5・ヒロイン登場!
それから一時間程歩いて、ハビエル帝国に到着した。
途中で出逢ったスライムを倒しながら歩いていると、レベルも40を突破した。
「意外に歩いたな……」
ゲームではイナーク村からハビエル帝国まで約十分。
それなのにここでは一時間かかったということは……ゲームにおいては、一時間ずっと歩いていたらプレイヤーを飽きさせてしまうので短縮されるが、ここでは現実的な距離と時間に変換される、ということなのか。
ゲームの時には感じられなかった乳酸が溜まっていくのも実感出来る。
こうしていると、ここがゲームの世界ではなく、あくまでゲームによく似た異世界であることが分かる。
ハビエル帝国は高い城壁に取り囲まれている都である。
唯一の入り口である高い門に近付くと、
「止まれ!」
と門衛らしき男に声をかけられた。
「えーっと、どんなご用ですか? ハビエル帝国に入りたいんだけど……」
「それはこっちの台詞だ! 怪しいヤツが簡単に入国出来るわけないだろう」
二人の門衛から放たれる剣呑な雰囲気。
今にもその手に持っている槍で襲いかかってきそうだ。
(さて……困ったな)
ゲームではオルティアの騎士団と一緒に入国出来るので、こんなイベントなど用意されていなかった。
これが負けイベント台無しにした代償というヤツなのか。
「どうしても入国出来ませんか? オルティアさんに呼ばれんですけど」
「嘘を吐くな! オルティア様がお前のような小僧を訳もなく呼ぶわけないだろう」
「一応、これでもキングタイガーっていうモンスターを倒したんだけど」
「お前が? ハハハ! 笑わせるな」
本当は倒したわけではなく、退けただけなんだけど。
二人の門衛はお互いの顔を見て、高らかに笑った。
「キングタイガーはレベル100を超えている有名なモンスターだ。子どもが倒せるわけがないだろう!」
怒鳴り声。
うーん……困った。
このままイナーク村に引き返すか?
いやあのままイナーク村にいても、田んぼを耕して牛を愛でるような生活しか享受出来ないだろう。
この世界の情報を得るためにも、冒険者ギルドもある帝国に入らなければ……、
「あっ」
そこで思い出す。
アイテムポーチに手を突っ込み、一枚のカードのようなものを取り出す。
「これダメかな? オルティアさんから貰ったんだけど」
——それはオルティアから貰った帝国の入国許可証であった。
門衛は訝しむような視線で許可証を取り上げて、ジロジロと見る。
「こ、これは!」
すると——すぐに背筋をピーンと伸ばし、
「オルティア様の署名が入っている入国許可証!
し、失礼しました! オルティア様に呼ばれているっていうのは本当のことだったんですね!」
どうやら、オルティアの名前は超効果的だったらしい。
「いやいや……こっちも無茶なこと言ってごめんなさい」
「どうぞお入り下さい!」
そんなに畏まらなくてもいいのに。
誤解も解けたところで、帝国の大きな門が開かれる。
門衛は半身になって手を出して、こう言った。
「ようこそ! ハビエル帝国へ!」
ハビエル帝国。
ゲームをクリアしていく上で必要となる施設がいくつもあり、必敗勇者ではここを拠点にプレイヤーは冒険していくであろう。
街並みとしては中世ヨーロッパ辺りをイメージしているらしい。
イナーク村とは違い、擦れ違う人々も何処か洗練されていて、心なしか早足なような気もする。
統一感のある街並みで、まるで絵画の中の都市を思わせる。
入り口からでもハビエル城が見え、時計塔が鐘の音を鳴らす。
「す、すっげぇ……」
ゲーム時には何度もハビエルに訪れた。
しかしゲームの時とは明らかに違う感動。
プログラミングされていない、人と人が紡ぎ出す空気のようなものを肌で感じる。
だから思わず言葉を溢してしまう。
「さて、まずは何処に向かおうか……」
ハビエル帝国にはいくつもの施設がある。
まずはハビエル城。
ここにはハビエル王がいて、一流の冒険者となった時初めてハビエル城に呼び出されることになる。そこでいくつかのイベントをこなすことによって、王から飛空艇を貰い、普通では行けないようなダンジョンに足を踏み入れることが出来るのだ。
武器や防具、アクセサリー屋といった店はプレイヤーの進み具合によって、どんどんと上質のアイテムが入荷されていく。
さらにハビエルにはカジノもあり、運が良ければ一攫千金を狙うことも可能であろう。
そして何よりも……、
「やっぱギルドだよな」
冒険者ギルド——。
ここで冒険者として登録することによって、クエスト——つまり依頼を受けることが出来る。
クエストをこなすことにより、ストーリーが進められていく。ハビエル城に呼び出されるためにも、ここで一流の冒険者を目指さなければならない。
つまり必敗勇者をクリアするにあたって、避けては通れない道。
「金も欲しいし、まずはギルドに行くことにしようか」
俺のその判断は間違ったものではないだろう。
しかし……何か忘れているような?
ギルドに行くと、面倒臭いことが待ち受けていたような——、
「まあ忘れるってことは大したことないんだろ」
この時の俺。
そんな呑気に構えていた。
ハビエル城には至らないが、それでも帝国の中で一際大きな建物。
「場所も同じだったか」
安堵の息を吐く。
街自体もゲーム時よりも拡大されているように感じられる。
しかし冒険者ギルドの場所は基本的には相違なく、迷わずに到着することが出来た。
「じゃあ早速入るとするか」
扉に手を当てて、中に入ろうとする。
それにしても——。
何だろう。
この違和感。
何か大事なことを忘れているような。
出来れば、回避したいイベントが待ち構えていたような。
ぐっと力を込めて、扉を押そうとすると——、
「行ってきまーす!」
それよりも早く、扉が開かれ中から女の子が出てくる。
「おっ?」
活発な元気な声。
その女の子を後ろを向きながら、走るものだから前にいた俺と額をぶつけてしまう。
(いたたた……)
女の子と一緒に転倒してしまう。
後頭部の鈍い痛みを感じながら、ゆっくりと目を開ける。
(——っ!)
そこには超至近距離で女の子の顔があった。
すぐに言葉を発しようとするが、口を開くことが出来ない。
それも無理はない——。
だって俺の口は——、
「ってぇぇええええ! わ、わたしのファーストキスがー!」
彼女の口によって塞がれていたのだから——。
女の子がすぐさま顔を真っ赤にしながら離す。
——俺は彼女の名前を知っている。
彼女の名はリリス・ノーティラス。
必敗勇者において『勝手に負けイベントを量産する女の子』『初心者には難しい初心者向け仲間キャラ』『リリスの罠』『リリス縛り』『大口叩き』——数々の異名は存在しているが、彼女のことを表現するには一言だけでいい。
噛ませ犬——と。
リリスは俺の腹に乗っかったまま、顔の前で手をバタバタとさせていた。