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エピローグ

『メイク・インフィニティ・ブレイズ』


 後に必敗勇者とも呼ばれたVRRPGゲームである。

 そんなゲームのスタッフにとある記者がこのような質問をしたことがある。


「どうしてこんなに負けイベントを作ったんですか?」


 と。


 それに対してスタッフの返答は三者三様。

 他のゲームとの差別化。シナリオライターの失恋の影響。物語に深みを持たせたかったため。

 ただその中で一人のスタッフが残した言葉が強く印象に残っている。


「負けることが悪いのではない。諦めることが悪いのだ」


 それはありきたりな言葉だったかもしれない。

 そもそも負けイベントなんだから、諦めるとか諦めないとか関係ないじゃないか。

 当時の記者はそう思っていた。


 ——必敗勇者が発売されたから十年後。


 ロングセラーとなり、長く愛されることとなった必敗勇者。

 そんな必敗勇者の世界で負けイベントを台無しにした後のイベントが多く発見された。

 未だに必敗勇者はアップロードを続け、進化をしている。


  ◆


「……キト……ん。アキト……ん」


 近くで声が聞こえる。

 意識が戻り、俺はゆっくりと瞼を開けた。


「アキトさん!」


 とある人物の顔が俺を覗き込んでいた。


「アキトさん! 目が覚めましたか!」


 そう言って、抱きついてきたのはリリスであった。

 混乱している頭で現状を確認する。


(ここは……帝国の宿屋?)


 いつもリリスと二人で泊まっていた宿屋のベッドだ。

 どうやら俺はそこで寝ている状態となっているらしい。

 そして今、俺の体にはリリスが抱きついている。


(どういうことだ……? 俺は魔王を倒して、強制ログアウトになったんじゃないか?)


 ——少しずつ記憶が修復されていく。

 そう。俺達は魔王城に辿り着き、魔王を打倒したはずであったのだ。

 しかし……俺の剣が魔王に届こうかとする時。目の前に光が覆って、意識が消えていった。

 ……というところまでは覚えているが?


「リリス。魔王は? 魔王はどうなったんだ?」


 リリスの体を離し、そう尋ねる。

 リリスは瞳に浮かんだ涙を拭い、嬉しそうな声で、


「魔王は……魔王はアキトさんが倒してくれましたよ! でも……アキトさん。気を失っちゃって、崩壊していく魔王城の中を石化状態から治ったイヴとオルティアさん——そしてアキトさんを一緒に脱出して……それで、やっと! アキトさん。目を覚ましてくれたんじゃないですか」


「どういうことだ?」


 口から疑問の声が漏れる。

 リリスの飛び跳ねるような声を無視して、俺は顎に手を当てて思考している。


 そう——始まりは必敗勇者のアップロードであった。

 アップロードの内容は『強くてニューゲーム』と『新イベント』の追加であり、俺は『強くてニューゲーム』を選択して……、


「も、もしかして!」


 ベッドから立ち上がる。



 ——『新イベント』の追加って周回イベントのことだったんじゃないか?



 思い出してみろ。

 必敗勇者は魔王を倒した後の世界……つまり周回イベントの要素がなくて、魔王を倒せば強制ログアウトにされてしまう。

 プレイヤー達はそのことが不満で、周回イベントの追加を訴えかけていたが……、


「も、もしかして! 強制ログアウトはなくなった? だから俺は元の世界に帰れないっ?」


 愕然とし両手両膝を床に着ける俺。

 ……何ということだ。魔王を倒したものの元の世界に帰れる算段がなくなってしまった。


「アキトさん?」


 そんな俺の背中をポンと叩くリリス。


「アキトさん? 何を言っているか分かりませんが……やっと! これで平和になりましたね。全てアキトさんのおかげです」


 顔を上げると、そこにはリリスの顔があった。

 ——ああ、俺は魔王を倒したんだな。

 初めて感慨が湧いてくる。


「そうだな……リリス。でも俺一人の力じゃない。お前もよく頑張ってくれた」


「アキトさん」


 見つめ合う二人。


 まるで引力が働いているかのように、徐々に唇が接近していく。

 甘い香りが鼻梁をくすぐる。


 やがて貪るようにして唇を重ね合わせ——、


「変態勇者! 元気だったか。死んでないよな?」


「アキト。魔王を倒した功績を称えたい、と王様から直々に指名がきてい——」


 寸前。

 ノックもなしに扉が開けられ、外から二人の人物が中に入ってくる。


「イヴ……オルティア……」


 リリスの肩を掴んだまま、顔だけを二人の方へ向ける。

 ……三人とも硬直。

 やがてイヴとオルティアの口から絶叫が。


「変態ぃぃぃいいいいいい!」


「リ、リリスに何をしようとしているんだ! もしや、強引に唇を奪おうとっ?」


 やばい!


 こいつ等、勘違いしてやがる!

 イヴの足元に魔法陣が出現する!

 オルティアが鞘から剣を抜きやがった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! これは誤解だ」


「「問答無用—!」」


 襲いかかる二人を見るなり、俺は窓に手をかけ外へと脱出した。


 ちくしょー!


 こんな生活がまだまだ続いていくのかよ!

 だが、そんな生活を心の何処かで喜んでいたり。


 その前に!

 まずは二人の美少女から逃げる、という負けイベントを台無しにしなくては!


というわけで負けイベント完結です!

今まで読んで頂いた方、ブックマークをしてくれた方、評価などなどしてくれた方、ありがとうございました!


次作、「異世界最速のシーフ 〜素早さが高いだけの不遇ジョブでも勇者に勝てます〜」

を新しく投稿させていただきましたので、そちらの方もよろしくお願いします。

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