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31・生還の神殿攻略

 平原を歩き、一時間程かけて生還の神殿へ到着した。


「まさか俺がここに来るとはな……」


 イベントの内容を知ってたが故、わざわざこの神殿に近寄ろうしてこなかった。

 時間を無駄にするだけだしな。


「アキトさん? 入り口がないようですが」


 おでこに手の平を置いて、辺りを見回す仕草を見せるリリス。

 やって来た神殿は真っ平らな地面で、リリスの言うとおり何処にも出入り口らしきものは見当たらない。

 あるとするならば、地面から生えている四つの杖のような物体だ。

 先端には紫色に宝珠が付いており、怪しげに光っている。


「みんな——ここに手を置いてくれ」


 掲示板で読んだイベントの内容を思い出しながら、みんなに指示を与えていく。

 丁度、四角形の角に生えているようになっている四つの杖。

 右回りで俺とオルティアが対極側。もう一方はリリスとイヴが顔を合わせるような形となる。


「良いか……いっせのーで! でみんな一斉に魔力を込めるぞ」


 四人全員が右手で先端の宝珠を持つ。

 砂を含んだ風が通りすぎる。

 これからの未来を予測しているかのように、空には暗澹とした曇り空が広がっていた。


「……いっせのーで!」


 魔法を使う必要はない。

 体の中にある水分を外に放出するようなイメージだ。

 魔力を体外、つまり宝珠の一点に込める。

 すると——何と四つの宝珠が四人の体を包み込むように、光を増していくではないか!


「ア、アキトさん。何だか怖いです」


「変態勇者! ボクを騙そうとしているんじゃないな」


「不思議な光だな……」


 唯一、修羅場を何度も潜り抜けてきたであろうオルティアだけが冷静に光を見つめる。

 リリスとイヴは狼狽しながらも、杖から手を離そうとしなかった。


「始まったか!」


 ゴゴゴ——。

 そんな音が地面——いやその下から聞こえる。

 やがて地面にヒビが入り、そのまま分断するようにパックリと割れる。


「こ、これは何ですかアキトさん!」


 リリスの左手がオルティアの手を握っている。


 ——そう、これこそが生還の神殿。初っ端のパーティー分断イベントである。

 今、リリスとオルティア。そして俺とイヴの二つのパーティーに分かれるように、地面が断絶されている。

 今のところまだ崖の距離は短く、ひょいっとジャンプすれば越えられるように思える。

 しかしまだ神殿の入り口は完全に開ききっていない。

 魔力を込めている杖から手を離してしまえば、途中で動きが停止してしまい、二度と開かなくなってしまうのだ。


 震える地面。

 立ってられなくなり、しゃがみながらも右手は宝珠から離れないようにする。


「心配するな! これが神殿の入り口なんだ」


 リリスとイヴを落ち着かせるようにして声を出す。

 やがて割れた地面が沈没し、崩壊してしまう。


「オルティア! リリスを任せたぞ」


「心得た!」


 落下する寸前。

 俺はリリスを抱えるオルティアを見て、そう指示を出した。

 体がふわっと浮き上がる感覚。

 足を付ける地面が完全に消滅し、体が落下を始める寸前。


「じゃあ! 後でまた会おう!」


 こうして——リリスとオルティア。そして俺とイヴにパーティーが分断されたのである。



「いたたた……」


 頭上から声が降ってきた。

 すぐに上半身を起こそうとするが、顔を誰かに押さえつけられて身動きが取れない。

 これは何だろうか……。

 目の前が真っ暗なので分からないが、柔らかくそして嗅いだことのない匂いなのだが……、


「って変態勇者っ?」


 慌てたような声。

 そして押さえつけていた『何か』が顔から離れ、視界に光が戻る。


「早速、変態な真似をしたな! 変態勇者は変態だ!」


「ぐおぉっ!」


 顔をサッカーボールの要領で蹴られ、地面に何度かバウンドしながら壁に当たって停止する。

 何が何だか分からない。

 まあ無駄にレベルが高いので、ダメージは殆どないが……。

 頬を押さえ、手で地面を押して立ち上がる。


「何しやがるんだ! イヴ」


「うるさいうるさいうるさい!」


 ——イヴは何やら怒っているようで、腕を組んでぷいっと視線を逸らす。


(訳が分からん)


 それにしても、顔を押さえつけていたものは何だったのだろうか……。

 疑問を感じながらも、ここが生還の神殿であることを思い出し、辺りを見渡す。

 そこは古代遺跡のような場所であった。

 すぐ目の前には二つの分かれ道。帝国の近くに地下迷宮ってあっただろ。そこと造りは似ている。


「じゃあさっさと行くぞ。イヴ」


 そう話しかけても、答えは返ってこない。

 俺は溜息を吐いて、攻略サイトの記憶を頼りに歩き出すことにした。


 ……生還の神殿は迷路のように入り組んでいる。

 ゲーム時は存在自体は知っていたものの、訪れたことはなかったので、何度か道を間違え行き止まりにぶち当たりながらも、少しずつ前に進んでいく。

 その途中で神殿を守るモンスターにも遭遇するが……、


「ってイヴ! お前も戦いやがれよ!」


 石造りの巨人。ゴーレムをロングソードで無理矢理斬りつけながら、イヴの方を振り返った。

 最初からイヴは戦うつもりがないのか、自分の爪を見て戦闘に参加しようとしてこない。

 このままではイヴに経験値が入らないではないか。


「リリスと反対かよ……」


 まあ弱いくせに邪魔をしないだけマシと言えるが。

 神殿内部では終始会話がないままの攻略となった。


「…………」

「…………」


 沈黙は気まずくない。ぼっちにとって沈黙とは心地の良いものだからだ。

 だが、この異世界でパーティーを作り、だんだんとぼっち属性がなくなっているためか。

 沈黙が心の重荷となり、後ろから付いてくるイヴに対して自然と口を開いていた。


「弟さんのこと。まだ吹っ切れないのか?」


 尋ねると、相変わらずイヴは不機嫌そうに、


「いや——もう吹っ切れたつもりだ。というより吹っ切らなければいけないものだと思っている」


 俺が心配していても仕方がない程にイヴは強い子だ。

 弟の死を受け入れ、前に進もうとしているのだ。

 しかし——いやだからこそ、見ないふりをしている申し訳なさもあって、イヴの前に魅惑の選択肢を提示する。


「俺はここでミガンテを甦らせようとしている」


「…………」


「それは譲らないつもりだ。俺は魔王を倒す——だけどもし弟さん」


「その先は言うな」


 ぴしゃり、と突っぱねるような言い方。

 気付けば歩みが止まっていた。


「その先は言うな……ボクだって考えたさ。適当なヤツを誑かしてパーティーを組んでここに来ようとしたが、そもそものボクのレベルが低すぎてクリア出来ない。だからお前と一緒に来る以外方法がなかって、何とかして弟を——しようとしたが、それは何か違うんだ。何か違う。そんなことをしても、きっと弟は喜んでくれないと思ったというか……」


 イヴなりに悩んでいるのだ。

 オルティアに諭され、最悪の精神状態から脱したものの、彼女の中でまだ葛藤が残っている。

 そのことについて、まだ彼女と付き合いも浅い俺が口を挟める問題もないだろう。


「そっか……」


 だからそう言って、話を切り上げ歩みを再開する。

 それが俺に出来る精一杯の優しさだったから。


「着いたぞ」


 やがて俺達が辿り着いた場所は、異質な開けた場所であった。


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