の首根っこを掴まれ、ギルドの受付まで連れて行かれた。


「すいませーん! 新しい冒険者志望の人なんですけど!」


 人の話をろくに聞かず、勝手に行為を振りまくのもリリスの特徴である。

 カウンター越しにギルド職員のお姉さんがやって来て、


「新しい……冒険者の人ですか。何か身分を証明出来るものを持っていますか?」


「いや、そんなもんは——」


 ゲームの時にはそんなこと言われなかったぞ。

 慌て——すぐにとあることを思い出して、アイテムポーチからそれを取り出す。


「これじゃあダメですか?」


「それはオルティア様直筆の入国許可証! 失礼しました! オルティア様の紹介なんですね」


 ギルド職員が深々とお辞儀をする。

 どうやらギルドにおいても、オルティアの名は効果的らしい。


「それで……冒険者登録をしたいんですよね?」


 訊ねられる。

 リリスが横で「ふふん。内気な少年をまた一人救っちゃいました!」みたいな顔をして癪に触るので、「いや、間に合ってますんで」と断りたいが、実際問題。冒険者登録を済ませておきたいのも事実だ。

 繰り返すが、必敗勇者はクエストをこなすことによって、冒険者としてのランクを上げていきストーリーを進めることになる。

 俺の目的を達成するためにも、冒険者になることは必須のイベントだからだ。

 だから、


「あっ、はい。お願い出来ますか?」


 ここは話に乗っておこう。


「じゃあ冒険者ギルドの説明ですが……」


「いえ! 大丈夫です。冒険者ギルドについては詳しく知っていますので!」


 ゲーム時のギルド職員は饒舌で、ギルドの説明を始めるとなかなか終わらなかった。

『冒険者ギルドの説明を受けますか?』

 という問いを誤って、

『はい』

 と答えてしまったら、そこから十五分くらい延々と聞かされることになるのだ。


「そうですか……」


 何故かションボリとするギルド職員。

 冒険者ギルドの詳しい内容はこうだ。


・クエストとして様々な依頼が届けられる。登録済みの冒険者はクエストランクに従って、クエストを受注することが出来る。

・クエストを成功した場合、それに応じた報酬とクエストポイントを入手することが出来る。

・クエストポイントを溜めることによってクエストランクを上げることが出来る。クエストランクは『G〜A、S、SS』の九段階に分かれている。


 つまりGランクの冒険者はGランクのクエストしか。CランクならばCランクを含めたそれより下位のクエストを受けられることが出来るのだ。

 といったところで、プレイヤーはひとまずSSランクの冒険者を目指すことになる。

 ……といってもSSランクを達成する人なんて、魔王を倒したプレイヤーでもなかなかいないが。


「名前は……アキト・カグラさんですね。アキトさんはご新規さんなのでまずはGランクから始めてもらいます」


 ここまでテンプレ通りのギルド職員の説明。


「ふふん。じゃあ早速、クエストを受けてみましょうか! 安心してください。Gランクのクエストは簡単ですし、わたしも付いていきますから!」


 出来ればリリスには付いてきて欲しくない。

 というか金輪際、俺と関わらないで欲しい。

 しかし……たった一度だけで良い。たった一度だけ、リリスを仲間パーティーにしてクエストを受注したいので、


「ああ。よろしく頼むよ」


 とリリスの申し出を受け入れる。

 リリスはパアッと花が咲いたような笑みを浮かべ、


「はい! わたしに任せてください!」


 勇ましく胸を叩いた。

 ……いやお前には任せたくないんだがな。


「じゃあ——どうします? Gランクのクエストはこれだけしかないのですが」


「いや、そのGランクのクエストはいらない」


 ギルド職員が差し出してきた紙を無視して、壁に貼ってある紙を取って渡した。


「アキトさん……それ。二段階上のEランクのクエストですよ?」


 ——『秘宝の洞窟』クエスト——。

 これが現時点で受けられる最高難度のクエストであった。

 リリスの顔が引きつっていた。


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