2・即死無効
「グゴォォォオオオ!」
半ば狂っているように、キングタイガーはデスアックスを連射する。
「どうした! お前の力はそんもんか!」
邪悪な光を放ち、何発も浴びせられる斧の一撃。
しかしデスアックスが直撃しても、ちょっと押されたくらいの感覚しかなく、即死どころか痛みさえも感じなかった。
「ど、どうしてだ! どうして我がデスアックスの一撃を耐える」
「ほらほら! もっとデスアックスをくらせてみろよ」
挑発しながらも、内心ビクビクしていた。
それもそうだ——。
ゲームの通りならば、いくらチートスキルを所持しているとはいえ、俺のレベルはたった1。
デスアックスがダメージではなく、即死属性を持っているだけのチート奥義だからこそ助かった。
(多分……これ、普通に攻撃されていたら死ぬよな……)
そう。
キングタイガーは即死属性の攻撃もあることながら、高い攻撃力を誇る化物である。
【即死無効】のスキルがあるからこそ、デスアックスには耐えられる。
反対に——即死属性も何もない、普通の攻撃をされれば一発でHPを〇にされて死んでしまう。
「はあはあ……どういうことだ」
奥義はSPを消費する。
流石にデスアックスを連発しすぎたのか。
肩で息をし、斧をおろして中断させる。
「このままではSP切れになってしまう……デスアックスではなく、普通の攻撃を」
「何を言っているんだ、この腰抜け! デスアックスはお前の切り札じゃなかったのか!
切り札でも俺はやられなかったんだぞ? 今更、普通の攻撃が効くと思っているのか」
「グヌヌ……」
ぐうの音も出ない、といった感じで閉口するキングタイガー。
お願いだから通常攻撃は止めてください!
多分、死んじゃうから!
「キングタイガー様」
腹心、そういった感じのモンスターが後ろからキングタイガーに話しかける。
「帝国の騎士がこちらに向かっている、との情報を受けました。
騎士達がきたら面倒臭くなるのでは?」
「グゴォ……騎士が?」
「はい。その騎士団の中にはあのオルティアもいるとかいないとか」
「オルティア……っ! ちっ。あいつが来たら、確かに面倒臭い」
キングタイガーは殺意を俺に向け、
「おい、小僧。命拾いしたな。ここは退いてやる」
助かったー!
「ふん。口だけは一丁前だな。勝てないと思って、尻尾を巻いて逃げるのか」
「こ、小僧……っ!」
「キングタイガー様」
悔しさのあまり歯軋りをするキングタイガー。
しかし部下に止められ、逃走していくモンスターの群れ。
「ア、アキト!」
危機が去ったのを見届け。
母さんが近付いて、俺を抱擁する。
「アキト。大丈夫だったかい?」
「ああ、大丈夫。何も心配しなくていい」
滅ぼされる運命にあった村。
その村を俺はチートスキルで救えたのだ。
謂わば村の英雄となった俺であるが、
(い、生きててよかった……)
内心。
思っていたことは、そんな情けない言葉であった。
『モンスターの襲撃によって滅ぼされてしまったイナーク村。
君はたった一人の生き残りとして、途方に暮れる。
おや? 帝国の方からやって来るあの人達は……?』
井戸に隠れて、キングタイガーをやり過ごすと。
ゲームではそういうナレーションが流れるはずであった。
しかし……、
「アキトがそんなに強かったなんてね」
「怪我はない? どうして、攻撃を受けたのにダメージを受けてないんだ?」
「君は村の英雄だ」
——俺が負けイベントを台無しにしたことによって、滅びの運命から脱却することとなったイナーク村。
誰一人、犠牲が出ていない。
むずがゆい気持ちを覚えながら、俺は村人に囲まれ祝福を受けていた。
(まあ、こういうのも悪くないか……)
キングタイガーにはゲーム時代に苦汁を舐めさせ続けられていた。
最初の負けイベントもさることながら、終盤のダンジョンで出現する際もいくらレベルが高くてもデスアックスで葬り去られるので、幾人かの仲間が犠牲となってしまったのである。
そんなキングタイガーをレベル1で撃退出来るなんて。
これが良い気持ちにならないで、なんと言うのだろうか。
(この世界はゲームだ……)
だが、同時にゲームとは違う異世界なのである。
必敗勇者でチートやバグを使い、最初のキングタイガーを倒してしまう、という試みが取られたことがある。
動画がネット上にアップされ、一必敗勇者ファンとして当然視聴したのだが——。
結果はキングタイガーを倒してしまった時点で、ゲームがフリーズしてしまったのだ。
キングタイガーに勝った際のイベントをスタッフが用意していなかったのである。
(これがゲームならば、村人から褒められるというイベントなんてないはずなのに……)
これこそが、この世界がゲームであり異世界である何よりの証明なような気がした。
(それにしても、何か忘れているような)
心に残るしこり。
確か——この先のイベントは、
「クッ、遅かったか!」
村の入り口から聞こえる声。
鎧に身を包んだ、十数人の集団を見てこの先の展開を思い出す。
『「クッ、遅かったか!」
村にやって来たのは帝国の騎士団。
どうやら、モンスターの群れが出現したと聞いて慌ててやって来たらしいが……』
「ああ、ハルビアの騎士団か」
そこでたった一人の生き残りである俺が騎士団に保護され、ハルビア帝国へと向かう……というのがストーリーの一連の流れだ。
『クッ、遅かったか』
なんて白々しい台詞が吐かれるのも台本通り。
しかし村は滅ぼされていないことから——、
「あれ?」
騎士団の一人が声を上げる。
「どうして滅ぼされていないんだ?」
こいつ、なかなか失礼なヤツだな。