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38・異次元

 ワープしていく最中——。

 それは空を飛ぶ夢を見ているような不思議な感覚であった。

 体がなく、意識だけが存在しているような。


(今まで色々なことがあったな……)


 そのせいで否応がなしに今までのことが思い出される。

 リリス——イヴ——オルティア。

 短い間ではあったが、俺に付いてきてくれた仲間達。


(魔王を倒せば元の世界に戻れる……)


 元の世界。

 日本で普通の高校に通って、普通に生活をする。

 退屈な日々を消費していく。

 部活もアルバイトもしておらず、だからといって勉強もそこそこ。

 帰ってゲームの世界に入り浸る。それだけが唯一の楽しみであった。


(何だかんだで楽しかったよな?)


 必敗勇者の異世界。

 リリスを筆頭に美少女に囲まれ楽しい日々を過ごしていく。

 たまにラッキースケベ的な出来事もあり、チートスキルのおかげで命の危機に晒されることもない。


 まさに理想郷。

 故にこんな考えが思い浮かぶ。


 ——俺は本当に元の世界に戻りたいのか?


 義務的に『元の世界に戻らなければならない』と思っているだけなのかもしれない。

 実はこの世界でずっと生きていたい?

 そんな疑問に答えることが出来ない。


(俺は……俺は……俺は……!)


 仲間が増えていくごとに、そんな想いも強くなってきた。

 そしてとうとう魔王を前にしようとしている。

 決着を付けなければならない。


 魔王と?

 勿論、それも大事だ。

 しかしここで言う決着とは『本当の気持ち』。

 先延ばしにしてきた命題に答えなくてならないのかもしれない。


(俺は——)


 導き出した答えが提示されようとした瞬間。

 目映い光が現れ、意識が浮上していく——。


  ◆


 視界が元に戻ると、そこはゲーム時と同じような異次元が広がっていた。

 異次元はぐにゃぐにゃの風景——黒と赤の絵の具を混ぜたような風景だ——に巨大な岩が浮かんでいるような形である。

 その岩は地形となり、道となって魔王のところまで続いていく。


「ふわぁ……なんだか精神的に不安定になるところです」


「変態勇者! 変なところに連れてきたわけじゃないよな?」


「面白いな。強いモンスターの気配が肌でピリピリと感じ取るぞ」


 不安や緊張、様々な感情を顔に浮かばせる。

 だが、三人共戦意は失っていない。

 普通の人間ならこの禍々しい光景を見るだけで逃げ出したくなるだろう。

 俺はそんな三人に頼もしささえも感じながら、


「よし! いざ魔王へ!」


 元気よく先頭を歩き出す。

 ……といっても、異次元にやってきたからといってすぐに魔王に遭遇出来るわけではない。

 ザコモンスターを蹴散らしながら、進んでいなければならないのだ。


「ファイアーボール!」


 現れたモンスターに対してイヴが魔法を使う。


「くらえ! 大地滅殺剣だいちめっさつけん!」


 オルティアが剣を振るい、モンスターをなぎ倒していく。


「ふん! 頼もしい仲間達だ。次元断絶剣!」


 勿論、率先して俺も奥義を繰り出していく。

 飛んでいるモンスターを遠距離攻撃で倒す。


「アキトさん! ここはわたしに任せてください!」


 そしてリリスが勝手にモンスターの前に躍り出る!

 しかも寄りにもよって、リリスが戦おうと拳を振り上げたモンスターは魔法少女キリディウス!

 レベル130の元人間のモンスターでリリスが敵う相手でもない。


「フレイム!」「ポイズン!」


 首が存在しない人型のモンスター。

 黒塗りの杖を振り上げ、魔法を発動させる。


「次元断絶剣!」


 すぐさま追いつき、キリディウスを一発で粉砕する。

 危なかった……二撃目で強力な魔法をくらえば、リリスなんて瞬殺だったぞ。


「アキトさん……体が苦しいです。そして熱いですぅ」


「はいはい。すぐに治してやっから安心しろ」


 地面に蹲っているリリスに対し、予め購入しておいた万能薬をぶちまける。


「ふう……死ぬかと思いました」


「これに懲りたら、後ろで見学してろ。マジで」


「何を言っているんですか! わたしだって、アキトさんのパーティーですよ。わたしだけ安全圏でぬくぬくと見ているだけにはいかないのです」


「……そうか。ありがとう」


 今までの俺だったら「何もしないのが一番なんだよ!」とツッコミを入れていたが、今回はしない。

 リリスの責任感に愛らしささえも感じていた。


「状態異常魔法で良かったな……本当」


 必敗勇者においては、状態異常は二つまでなら並立する。

 リリスにかけられたのは『火傷』『毒』状態にする魔法である。

 この二つはどちらも時間が経過するごとに、自動的にHPが減少していく。


 ちなみに他の状態異常はお馴染みの『石化』状態、『麻痺』『混乱』状態が存在する。

 勿論、『死亡』状態もな。これになってしまえば、生還の神殿に行かなければ治らない。


「それにしても、ホントみんな頼もしくなったよな」


 俺一人だけが頑張らなくても大丈夫。

 剣の達人オルティア。魔法遣いイヴ……そして噛ませ犬リリスがいるんだからな!

 一人で戦っているわけではなく、みんなで戦うような一体感。


「そろそろ着くぞ」


 魔王に近付くごとに嬉しくなっていくはずであった。

 だが……どうしてだ?

 今の俺は寂しささえも感じ始めている。


 いやこれは気の迷いだ。

 俺は絶対に元の世界に戻るんだ!

 迷いを振り切るように、戦いに没頭していく。

 そして時間が曖昧になっていく感覚を抱き始めたところで、


『ヨク来たナ。勇者——アキトよ』


 機械音声のような不快な音。

 見上げると、黒いマントを羽織った魔王の姿があった。

 とうとう俺は魔王の元まで辿り着いたのだ。


次話、とうとう魔王戦です

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